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「会社を売却したら、社員はどうなるのか…」。そう考えてしまい、会社売却に踏み切れない経営者は多いだろう。会社を売却した後、社員の雇用は維持されるケースが多い。むしろ、社員の流出を防ぐ方策が必要になることがある。この記事では、会社を売却すると社員はどうなるのか、また社員の流出を防ぎ、雇用を維持するためにはどうするべきかを見ていこう。

会社売却後、社員の雇用は維持されることが多い

会社の売却後も、社員の雇用は継続されるケースが多い。その理由は、以下の3点だ。

  1. 買い主が人材確保を目的として会社を買収することが多いため
  2. 経営者が雇用の維持を会社売却の条件としていることが多いため
  3. 雇用契約が維持されるため社員を簡単にはリストラできないため

理由1 会社の買収は人材確保を目的として行われることが多いため

会社の価値は、金銭的には資産や収益などで計られる。しかし、資産を形成し収益を上げる原動力は、ほかでもない社員だ。買収側の企業は、買収を判断した時点で社員の働きや技術などを評価していることになる。社員の働きや技術に期待できない企業を買収しても、買収側の企業にとってはリスクでしかないからだ。

一般的に、会社の買収は新規事業の拡大などを目的として行われる。事業を拡大する際は、人材が不可欠だ。しかし、その人材を一から育成するためには、多くの費用や時間、労力がかかる。そこで、事業の拡大を短期間で実現するために、買収が行われることになる。

買収側の企業は、買収する会社の社員をそのまま活用することを考えているケースが多い。また、買収する会社の社員の士気を下げないために、場合によっては待遇の改善が図られることも少なくない。

理由2 経営者が雇用の維持を会社売却の条件としていることが多いため

中小企業白書(2004年版)によれば、中小企業の経営者は会社の売却先を以下のように考えている。

従業員の雇用を保障しないが企業価値を高く評価する会社に売却したい21.5%
企業価値の算定額は低いが従業員の雇用は保障する会社に売却したい69.6%

出典:中小企業白書(2004年版)第3節 事業売却による中小企業の承継にかかる論点

会社を売却する際、社員の雇用維持を重視する経営者が圧倒的に多いことがわかる。社員の雇用維持を会社売却の条件に含めれば、売却後に買収側の企業が社員をリストラすることはできない。

理由3 雇用契約が維持されるため社員を簡単にはリストラできないため

日本の労働法では、そもそも会社は社員を簡単にリストラできない。労働法は社員の解雇を厳しく制限しており、解雇について以下のように定めている。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
出典:労働契約法第16条

「会社に不要」
「仕事の能力が低い」
「遅刻や欠勤が多い」
「失敗を犯した」

などの理由で社員を解雇することは、認められない。

また会社の売却は、一般的に株式譲渡によって行われる。株主が変わるだけなので、会社と社員の間で結ばれた雇用契約は、原則としてそのまま維持される。したがって、会社売却を理由とした解雇や賃金の引き下げなどは、基本的にはないと言える。

会社売却は社員のメリットになることもある

会社が業績不振に陥った場合は、社員を整理解雇しなければならなくなることがある。また、会社が倒産して社員が職を失うこともあり得る。しかし、経営が安定した企業に会社を売却することができれば、社員の雇用が守られる確率は高くなる。

一般的に、買収を希望するのは大企業だ。買収によって大企業の傘下に入ることで、社員の待遇やキャリアが向上する可能性も十分ある。

むしろ社員の流出を防ぐための方策が重要

このように、会社の売却においては売却後に社員がリストラされることは少なく、雇用が維持されるケースが多い。むしろ、社員が自ら退職し、流出してしまうことを防ぐことのほうが重要になる。

会社を売却する際に社員が流出する主な理由には、以下のようなものがある。

  1. 会社売却に反発する
    会社の売却は、社員にとっては一大事だ。中小企業の社員は、社長に愛着を持っていることが多い。その社長が交代し、別の会社の傘下に入ることは、社員に少なからず負担をかけることになる。これが会社に対する不信や不安につながり、社員が自ら退職を選ぶことがある。

