譲渡をお考えのお客様は、初めて会社の譲渡を検討される方が大半です。そのため検討段階では、様々なご質問が寄せられます。
本記事では、2023年4月に行われたセミナーの中から、ご参加の経営者の皆様から寄せられた質問と、当社コンサルタントの回答を抜粋してご紹介します。
Q.会社を譲渡した後、社長の引継ぎ期間(ロックアップ)の役職について
参加者: 社長が譲渡後も継続するM&Aの場合、譲渡した後の引継ぎ期間(ロックアップ期間)の時、譲受け企業の社員として働くことになるのでしょうか。
龍石: ご質問ありがとうございます。株式を100%譲渡するため、経営権は譲受け企業に代わりますが、社長様は「子会社の社長」という立場で継続されるケースが、一般的には多く見られます。
もちろん、ケースバイケースですので、社長様の要望によって「代表取締役社長」「取締役」「会長」など社長様の要望に合わせて、譲受け企業と調整させていただく形になります。基本的にはM&Aで変わることは「資本構成が変わる」つまり所有者が変わるということなので、役割、立ち位置、役職は変わらないケースが多いです。
Q.引継ぎ期間(ロックアップ)について希望を出せるのか
参加者: 引継ぎ期間はどのくらいが良い、という希望は譲渡オーナー側から出せるのでしょうか。
龍石: はい、希望は出せますが、譲受け企業様側は「5年、10年お願いしたい」と考えているケースがあります。特に譲渡オーナー様のご年齢が若い場合、そのお力添えを頼りにしている部分が大きいため、そうしたギャップが生まれます。
一方で、特に若い譲渡オーナー様は「次のビジネスを始めたい」と、引継ぎに短期間の希望を出される方もいらっしゃいますので、期間についてはあらかじめ条件交渉を行う形になります。
このように、直接相手企業に言いづらい条件部分の調整・交渉において、我々仲介会社は間に入り、実現に向けてサポート致します。
Q.株主が変わると、役職はそのままでも役員報酬が変わるのか
参加者: 今までは自分が株主として役員報酬を自由に決めていたけれども、新しい株主によって決算の後に「役員報酬はこのくらいで」と変更が入る可能性があるのでしょうか。
龍石: 役員報酬もあらかじめ、交渉条件の中に入れて調整を行っていきます。そのためもちろん変更の可能性は大いにあります。
譲渡オーナー様が受け取っていた役員報酬の金額を、譲受け企業様側の規定として支払うのは難しい、と判断されることがあります。
岩間: その場合、例えば役員報酬は譲受け企業側様の提示額に合わせてもらい、差額分を株価に乗せてもらった、というケースもあります。
このように条件を1つひとつ洗い出して、あらかじめ条件交渉を行っていきます。
Q.引継ぎ期間中に、業績が下がってしまった場合、ペナルティが発生するのか
参加者: ロックアップ期間に、例えば自社の業績が下がってしまい、譲受け企業側が予想していた未来が描けなかった場合、譲渡オーナー側にペナルティーは発生するのでしょうか。
龍石: こうした内容も、最終契約書に条件が記載されます。
譲受け企業が、譲渡対価を支払う方法には大きく2つありまして、1つは譲渡日に全額を支払う方法です。もう1つはアーンアウトと言って、例えば「譲渡価額(株価)の7割を譲渡日にお渡しします。残りの3割は利益が続いたらお支払いします」と、一定の条件に沿って支払う方法です。
このアーンアウトの場合、「利益が達成できなかった場合、支払いが発生しない」と取り決めを行うケースも場合によってはあります。
最終契約書において、M&Aにおける譲渡対価をどのタイミングで、いくら支払われるということが明記されているため、「譲渡日に全額支払われたものの、利益達成ができず後からペナルティーが発生する」という事態になることは、基本的にありません。
岩間: また、M&Aにおいて「表明保証」というものがあります。譲渡企業が譲受け企業に対し、対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するもの。最終契約書内で対象会社の事業状況、財務状況等につきある程度、網羅的な表明保証を行うことが一般的です。
M&Aを実行する前に、譲渡企業の財務や法務などについて、譲受け企業側が行う監査(デューデリジェンス)などの場面で、譲渡オーナー様がいろいろな資料の提出やインタビューを受けるなど協力をする場面があります。
それらの内容が事実でなかったと後から判明した場合に、損害賠償を請求されるリスクがあります。
つまり、事業がどうなるかというよりかは、きちんと会社の真実を相手にあらかじめ伝えているかどうかが重要で、伝えていない場合にペナルティが発生すると考えていただくとご理解いただきやすいかと思います。
Q.譲渡後に業績が伸びたら、支払われる金額は増えるのか
参加者: アーンアウトで、例えば最初に7割、残りを一定の条件下で3割支払われるという場合、譲渡後の業績が好調であれば、支払われる額も増えることはあるのでしょうか。
龍石: はい、最終契約書の条件に織り込まれていれば支払われます。例えば上がり幅分の%にかけて、例えば3割が3.5割になるというケースもあれば、逆も然りで100ゼロにするかどうかなど、そうした細かい調整、条件交渉を行い、最終契約書に記していきます。
Q.アーンアウトのような支払い条件のケースは多いのか
参加者: 実際に譲受け企業が全額支払うのはリスクと感じ、アーンアウトの方法で支払い条件とするケースは多いのでしょうか。
龍石: 譲受け企業側様からの希望としては多いと感じます。 ただし、当社でご担当させていただく場合は、最悪の場合「支払われない」というリスクが残ってしまうため、極力譲渡日に100%お支払いいただく方法で調整し、実現に向けて尽力します。
Q.引継ぎ期間中も、M&A仲介会社はフォローしてくれるのか
参加者: 業界内の話で、M&A仲介会社に頼まず、直接相手企業とM&Aの交渉をした時に、表明保証の部分でトラブルになった会社があると聞いたことがあります。ロックアップ期間中もM&A仲介会社は間に入ってくれるんでしょうか?
