役員報酬,変更手続
(画像=PIXTA)

役員報酬を税務上の損金として算入させるためには、厳しい税務上の要件をクリアする必要がある。税務上、役員報酬を損金に算入できるのは、原則として事業年度の開始時から3ヵ月以内の変更に限られる。事業年度の開始時から3ヵ月を過ぎてからの変更は、役員の職制上の立場の変更や経営の悪化など、やむを得ない事情があるケース以外は、税務上の損金算入は認められない。今回は、税務上の損金算入が認められるための役員報酬変更の条件、および役員報酬を変更するための手続について紹介する。

目次

  1. 役員報酬の変更は原則として事業年度の開始時から3ヵ月以内のみ損金算入が可能
  2. 損金算入が認められる役員報酬変更の条件
    1. 1. 臨時改定事由の具体的な内容
    2. 2. 経営悪化事由の具体的な内容
  3. 役員報酬を変更するための手続方法
    1. 1. 株主総会役員報酬について決議する
  4. 2. 標準月額報酬の等級の上下に応じて必要な届出を行う
  5. 役員報酬の変更タイミングに関する事例
    1. (1)年度開始時の変更
    2. (2)事業年度の途中での変更
  6. 役員報酬は変更の必要がないよう慎重に決定しよう
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

役員報酬の変更は原則として事業年度の開始時から3ヵ月以内のみ損金算入が可能

役員報酬の変更は、原則として事業年度の開始時から3ヵ月以内に行った場合にのみ、損金に算入できる。それ以降の変更は、原則として税務上の損金算入は認められない。

このように、役員報酬変更による税務上の損金算入に厳しい制約があるのは、税務上の利益操作を防ぐためだ。仮に、役員報酬をいつでも自由に変更できるとしたら、多額の利益が出ていた年度には、期末までにその利益に相当する金額を役員報酬として支給することで利益を圧縮することができる。会計上はそのような処理を行うことは可能であるが、税務上も認められるとすると本来納めるべき法人税を支払わないで済むことになってしまう。

このような利益操作を防ぐため、毎月の役員報酬は「定期同額給与」として支払われるもののみが、税務上の損金に算入できることになっている。定期同額給与とは、以下に該当するものだ。

1. 支払い時期が1ヵ月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度において毎回の支給額が同額であるもの

2. 支給額の改定が以下に挙げるものである場合には、改定後から事業年度終了までの毎回の支払額が同額であるもの

【定期同額給与として認められる役員報酬の改定事由】
(a) 事業年度の開始から3ヵ月以内に行われる支給額の改定
(b) 役員の職制上の地位の変更や、役員の職務内容の重大な変更、その他これに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりなされた支払額の改定
(c) 法人の経営が著しく悪化したこと、その他これに類する理由(経営悪化事由)によりなされた支払額の変更

出典:国税庁「タックスアンサー」『No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)』

事業年度の開始時から3ヵ月以降における、役員報酬の変更は、増額だけでなく減額した場合も原則として、損金算入が認められないことになっている。役員報酬の増額および減額のそれぞれについて、損金算入がどのように否認されるのかを、3月決算すなわち、事業年度の開始時が4月の会社のケースで見てみよう。

  • それまで毎月30万円だった役員報酬を、事業年度の開始時から6ヵ月後の10月から毎月60万円に増額した場合:10月から年度末の3月までの増額した30万円について損金算入が認められない。

  • それまで毎月60万円だった役員報酬を、事業年度の開始時から6ヵ月後の10月から毎月30万円に減額した場合:事業年度の開始時の4月から9月までの役員報酬の、その後に減額した額に相当する30万円ずつについて損金算入が認められなくなる。

損金算入が認められなくなった場合、増額あるいは減額した金額に対して法人税が発生する。他方で、税務上、会社の役員報酬として損金算入ができなかったとしても、増額した場合は役員個人に対する所得税は増えることになるので注意しよう。

損金算入が認められる役員報酬変更の条件

前述のとおり、役員報酬の変更を行った場合には、原則として税務上の損金算入は認められないとされているが、例外的に損金算入が認められるケースがある。具体的には「臨時改定事由」「経営悪化事由」に該当する場合だ。これらについて、詳しく見てみよう。