  2. 売却先の企業になじめない
    売却先の企業になじめないことで、社員が辞めてしまうこともある。なじめない最大の理由は、企業文化が異なることだ。たとえば、老舗企業がベンチャー気質の強い企業に売却され、売却先企業の実力主義になじめないケースがある。また、小売チェーンの独立会社が競合の大企業に売却され、自社ブランドが競合店のものに置き換えられたことに、社員が拒絶感を覚えるケースもある。

これらの理由で社員が流出することを防ぐためには、以下のような方策が必要になるだろう。

  1. 会社売却の情報開示は段階を踏んで慎重に行う
  2. 会社売却後の社員のことを考えて売却先企業を選ぶ

1. 会社売却の情報開示は慎重に行う

会社の売却に反発して社員が流出することを防ぐために、売却の情報開示は慎重に行いたい。

情報開示の時期は、売却契約の締結後が望ましい。一般的に、会社売却に対する社員の反発は契約前に大きくなる。反発することで、売却を阻止できるかもしれないと期待するからだ。契約が決まってしまえば、反発する社員は少なくなる。決まったことに対して反発すれば、自ら退職するしかなくなるからだ。

情報開示を段階的に行うことも大切で、まずは取締役に伝えるべきだ。その後中間管理職に伝え、その後に全社員に発表する。発表後は、中間管理職によるフォローも必要になるだろう。株式会社の場合は、全社員への発表後、株主総会で説明をすることになる。

2. 会社売却後の社員のことを考えて売却先企業を選ぶ

売却後の社員の雇用や待遇について確認することはもちろん、売却先企業の企業風土が自社の社員に合うかどうかも検討すべきだろう。中小企業の社員は、大企業のドライな文化に拒否反応を起こすことも少なくない。

また、売却後の経営方針について、売却先候補の社長に直接聞いてみることも必要だろう。上述の小売チェーン店のケースなら、「自社ブランドに変更して営業する」と回答するだろう。これによって、「それを社員がどう思うか」を考えることができる。

事業譲渡の場合には雇用条件が変わるため注意が必要

ここまで、会社の売却における社員の処遇について見てきた。会社売却においては、社員の雇用は基本的に維持される。しかし「事業譲渡」では、より慎重に手続きを進めなければならない。

会社の売却においては、会社と社員の雇用契約は原則として維持される。それに対して会社の事業の一部を譲渡する場合は、その部門の社員は現在の会社を辞め、新たな会社に転籍することになる。したがって、買収側の会社と雇用契約を新たに結ぶことになるのだ。

また事業譲渡では、譲渡先企業は何を受け入れ、何を受け入れないのかを自由に決めることができる。したがって、受け入れる社員を選別することもできるのだ。

事業譲渡を行う際は、社員の雇用や待遇について、譲渡先企業との調整が重要になる。また事業譲渡では、会社売却の場合よりも社員の動揺についてケアする必要がある。自社と社員、譲渡先企業の三者で、説明や説得を個別に行う必要が出てくることもあるだろう。

会社売却後に社員がリストラされるケースは?

会社売却後に社員が解雇されたり、減給されたりするケースは少ない。しかし、「事実上のリストラ」が行われることはある。

たとえば、通勤に2時間以上がかかる、あるいは転勤しなければならない場所に勤務地が変更されることだ。家族がいる社員にとっては受け入れることが困難なので、退職を選ばざるを得なくなる。

事実上のリストラを防ぐためには、売却先候補の企業と交渉する際、相手が誠実であるかどうかをしっかりと判断する必要がある。

会社の売却は社員のことを考えて慎重に進めよう

会社の売却は、社員に大きな影響を与えることになる。売却後の社員のことを考えて、手続きは慎重に進めなければならない。ただし経営不振によって社員を解雇したり、倒産したりするよりは、会社売却を早期に決断するほうが社員のためには望ましいこともある。会社売却は、慎重かつ大胆に行うことが必要と言えるだろう。

文・THE OWNER編集部