社会保険
(画像=PIXTA)

従業員と企業が折半して支払う社会保険料は、原則として年1回見直しが行われる。しかし、昇給などにより給料が大きく増減する場合は、随時改定により相応の社会保険料に変更することが求められる。

随時改定を行うことで、実際の報酬額に見合わない社会保険料を支払い続けることや、将来の年金額にも大きな影響を及ぼすことを回避できる。この記事では、随時改定の概要や要件、詳しい手続き方法などを解説する。

社会保険の随時改定とは?

社会保険の随時改定を理解するためには、社会保険料が確定するタイミングを押さえておく必要がある。社会保険料を決定する基となる標準報酬月額を知り、随時改定の必要性についても理解を深めておこう。

不定期に社会保険料額を見直すこと

企業と従業員が折半して負担する社会保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる金額を基に決定される。標準報酬月額とは、企業が従業員に対して支払う1ヵ月分の給与額を指し、基本給だけでなく各種手当を含む金額だ。

標準報酬月額が確定するタイミングは、以下の3つに大別される。

1.資格取得時の決定
企業が従業員を雇用した際は、労働契約などの内容に基づいた標準報酬月額を決定する。この標準報酬月額は同年8月まで使用するが、6月1日~12月31日までに資格を取得した従業員の場合は、翌年8月まで使用する。

2.定時改定
2回目以降は、毎年7月に直近3ヵ月(4~6月)の報酬月額を基にした標準報酬月額を決める。これを「定時改定(または定時決定)」といい、定時決定で確定した標準報酬月額は、原則として同年9月から翌年8月まで使用する。

定時改定の対象者となるのは、7月1日時点で健康保険や厚生年金保険の被保険者であるすべての従業員だ。海外出張中や休職中の従業員も、これに含まれる。対象外となる従業員は、以下のとおりだ。

・6月1日~7月1日の間に被保険者資格を取得した人(資格取得時の決定に該当)
・6月30日までに退職した人(7月1日の時点で被保険者資格を喪失している)
・7~9月の間に随時改定をする予定の人
・育児休業等終了時改定をする予定の人

3.随時改定
上記の2つの手続きは、いずれも決まった時期に行われる。しかし、昇給など時期を問わず固定的賃金が大きく変動するような場合は、その都度標準報酬月額の見直しを行わなければならない。これが随時改定であり、見直された月額は次の定時改定まで有効となる。なお、その年の7月以降に改定された場合は、翌年の8月まで使用する。

随時改定される対象はあくまでも標準報酬月額であり、社会保険料は標準報酬月額の変動に伴って決定される。

随時改定が必要な理由

従業員の社会保険料は、標準報酬月額を基に計算される。標準報酬月額の金額が大きいほど、支払うべき社会保険料も多くなる。

しかし、資格取得時の決定や定時決定後に給与が大きく変動した場合、次回の定時決定までに標準報酬月額が変わらなければ、給与額に見合わない社会保険料を支払い続けることになってしまう。将来受け取る年金額にも影響を与えかねない。

そこで、実際の報酬月額に応じた社会保険料を支払えるようにするため、随時改定を実施して適切な社会保険料に変更する必要がある。

随時改定を行うべき3つの条件

以下に挙げる3つの条件をすべて満たしている場合は、随時改定の手続きが必要になる。すべての条件を満たしていながら、随時改定の対象にならないケースも確認しておこう。

【条件1】昇給などによる固定的賃金の変動

従業員の報酬は、固定的賃金と非固定的賃金に大きく分けられる。固定的賃金とは、労働時間や能力などに関係なく、毎月一定の金額が支払われる賃金を指す。非固定的賃金とは、労働時間や能力などに応じて支払われる賃金のことだ。

基本給や月々の変動がない手当などが、前者に該当する。時間外手当や皆勤手当などは、後者に該当する。非固定的賃金の動きに関係なく、固定的賃金の金額が大きく変動した場合は、随時改定の実施を考える必要がある。

固定的賃金の変動は、以下のような原因が考えられる。

・昇給(ベースアップ)や降給(ベースダウン)
・日給から月給への変更など、給与体系の変更
・時給や日給など、基礎単価の変更
・請負給や歩合給などにおける、単価や歩合率の変更
・住宅手当や役職手当など固定的な手当における、追加や支給額の変更

【条件2】3ヵ月間に支給された報酬が2等級以上変動

固定的賃金が変動した月とその後2ヵ月を合わせた、計3ヵ月間の報酬月額における平均値が、変動前の標準報酬月額と比較して2等級以上の差がある場合は、随時改定の手続きが必要となる。

算出の際は、固定的賃金と残業手当などの非固定的賃金を合計して計算する。標準報酬月額の等級に関しては、日本年金機構より公表されている「保険料額表」で確認できる。

厚生年金保険料額表|日本年金機構

なお、平成30年10月に「年間平均の保険者算定」と呼ばれる制度が新たに導入された。この制度は、昇給時期と繁忙期が重なり、実態以上に等級が高まることを回避する目的で定められたものだ。

たとえば、6月までの固定的賃金が月額30万円、残業手当が月額平均1万円のケースを考えてみよう。7月から固定的賃金が月額31万円となり、繁忙期である7~9月の残業手当が月額10万円だった場合、固定的賃金の変動月から3ヵ月間の平均は41万円になる。

従来の制度では、昇給前の標準報酬月額30万円と比較して2等級以上の差があるため、随時改定が行われ、10月からの標準報酬月額は41万円となる。しかし、10月以降の残業手当が再び平均1万円に落ち着いたとしても、この標準報酬月額が継続されるため、実態以上の保険料負担を強いられていた。

実質的には月額31万円の報酬を受け取っている従業員が、月額41万円をベースとした社会保険料を支払うことは、労働者はもちろん、折半で負担する企業側にとっても負担となる。このような状況を是正するために制定された制度が、年間平均の保険者算定だ。

年間平均の保険者算定では、固定的賃金に関しては従来どおり変動月から3ヵ月間の平均を算出するが、非固定的賃金の場合は1年間の平均額が用いられる。非固定的賃金の平均額を割り出す1年間は、変動月からの3ヵ月間と、変動月前の9ヵ月間が対象となる。

【条件3】3ヵ月間の支払基礎日数がすべて17日以上

随時改定を行う条件の3つ目は、固定的賃金の変動月とその後2ヵ月間を合わせた計3ヵ月間の支払基礎日数が、すべて17日以上でなければならないことだ。

支払基礎日数とは、報酬を計算する際の基礎となる日数のことだ。月給制や週休制の場合は、日曜日や休日などもすべて含めた「歴日数」が対象となり、日給月給制の場合は、就業規則などに基づいて事業所が定めた日数が対象となる。

なお、定時決定で報酬月額を算出する場合、アルバイトやパートタイマーなどの短時間労働者は、支払基礎日数の条件が11日以上と定められている。しかし随時改定の場合は、短時間労働者も17日以上でなければならない。