静岡市が主催するアクセラレーションプログラム「静岡市アクセラレーションプログラム」のデモデイが2月22日(木)に開催されました。
静岡市アクセラレーションプログラムは、成長意欲の高い事業者や起業家、外部パートナーとの協創活動によりさらなる事業拡大を目指す事業者へ集中的に支援を行い、静岡市経済の持続的な発展と新たな産業や雇用の創出を目的としています。サポート企業としてEXPACTも運営に携わっており、デモデイのアントレプレナーシップセミナーには、代表の髙地も登壇いたしました。
本記事では、採択企業であるリッパー株式会社の代表である鈴木幹久さんに、起業の背景や事業内容、これからの展望についてインタビューを行いました。
ぜひ、最後までご一読ください。
静岡市アクセラレーションプログラムに関する詳しい記事はこちら↓
https://expact.jp/shizuoka_acceleration/
デモデイの様子はこちら↓
https://youtu.be/GAHZU0HV_b0
ー本日はよろしくお願いいたします。まずはじめに鈴木さんのご経歴やキャリアについてお聞かせください。
私は20代の頃から、国際NGOでSDGsの前身のMDGsの実現に向けた活動に従事していました。当時のグローバルアジェンダは「貧困」で、ジェフリー・サックスの「The end of poverty」がバイブルでした。実際に貧困問題が一定片付き、国連の開発目標が貧困から「環境」に切り替わって今のSDGsがあります。
今はSDGs達成に貢献する事業を通じて、タイヤ粉じんの海洋負荷といった最新のグローバルイシューに取り組むことができ、幸せを感じています。
ですので「Happy people, happy world」を意識し、課題解決に取り組む人が悲壮感漂うようなことにならないよう気を付けています。
ー環境タイヤに着目して起業した経緯についてもお聞かせください。
従事していたIoT試作開発の延長線上で、環境負荷が小さく、新しい街づくりに貢献できる小型の電動モビリティの開発を始めたというのが経緯です。
その後、モビリティの開発パーツの一つだった環境タイヤの完成度が高く、タイヤ環境規制の開始がEUで決定といった世界的な動きが始まり、事業の市場性にも大きな展望が見込める状況になったため、モビリティからの事業転換に至りました。
ー世界的な需要の高まりに柔軟に対応された結果だったのですね。ご出身の静岡県富士市で起業、事業をされていますが地元に対して特別な想いはありますか?
地元富士市は工業の街で、公害と産業という大きなテーマのなかで育ちましたので、清潔なプロダクトづくりをすることに必然性を感じながら、事業に取り組んでいます。
富士市はかつてひどい大気汚染と海洋汚染で有名でした。私自身喘息を患っていましたし、田子の浦港はヘドロの港として有名でした。一方で、富士市のナノセルロースエコシステムは国際的な競争力があり、この地から世界に環境製品を展開することは、突飛な構想ではなく、必然的で合理的な考えだと思っています。
そういった点でも、富士市は持続的に世界の研究開発をリードできる立地だと思っています。
ー富士市の環境に対する認識が、事業に取り組まれる姿勢に反映されていたのですね。都内と比較し、地方での起業はどのようなメリットがあると思いますか?また不足していると感じることがあれば教えてください。
ものづくりなどは落ち着いた環境でできると思いますし、土地・スペースを広く使える点もハードウェア系のスタートアップには向いていると思います。
一方で人手不足という点に関して、東京もそうかもしれませんが、地方ではよりその傾向が顕著ですし、スタートアップで働こうというワークスタイルの人も少ないと感じます。
ー地方でのスタートアップカルチャーを育てていく取り組みが必要だと感じます。今後の事業展開やプロダクトの強化についての計画など、事業に関する今後の展望についてお聞かせください。
主にバイオタイヤへの取り組みをしています。
今月から、実際に静岡市ではレンタサイクル用自転車に装着され道路を走る実証実験をスタートしました。来年からは量産体制に入り、再来年にはヨーロッパへの輸出やより大きいモビリティーへ対応を予定しています。
また現在、港湾事務局さんともお話を進めていて、来年度にはタイヤの試験片を海に沈めて海洋性分解を確認する実験を実施予定ですので、その取り組みにあたって静岡市役所、清水港の皆様にもご協力いただくために調整中です。
ー様々なプロダクトが進行中なのですね。今後の進展がとても楽しみです。リッパー株式会社が目指す今後のビジョンについてもお聞かせください。
