2024年上場企業の夏のボーナス平均支給額は84万円超となり、労務行政研究所による調査開始以来初の80万円台に突入し、賃上げと相まって上昇傾向だ。今年は大幅な賃上げやボーナス支給額のアップと明るいニュースが続いているが、では働く人のすべてがその恩恵を受けられているのだろうか。
この記事では、2024年の上場企業における夏ボーナスの状況と、歴史的な賃上げとなった2024年の春闘の状況を確認する。そのうえで、実際、大幅な賃上げによる恩恵がどの層まで受けられているのかを日本人材ニュース編集部が解説する。(文:日本人材ニュース編集部

【2024年夏ボーナス】平均84万円超と初の80万円台へ。 ボーナスアップと歴史的賃上げの裏にある新事実を解説

目次

  1. 【2024年】上場企業における夏ボーナスの状況
  2. 2024年の春闘、歴史的な賃上げの詳細
  3. 2024年の大幅賃上げ、その裏にある新事実
    1. 大企業と中小企業における賃上げ格差
    2. 若年層と中高年層の間の賃上げ配分の違い
  4. ボーナス平均初の80万円台、誰もが恩恵を受けているわけではない

【2024年】上場企業における夏ボーナスの状況

労務行政研究所が集計した「2024 年夏季賞与・一時金の妥結水準調査」によると、2024年の上場企業114社における夏のボーナス平均支給額は、前年同期比4.6%増の84万6021円となった。

1970年の調査開始以来、夏季一時金として妥結水準が最も高かったのは2023年の79万4008円であり、2024年は初めて80万円台にのぼった形だ。 2024年夏季賞与・一時金の妥結水準における産業別のトップ10は、以下の表のとおりだ。なお、製造業は87万7147円で前年同期比4.3%増、非製造業は71万5856円で同6.6%増となっており、ともに増加している。

順位 産業 夏季賞与・一時金の妥結水準 前年同月比
1位 鉄鋼 96万7800円 0.8%増
2位 輸送用機器 94万6673円 4.9%増
3位 ガラス・土石 93万6889円 4.1%増
4位 電気機器 92万1375円 5.7%増
5位 建設 90万3750円 6.8%増
6位 情報・通信 88万3250円 2.2%増
7位 機械 88万1092円 7.2%増
8位 電力 85万8667円 12.2%増
9位 ゴム 82万1000円 3.5%増
10位 化学 81万6090円 0.5%減

支給月数は、集計社数112社の平均で2.64カ月だった。この数字は、同一企業で見た場合の前年同期(2.58カ月)を0.06カ月上回る形だ。一方、個別企業における月数の最高は5.00カ月(前年同期5.55カ月)、最低は1.40カ月(同1.50 カ月)といずれも前年同期を下回る結果となった。

平均支給月数を産業別に見ると、製造業は2.76カ月と前年同期の2.70カ月から微増していた。また非製造業も、1.99カ月(前年同期1.90カ月)と増えている。

妥結額の推移は、2021年はコロナ禍で71万397円、対前年同月比2.5%減とマイナスだったものの、2022年には76万5888円、同6.5%増と大幅な伸びとなった。2023年も79万4008円、同1.5%増と対前年同期比プラスを維持している。そして2024年は、84万6021円(同4.6%増)と3年連続の増加となった。

なお、この調査は、2023年3月18日~4月9日、東証プライム上場企業(2024年3月31日現在で1651社)のうち、原則として労働組合が主要な単産に加盟している企業を対象に実施したものだ。調査時点で2024年の夏季賞与・一時金を妥結・決定しており、「2024年夏季」「2023年夏季」「2023年年末」の三者の金額または月数が把握できた企業(組合)で、金額集計は114社、月数集計は112社を集計している。

(出所)一般社団法人 労務行政研究所「東証プライム上場企業の 2024 年 夏季賞与・一時金(ボーナス)の妥結水準調査」

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2024年の春闘、歴史的な賃上げの詳細

続いて、2024年3月の春闘を振り返ろう。

2024年の春闘は、33年ぶりの記録的な賃上げ率で始まり、日本の労働市場における転換点になろうとしている。

まず、大企業の集中回答日となった3月13日、労働組合の中央組織の連合の第1回回答集計では賃上げ率5.28%(加重平均)と1991年以来、33年ぶりとなる5%を超えた。第2回集計(3月21日、1466組合)でも、大幅賃上げとなった昨年同時期を1.49ポイント上回る5.25%と高い賃上げ率を維持している。

連合の芳野友子会長も、この結果に対して「ステージ転換にふさわしいスタートが切れた」と高く評価した。また、これまでと違って驚くべきことは、労働組合の要求に対して、満額回答ないし要求額以上の回答を出している企業が多いことだ。

例えば、自動車、電機、鉄鋼など製造業の5つの産業別労働組合で構成する金属労協の場合、48組合のうち定期昇給を含まないベースアップの平均は3月13日の集計で1万4877円だった。そのうち87.5%の組合が要求額以上の回答を得ている。

また、自動車メーカーでも、トヨタ自動車・日産自動車・ホンダ・マツダが満額回答している。トヨタ以外の3社は、2月の段階で満額回答を行った。

一方で非正規労働者の賃上げを促す動きは、実のところ2023年の春闘から始まっていた。具体的には、個人で労働組合に加入する16の個人加盟ユニオンが結集し、2023年1月から非正規春闘2023実行委員会を発足した。そして、2月から本格的な交渉に入っている。