1. 臨時改定事由の具体的な内容

臨時改定事由とは以下のような事由をいう。

「役員の職制上の地位の変更や、役員の職務内容の重大な変更、その他これに類するやむを得ない事情」
出典:国税庁「タックスアンサー」『No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)』

具体的な内容は、以下のとおりだ。

・役員の職制上の地位の変更
「役員の職制上の地位の変更」とは、会長や社長、副社長、専務、常務などの、会社の定款あるいは株主総会の決議により定められた役員の地位の変更を指す。一般的に役員の地位が変更されると、それにともなって役員報酬も変更されるため、臨時改定自由として認められる。

・役員の職務内容の重大な変更
「役員の職務内容の重大な変更」とは、「役員が病気やケガなどで入院した」「合併や会社再編など組織の再編成があった」などの理由により、役員の職務内容が事業年度の当初に予定していたものから変更されることを指す。ただし損金算入は、「報酬を変更せざるを得ないほど職務内容が大きく変わった場合」のみ認められる。

・その他これに類するやむを得ない事情
「その他これに類するやむを得ない事情」とは、「会社や役員が不祥事を起こしたことにより行政処分を受けた」場合などが当てはまる。不祥事を起こした場合に役員報酬を一定期間返上することは慣習として定着しており、「やむを得ない事情」として認められる。

2. 経営悪化事由の具体的な内容

経営悪化事由とは、「法人の経営が著しく悪化したこと、その他これに類する理由」をいい、役員報酬を減額する場合のみ認められている。
出典:国税庁「タックスアンサー」『No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)』

「会社の財務諸表の数値が相当に悪化した」「倒産の危機に瀕した」などが、これに当てはまる。「計画より利益率が下がってしまった」「資金繰りが一時的に悪化した」などは、「法人の経営が著しく悪化した」として認められない。

「その他これに類する理由」とは、経営の悪化にともない、株主や取引銀行、取引先などの利害関係者との関係上発生した、役員報酬を減額せざるを得ない事情を指す。具体的には、以下のようなものがあるとされている。

・株主との関係上発生する事情
株主との関係上、経営悪化の責任を役員として示すため、役員報酬を減額せざるを得ないケース。

・取引銀行との関係上発生する事情
経営が悪化して、取引銀行と借入金返済のリスケジュール(金利の引き下げや返済期間の延期など)を協議した際、取引銀行から役員報酬の減額を要請されたケース。

・取引先との関係上発生する事情
経営が悪化したため、取引先などから信用を得るために事業改善計画が策定され、その計画のなかに役員報酬の減額が盛り込まれたケース。

出典:国税庁『役員給与に関するQ&A』

役員報酬を変更するための手続方法

次に、役員報酬を変更するための手続方法を見ていく。役員報酬を変更するためには、事業年度の開始時から3ヵ月以内に行う場合でも、4ヵ月目以降に臨時改定事由や業績悪化事由によって行う場合も手続は同じで、以下のとおりだ。

  1. 株主総会で役員報酬について決議する
  2. 標準月額報酬の等級の上下に応じて必要な届出を行う

ただし定期同額給与を変更する場合は、税務署への届出は不要だ。

1. 株主総会役員報酬について決議する

まず、役員報酬を変更することを株主総会で決議を行う必要がある。役員報酬は、株主総会の決議により定めることが会社法361条で定められているからだ。

株主総会における決議は、議事録を作成して保管しておく必要がある。税務調査の際、議事録がないと、決議そのものが行われた証拠がないとされ、場合によっては役員報酬の損金算入が否認され、追徴課税などが発生することもある。

株主総会の議事録は、以下のように作成する。

【株主総会議事録のテンプレート】

役員報酬の変更手続どうやる?税務上認められる変更条件を徹底解説!

