※本稿は寄稿者の個人的見解に基づく原文を掲載したものであり、THE OWNERの見解を示すものではありません。
新しく事業を始めるときや起業をするときにマーケティングの知識は必要不可欠と考える人が多いのではないだろうか?実際、少し検索をかけるだけで創業時のマーケティングの重要性を説くサイトはたくさんヒットする。
しかし、長年この分野に携わった身からすると、難しく考えすぎており、それにより逆に成功確率が下がってしまっているようにも感じられるのも事実なのだ。今回は、可能な限り創業時に本当に必要なマーケティング知識とは何なのかという観点でお伝えしていきたい。
マーケティングがカバーする領域
“マーケティング”で検索すると、マーケティング分析、マーケティング施策、マーケティングツールなど、様々なワードに“マーケティング”がくっついていることがわかる。これらをひっくるめてマーケティングと考えられることが一般的だが、実際のビジネスに落とし込むと、それぞれ全く違う領域の話になることにお気づきだろうか。
例えば、マーケティング分析は、経営戦略や営業戦略、商品戦略など、これからどうしていこうかという決断をするための材料として行われることが一般的であり、ビジネスにおいては上流工程の部類に入る。
同様に、マーケティング施策とは、策定された戦略を実行に移す際に、「実際に何をやるのか?」という戦術を作成する段階であり、マーケティングツールはその時に使うツールのことだから、かなり下流の部類に入る。
以上のように、“マーケティング”という言葉を起点に考えると、関連する分野が多岐にわたり、なにをどこまでやらないといけないのか迷宮入りしてしまうのである。
マーケティング=新規顧客獲得方法
どうすれば迷宮入りしなくて済むのか。その答えは、マーケティングを新規顧客獲得方法と読み変えることである。そして、よほどの大資本でスタートしない限り、創業時において、新規顧客獲得方法を起点にビジネスを組み立てることが成功の近道なのである。
「よほどの大資本でスタートしない限り」と書いたが、まずこの前提条件について説明したい。大資本でスタートできる創業とは、一気に広告展開や営業スタッフの採用などといった資本を投下して市場を取りに行けるということである。大企業が行う新事業などがこれに当たる。この場合、重要なのは、「どこの市場が空いているのか」ということになる。取りに行けるだけの資本はあるのだから、どの市場を的として突っ込んでいくのかが重要になるということだ。
その狙いの精度を上げ、より資本効率よく市場を取るために、マーケティング分析や緻密なマーケティング施策の立案、効果的なマーケティングツールの選定と言ったことが必要になるだろう。その際、黒字化は5年後など、目先の利益は度外視という経営方針が取られることも多い。
しかし、自己資本などの小資本で起業する状況の場合、当然ながら市場を一気に取りにいくのは不可能であり、まずは日々の生活を担保することが喫緊の課題である。つまり、新しい顧客を獲得できるかどうかが生命線であり、それこそが一般的な創業期におけるマーケティングである。マーケティング分析を悠長にやっている暇はないし、分析したところでそこに一気に攻め入るだけの企業体力もないのだ。
よって、マーケティング=新規顧客獲得方法と読み替え、「どうやったら効率的に新規顧客を獲得できるか」について集中的に考えて欲しい。もっと踏み込むと、新規顧客を獲得するためには、初回接触しなければ始まらないわけなので、「どうやったらより少ない時間と手間で、よりたくさんの新規顧客候補と出会えるか」と考えることが、創業期でいちばん重要なマーケティングの考え方なのである。
そして、なぜこう考えることが成功の近道なのか。それは、「どうやったらより少ない時間と手間で、よりたくさんの新規顧客候補と出会えるか」と考えることで、自ずと効果的なマーケティングツールの選定が進んだり、他社とは違う自社のウリを考えたりと、他のマーケティングが関わる分野にも必要最低限の範囲で考えが張り巡らせられるからである。
新規顧客獲得方法を考える際の3つの切り口
実際に、新規顧客獲得方法を考える際は3つの切り口で考えを深めていく。
切り口1:自社のビジネスの商圏
例えば、町中華の商圏は、徒歩10分圏内くらいからお客さんはやってくると考えられる。一方、一人当たり1万円を超えるような高級店であれば、そのお店目当てで1時間以上かけてでも来店する人や中には旅行の目的にする人もいるかもしれない。