この非正規春闘2023実行委員会の特徴は、ストライキも辞さない姿勢で交渉を行っている点だ。その結果、非正規労働者では、靴小売大手ABCマートや小売大手のベイシアなどの16社から有額回答を得ている。

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2024年の大幅賃上げ、その裏にある新事実

2024年春闘では歴史的な賃上げとなり、多くのニュースやメディアでもその結果がポジティブに取り上げられた。しかし、この賃上げの恩恵を働く人の誰もが受けているかというと、実のところそうでもないようだ。

2つの観点から、大幅な賃上げの裏にある新事実を見ていこう。

大企業と中小企業における賃上げ格差

今年話題になった春闘では、労働組合・連合の定昇込み賃上げ率は5.08%(6月3日、第6回集計)だった。経団連の発表でもベースアップ(ベア)を含む賃上げ率は5.58%(5月20日発表、1次集計)であり、いずれも1991年以来、33年ぶりの高い水準となっている。

ベアだけで3%を超えということは、誰もがインフレをカバーする賃金を受け取れる印象を受けるのではないだろうか。しかし実際は、必ずしもそうではない。ここでいう賃上げ率はあくまで平均であるため、大企業と中小企業の規模間格差が問題になっている。

連合の集計によると、企業の従業員数で定昇込みの賃上げ率を比較すると、以下のように規模間の格差があることが見えてくる。

企業の従業員数 定昇込みの賃上げ率(金額)
1000人以上 5.19%(1万6211円)
100~299人 4.62%(1万2017円)
99人以下 3.96%(9586円)

また、実質的な賃上げであるベアに限定した場合も、以下のように大きな開があることがわかる。

企業の従業員数 ベア(金額)
1000人以上 3.59%(1万1126円)
100~299人 3.25%(8616円)
99人以下 2.85%(7167円)

令和4年6月に総務省と経済産業省が公表した「令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計」によると、2021年(令和3年)の時点で従業員規模が100人以上の事業所は、すべて合わせても1.3%であることがわかっている。それはつまり、日本の労働者の圧倒的多数が99人以下の企業に在籍していることを意味する。

そして、上記の表の数字と照らし合わせてみると、日本の労働者の圧倒的多数のベアが、2023年の物価上昇率3%を下回っている現状が見えてくる。

(出所)総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査 速報集計 結果の概要」

若年層と中高年層の間の賃上げ配分の違い

若年層と中高年層における賃上げ配分の違いも気になるところだ。このことは、世代による賃上げ格差を意味する。

三井住友信託銀行では、「経済の動き~歴史的賃上げも40・50代は負担増で憂き目」(調査月報2024年5月号)を公表している。

この報告では、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の2023年の標準労働者各歳所定内給与額に、今年の連合の賃上げ率(5.24%=第3回集計)のベア率3.63%と賞与引上げ率を乗じ、2024年に受け取る各歳別年収を算出している。

また、2024年のベア率を乗じた金額をベースに収入で異なる税・社会保険料制度を反映した23~24年の可処分所得を試算している形だ。 この試算によって、大卒男性における2024年の定昇込み賃上げ率は、以下のとおりであることが見えてくる。

年代 大卒男性の2024年の定昇込み賃上げ率
~29歳 11.5%
30~39歳 6.7%
40~49歳 4.9%
50~59歳 4.6%

さらにいえば、処分所得ベースの賃上げ率は29歳までが11.3%と、わずかに0.2%しか下がっていないのに対して、40~49歳は4.0%と0.9%も低くなっている。

賃金構造基本統計調査の年齢別調査では、賃上げ原資の若年層への配分が大きく、40代以降の配分が少ないこともわかっている。また、40~50代になると、厚生年金・健康保険料・介護保険料の算定で使われる標準報酬月額が増加することから、可処分所得ベースでも賃上げ効果が薄くなるといえるだろう。

なお、40~50代は、1993年から2005年に入社した就職氷河期世代でもある。 彼ら・彼女たちはなんとか就職できたとしても、入社後も賃金が上がらない生活を送ってきた。そして、今回の春闘でようやく大幅賃上げの時代に突入しても、今度は若年層より配分が低いという憂き目にあっている。

(出所)三井住友信託銀行「調査月報 2024年5月号 歴史的賃上げも 40・50 代は負担増で憂き目 ~可処分所得増は若年層に集中~」

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ボーナス平均初の80万円台、誰もが恩恵を受けているわけではない

2024年の上場企業114社における夏のボーナス平均支給額は、前年同期比4.6%増の84万6021円だった。この数字は1970年の調査開始以来、初の80万円台となった形だ。また、2024年の春闘も33年ぶりの記録的な賃上げ率となり、日本の労働市場における歴史的な転換点になったと報じられている。

ただし、春闘で公開された賃上げ率などはあくまで平均だ。企業の従業員数別でデータを見ると、日本の労働者の圧倒的多数のベアが、2023年の物価上昇率3%を下回っている現状が見えてくる。

また、いわゆる就職氷河期世代に該当する40・50代の多くは、今回の春闘で大幅な賃上げ時代に突入しても、若年層よりも配分が低い状態であることもわかっている。

いわゆるニュースなどでは2024年における夏ボーナスや賃金アップといった明るい話が多く取り上げられているが、実際は、誰もが歴史的な賃上げの恩恵を受けているわけではないといえるだろう。

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