2. 標準月額報酬の等級の上下に応じて必要な届出を行う

役員報酬を増減したことで標準月額報酬が変わる場合は、社会保険に関する届出が必要だ。標準月額報酬は都道府県ごとに決められており、以下のページで確認できる。

全国健康保険協会『都道府県ごとの保険料月額表』

標準月額報酬の「等級」が2等級以上変動する場合は、「被保険者報酬月額変更届」の提出が必要になることがある。また5等級以上変動する場合は、以下の書類も必要になる。

  • 株主総会の議事録
  • 所得税源泉徴収簿または賃金台帳のコピー

届出にあたっては、年金事務所や社会保険労務士に必要書類やその記載内容を確認するといいだろう。

役員報酬の変更タイミングに関する事例

役員報酬の変更は、事業年度のいつに行うかによってその対応が異なってくる。以下では、具体的な事例をあげてそれぞれ確認してみたい。

(1)年度開始時の変更

例えば、3月決算会社の代表取締役であったAが、株主総会を機に代表権のない会長に退き、取締役Bが代表取締役に選任するようなケースを考えてみよう。

それまで、Bの役員給与は月額50万円であったが、代表取締役就任から前任者Aと同額の月額100万円に増額改定する旨の決議を行った。

年度開始時の役員報酬の変更手続きは最も適切なタイミングであり、一般的な役員報酬の変更が行われることが多い。このタイミングでの変更は、本年度の役員報酬額を検討して総額を株主総会で決定し、役員報酬の変更を議事録として残して新しく支給を行うなど、基本的に適切な手続きに従う限り問題なく損金算入できる。

(2)事業年度の途中での変更

次に、事業年度の途中で役員報酬の変更を行うケースではどうだろうか。

①役員報酬を増額するケース

例えば、3月決算である会社の代表取締役であったAが急逝したしたため、10月1日に臨時株主総会を開催し、取締役Bを代表取締役に選任した。同時にBの役員給与を、月額50万円から前任者Aと同額の月額100万円に増額改定する旨の決議を行ったとする。

この場合、当社がBに支給する役員給与は損金不算入となってしまうのであろうか。

結論からすると、Bに対して支給していた50万円の役員報酬と、代表取締役に就任した後の100万円は、それぞれ定期同額給与として損金算入が認められることになる。

より詳しく解説すると、代表者の急逝に伴う役員Bの職制上の地位の変更により、事業年度の途中に行った定期給与額の改定であることから、「臨時改定事由」による定期給与額の改定に該当すると考えられる。

したがって、以下の2つを同時に満たせば、増額改定前の定期給与と増額改定後の定期給与、すなわち50万円の支給と100万円の支給のそれぞれが定期同額給与に該当するため、税務上の損金算入が認められる。

①当該事業年度開始の日から改定後の最初の支給時期の前日までの間の各支給時期における役員Bの定期給与の額が50万円
②改定前の最後の支給時期の翌日から当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における役員Bに係る定期給与の額が100万円

なお、事業年度途中の役員報酬の増額についても臨時株主総会を開き、役員報酬変更の決定を株主総会議事録に残しておく必要がある。また、取締役会設置会社であれば、取締役会議事録に取締役Bの代表取締役選任の承認決議とともに、変更後の役員報酬額の承認についても議事録に記載する必要がある点も押さえておいてほしい。

(参考:国税庁HP「役員の文章変更に伴う増額改定(定期同額給与)」

②役員報酬を減額するケース

例えば、3月決算である会社の業績悪化に伴って、年度途中に代表取締役Aが月額100万円であった役員報酬を半分の50万円にしたというケースを考えてみたい。

この事例は、会社業績の悪化に伴って報酬を減額した事案であることから、「業績悪化事由」に該当する可能性がある。ただし、株主、債権者及び取引先などの第三者である利害関係者との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない事情が生じたことが必要となるため、客観的な事情も考慮される点に注意が必要だ。

役員報酬の支給に必要な資金も含め、会社全体の資金繰りの見直しなどを金融機関から求められているようなケースでは、先に触れた業績悪化事由として認められることになるだろう。

なお、役員報酬を増額したケースと同様に、年度途中での役員報酬の変更には株主総会が必要となる。臨時株主総会を開き、役員報酬の減額の決定を株主総会議事録に残す必要があるほか、取締役会が設置されている場合には、取締役会での報酬減額決議も残しておかなければならない。

役員報酬は変更の必要がないよう慎重に決定しよう

役員報酬は、会社の業績と法人税等及び社会保険料等との兼ね合いや同業他社の支給動向、株主及び従業員が納得できるという点にも配慮しながら、総合的に判断して決定する必要がある。事業年度の途中で、慌てて変更しなくても済むように、支給前に慎重に検討しておく必要があることは言うまでもない。

役員報酬については、経費にしているから当然に損金算入されることにはならない。損金算入ができない場合には、その金額に対応する法人税等の税金が発生することになるため、十分に注意したい。

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