企業向けのビジネスも同様である。コピー機などのOA機器を販売する会社と、インターネット上でサービス提供が完結する企業では商圏が全く異なる。前者は公共交通機関で1時間前後でいける距離、後者は言葉が通じれば世界中どこでも商圏だ。
新規顧客開拓をするにはまずは知ってもらうことが重要なわけだが、どの範囲の人々に知ってもらわないといけないのかをしっかり把握することがまずは重要である。極端な例えだが、インターネット上のサービスで全国を商圏とできる事業なのに、〇〇区の地域広報誌に広告を載せるというアピール方法だと効果がかなり下がってしまう。
新規開拓方法を考えるに当たり、まずは自社のビジネスの商圏を把握しよう。
切り口2:自社のビジネスの顧客像
次に抑えておきたいのは自社のビジネスの顧客像だ。
顧客像と聞くと、一般的に法人向けのビジネスなのか個人向けのビジネスなのかという分け方がすぐに想起されると思うが、あの考え方を持ち出してしまうと、ベストな新規顧客獲得方法にたどり着けない。
なぜかというと、法人向けのビジネスであれ、結局買ってくれるのはその中の“人”だからだ。 その“人”にまず知ってもらうにはどうしたら良いのか。それを考える段階で重要なのは、ビジネス相手が法人なのか個人なのかということではなく、例えば、企業の営業部門の責任者の役に立つサービスなのであれば、「営業責任者は30代~50代の男性が多そうだな」と、ターゲットとなる部署に所属していそうな顧客プロフィールを連想することだ。
この連想をすることで、そのような担当者がよく見るメディアはなにか?という観点で広告などの出稿先が絞られてきたり、中年男性向けのデザインが良いのか、女性ウケするデザインが良いのかと言ったことも見えてくる。
切り口3:自社のビジネスの単価
薄利多売の商品と1つ数百万円する商品では、打ち出すイメージが全く変わってくることは想像してすぐわかるだろう。また1件の成約でもたらされる利益が変わるということは、1件の成約を獲得するために使うことができる新規開拓予算も変わってくる。
このように、1成約当たりの単価を把握しておかないと身の丈に合わない新規開拓方法を採用してしまったり、逆に、もっと投資できるのにそれをしないことで事業の立ち上げが遅れてしまうということが起こり得る。
新規顧客獲得方法を考えることでマーケティング施策を強化
では、この3つの切り口に沿って新規顧客獲得方法を考えることでマーケティング戦略が固まっていく様子を感じていただきたい。
まず、自社のビジネスの商圏を想定する。これにより、どのようなマーケティングツールを使うことが商圏をきちんとカバーするのに最適なのか、検討が進む。
次に、自社のビジネスの顧客像を想定する。これにより、どのような人をターゲットにするのかわかってくるので、マーケティングツールに載せるべきメッセージの方向性が決まってくる。また、ここで決まった顧客像に合わせて新たに活用すべきマーケティングツールも見えてくるかもしれない。
最後に、自社のビジネスの単価に着目し、これまでに立案したマーケティング施策が単価とマッチしているか、つまり、高級路線なのにキャッチーになりすぎてないか、その逆もまた然りという状況になっていないかを確認する。
このように進めていくと最短経路でマーケティング施策、戦略が固まっていくのがおわかりいただけるのではないだろうか?
最後に、競合調査についての記述が無いことに違和感を覚えた方がいるかも知れないので、その点を補足しておく。競合調査は、商圏を調べたり、顧客像に合わせてメッセージやマーケティングツールの活用を検討したりする段階で兼ねることができるというのが、私の考えである。
マーケティング施策、戦略を固めようとしているわけなので、それなりにしっかりリサーチをするだろう。その過程で「似たことをやってるな」と思う企業が出てくるかどうか。出てくればそれが競合であり、その企業が発信しているメッセージとは異なるメッセージを出していく必要がある。逆に、そのような企業が出てこない場合は、競合については考えなくても良い。なぜなら、一般消費者もなかなかたどり着けない企業であるのは間違いないからだ。そのような企業を意識して、自社の伝えたいことを変えてしまうよりは、気に留めずに自社のメッセージをストレートに発信していこう。
このように、新規顧客獲得方法からマーケティングを考えることで、迷宮入りすることなく、新規事業や起業を成功に導いて欲しい。