龍石: M&A後に何かご相談いただいて、じゃあこうやって解決する方法はいかがですか、とアドバイスすることはあります。成約時に結ばれる株式譲渡契約書は、締結主体が譲渡企業様と譲受け企業様になります。
もちろん我々は善管注意義務のもと、そのM&Aをサポートするという立場にある為、適切な助言等を行うことは出来ますが、最終契約の締結主体はあくまで譲渡オーナーと譲受企業であることをご了承いただくかたちになります。
そのため、ロックアップ期間中に我々が主体的にサポートする立場にはないのですが、実際ご相談いただくことは、たまにあります。
Q.譲渡後に、トラブルになるケースとは
参加者: 会社を売却した後に、どんなことでトラブルになることが多いのでしょうか。
龍石: 譲受け企業様、譲渡企業様それぞれに理由があるケースをご紹介します。
譲受け企業側に瑕疵があるケース
龍石: M&Aでは、譲渡オーナー社長様の連帯保証の解除を契約書上に織り込むことが一般的です。
例えば、オーナー社長様が金融機関の融資で借りた個人の連帯保証を、全額返済なのか、譲受け企業様が肩代わりするのか、ということになるのですが、それが契約書に記載されているにも関わらず、対応されてないと判明して「なぜ連帯保証を解除してくれないのか」とトラブルになることがよくあると、業界内で聞きます。
譲渡企業側に瑕疵があるケース
龍石: 先ほどの表明保証のケースがイメージしやすいと思います。
もともと事業に必要な許認可を取得していなかったり、簿外に債務があったり、そのほか未払い残業代が後から発覚するケースは致命的なリスクになりやすいです。
後になって従業員の方に「実は過去にこれだけ働いていましたが、今から請求できますか」と言われ、結果的に損害賠償を譲渡オーナ社長様が負うことになり、譲受け企業とトラブルになるケースは業界内で耳にすることがあります。
我々はそうしたトラブルを回避するために、事前にそうした事態も想定して計算を行い、株価から先に控除をしておきます。表面保証も除外事項という形で、先にお伝えしておくと契約がスムーズにまとまりやすいと考えています。
相手企業と直接交渉する場合、「自分たちは認識してなかったが、結果的にリスクになってしまった、トラブルになってしまった」となることが多いと考えます。
Q.社長継続する場合と、社長継続しない場合の譲渡価額の違いについて
参加者: 社長継続する、しないでどのくらい譲渡価額に差が出てくるのでしょうか。
龍石: これはケースバイケースという言い方になってしまいますが、最終的に株価は「譲受け企業が安心して進められる」かという心理的な面も影響すると個人的には考えます。
両者の希望株価が近い場合や、社長継続型のM&Aのケースだと、最終契約書を締結するまでがスムーズにまとまりやすいです。
一方で、譲渡オーナー側の希望株価が高くて、引継ぎは半年以内で済ませたい、という場合には、当然ながら、譲受け企業様側から引き継いだ後の利益の継続性という視点で「大丈夫か」と議論になります。結果、希望株価からスタンダードな株価になり、結果契約がスムーズに進まなくなるケースが多く見られます。
少し漠然としたニュアンスになり恐縮ですが、こうしたケースが見られるように「交渉の過程でお互い気持ちよく進められるかどうか」が株価にも影響してくると捉えていただくのが良いと考えます。
プロフィール
新卒で衣類メーカーにて小売業に従事、その後株式会社リクルート(旧株式会社リクルートライフスタイル)にて広告営業を経て、2020年に日本M&Aセンターへ入社。
入社後は、主に20代後半~40代後半の若手経営者に対し、成長戦略型のM&A支援を行っている。
総合商社では金属事業部門の決算管理・IR業務に従事。日本M&Aセンターに入社後はこれまでの経験、専門性を活かし、多くの中小企業の存続と発展を目指す。