引き続き、海の問題やタイヤの環境問題を緩和できるプロダクトを提供していきたいと考えています。
また我々が取り組んでいるナノテクノロジーの開発には、静岡県も一生懸命に取り組んでいますので、エコシステムの力をお借りしながら、お互いに協力し合い、良い影響を与え合っていければと思っています。
ーここからは今回のアクセラプログラムについてご質問させていただきます。まず、応募された理由についてお聞かせください。
静岡市が実施するシェアサイクル(PULCLE)事業で、弊社が進めるタイヤの実証実験をしたかったというのがメインの動機でした。
ー実際にプログラムに参加されてみて、得られた成果や感想についてもお聞かせください。
海洋生分解性の検証について、MaOI、東海大学海洋学部と協議ができましたし、TOKAIケーブルネットワークさんや静岡市さんとシェアサイクル(PULCLE)についてのお話を進められました。
また、静岡市内の別のレンタサイクル事業者とも協議ができたので、非常に得るものが多かったです。
さらに静岡市内のレンタサイクル会社の方ともお話ができたことや、タイヤの着色料についてJAさんとも色々とお話ができたので大変有意義でした。
ー有益な交流や進展が沢山あったのですね。プログラムへの参加前後で変化を感じた点についてもお聞かせください。
今回のアクセラプログラムに参加したことで、起業家に向けた壁打ちなどをされているゼロワンブースターさんともお話ができ、弊社が開発しているゴムの利用先や別の用途開発について話ができましたし、環境インパクト算出について専門家を紹介いただいたりなど、色々とお話をすることができたので良かったです。
ー今静岡市をはじめとして、市や県でもスタートアップを支援する動きが活性化しているタイミングだと思いますが、事業者としてどのように捉えていますか?
既存企業への産業政策だけでなく、これからの起業やスタートアップ支援も重要な産業政策だと思っています。
今あるほとんど全ての企業にも、かつてはスタートアップだった時期があるので、多産多死という視点は結構大事だと思います。特にこの多死といかに向き合えるかがスタートアップ産業政策の肝な気がします。
ですので、市や自治体が主体的に動かれているというのは、我々事業者にとって大変ありがたいです。静岡県内の自治体においても、浜松市はスタートアップ推進課を立ち上げるなどの対応をされていますが、私としても延命処置の経済政策だけでなく、新しい種を育てていくような動きが先々に繋がると思うので、富士市役所の方にも色々と働きかけをしています。
ー様々な取り組みを実施されているのですね!県、ひいては国全体にこのスタートアップの流れが広がっていけば、イノベーションもより加速しそうなので今後の展開が楽しみです。
そうですね。2024年3月が盛り下がっていたなと、5年後、10年後に言われるくらいこの動きを盛り上げていければと思います。
富士市にも歴史ある製紙工場などが多く、そういった企業と産業政策は結びついていますが、これらの企業も最初はみんなスタートアップだったわけなので、当たり前ですがそういった観点を持って活動していくことが大切だと考えています。
ー最初はみんなスタートアップだった。当たり前ですが改めてその事実を認識しました。まさに初心忘れるべからずですね。では最後に、今後、静岡市が実施するスタートアップ支援プログラムへの参加を検討される方に一言お願いします。
迷ったら前へ出るのが良いのではないかと思いますので、興味があれば応募されてみてはと思います。
次回のプログラムから施策も色々変えていくとお聞きしているので、内容がさらに充実していけばいいなと思っています。
わからないところがあれば主体的に聞きに行き、自分が盛り上げてやろうという意気込みで参加されると得られるものも更に多いと思います。
ー脱炭素化を進めることが、持続可能な社会を実現することや、より良い形で次世代へとバトンを渡すことに繋がると思いますので、バイオタイヤ強化材はその変化の鍵だと感じました。今回のインタビューはここまでとなります。ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?富士市で育ち、国際NGO団体に従事された経験や、環境問題に対する鈴木さんの認識が、事業への姿勢に反映されていると感じましたし、バイオタイヤのもたらす新たな可能性についてこれからも期待したいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
[会社概要]
【会社名】リッパー株式会社
【URL】https://lipper.io/jpn/
【設立年月】2020年9月
【代表者】鈴木幹久