新型コロナ禍をきっかけにして、半ば強制的に私たちの暮らしやビジネスでのDX化が進行した。2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は5類に移行したが、世の中がコロナ禍以前に戻ることはない。むしろまだ見ぬ未来の感染症や災害などに備え「ニューノーマル=新しい日常」のあり方を考えなければならない時期に来ている。

ビジネスシーンにおけるニューノーマルのあり方やニューノーマルに必要な準備について解説していく。

目次

  1. 時代の変化と「ニューノーマル」
    1. 時代の転換期に現れる「ニューノーマル」の概念
    2. 新型コロナ禍を機に第3の「ニューノーマル」が提唱される
  2. ビジネスシーンにおける3種類のニューノーマル
    1. 働き方が多様化する
    2. オフィスのあり方が変わる
    3. 非対面・非接触のシーンが増える
  3. オフィスでニューノーマルを実現するための4つの準備
    1. 1. DXの導入をすすめる
    2. 2. オフィスのあり方を見直す
    3. 3. 評価制度の見直しをすすめる
    4. 4. 事業継続計画(BCP)を策定する
  4. 事業継続計画(BCP)の作成に役立つ資料
  5. ニューノーマルの働き方における注意点と対策
    1. セキュリティリスクへの対応
    2. 従業員の管理への対応
  6. ニューノーマルを意識した会社のあり方を
4つのポイントで理解するニューノーマル時代の企業戦略
(画像=kudoh/stock.adobe.com)

時代の変化と「ニューノーマル」

まずは「ニューノーマル」という言葉が生まれた背景や歴史について見てみよう。

時代の転換期に現れる「ニューノーマル」の概念

「新しい常態」を意味する「ニューノーマル」という概念は、過去に時代の転換期が訪れると持ち出されてきた。例えば1990年代にインターネット時代が到来したときや2008年にリーマンショックが起きたときも新しい生活や社会のあり方として「ニューノーマル」が唱えられた。

インターネット時代の幕開けとともにパソコンや携帯電話が普及すると、電子メールや検索エンジンが活用されるようになる。人々の情報の扱い方が大きく変わり、ビジネスモデルも変化した。またリーマンショック後、景気の後退が起こった。

しかしその際も「今後景気が回復しても前のようには戻らない=ニューノーマルの時代」といわれ、新興国が台頭したり、米国の相対的な地位が低下したりして新たな世界の秩序が形成されたのだ。

新型コロナ禍を機に第3の「ニューノーマル」が提唱される

2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、再度「ニューノーマル」が提唱されている。2020年6月には、厚生労働省が「新しい生活様式」を発表し、感染対策や新しい働き方のスタイルを定めた。そのため現代では「ニューノーマル」といえば、新型コロナ禍に対処する生活様式を指すことがもっぱらだ。

2020年に厚労省が発表した「新しい生活様式」では、日常生活のなかで以下のような行動が望ましいとされた。

  • 人との距離は2メートルあけて真正面での対面を避ける(ソーシャルディスタンス)
  • 外出時にはマスクを着用
  • 感染流行地域への移動を控える
  • こまめな手洗いと消毒、換気
  • 買い物や食事、イベントなど日常のさまざまなシーンにおける行動のあり方(例えば買い物では通販の利用やレジでの非接触型の決済)

また「新しい働き方のスタイル」として、以下のような事例が推奨された。

  • テレワークやローテーション勤務
  • 時差出勤
  • 余裕をもたせたオフィス空間
  • オンライン会議
  • 対面での打ち合わせではマスク着用と換気

ところが2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行されると、「新しい生活様式」の内容の一部が見直され、政府からは一律に日常の感染対策を求めないことになった。2020年版からの変更点は以下のとおりだ。

  • 「人との間隔を2メートルあける」としていた距離の数値を示さない
  • 外出時のマスクの着用に関しては、一律ではなくその場に応じて着用する
  • 流行地域の往来には言及しない
  • 買い物や食事など、日常生活のさまざまなシーンの対策方法を具体的に示さない

また陽性者や濃厚接触者の外出自粛を求めないことや、企業に対してこれまで求めていた入場時の検温や入り口の消毒液の設置、パーテーションの設置などの対応を各企業の判断に任せることも発表された。新型コロナウイルス感染症は5類に移行したが、コロナ禍は終わったわけではない。時と場合に応じて「新しい生活様式」は引き続き求められるのだ。

ビジネスシーンにおける3種類のニューノーマル

ビジネスシーンにおいても政府からの指示はないものの、各企業は自主的に「ニューノーマル」を受け入れなければならない。新型コロナウイルス感染症に限らず、感染症の世界的流行や災害など予期せぬ災いに襲われる可能性は今後もある。なぜならその際に、企業活動を維持する必要があるからだ。

コロナ禍以前のように「みんなが一斉にオフィスに集い、仕事をするのが当たり前という状況には戻れない」と考えている企業は少なくない。ここでは、新型コロナウイルス感染症の5類移行後=「ポスト・コロナ」の働き方における3つのニューノーマルについて見てみよう。

働き方が多様化する

コロナ禍で1ヵ所に集って働くことが制限されたとき、多くの企業で在宅勤務や時差出勤、ローテーション勤務などが取り入れられた。ポスト・コロナにおいても、そうした勤務形態は継続して続くと考えられる。

これは、将来的な感染症拡大や災害などに対する危機管理という意味だけではない。コロナ禍によって企業と従業員の間で在宅勤務やローテーション勤務などの体制が整ったことで「みんなが一斉に会社に来なくても、なんとか仕事ができる」といったことを実感することになった。

例えば在宅勤務には、出勤・退勤時間がなくなることでストレスが減ったり、オフィスでの雑務がなくなることで効率性が向上したりする。また育児や介護などで離職しなくてはならなかった人が、在宅勤務なら仕事を続けられる点もメリットだ。

オフィスのあり方が変わる

すべての従業員が一度に出勤することがなくなれば、従来よりも小さなオフィスで事足りるようになる。またオフィスの所在地も交通至便な場所にとらわれる必要がない。ニューノーマルのオフィスは、これまでとは異なる発想で設計しなければならなくなる。

家やコワーキングスペース、カフェなどでも仕事はできるが、一方で「オフィスに出勤しなければできない仕事」も発生するだろう。例えば業務に必要な高価・高性能の設備を自宅に備えることは難しく、これはやはりオフィスに置くことになる。また一つのプロジェクトをともに進めるチームの関係性を構築するうえでもオフィスは必要だ。

さらに従業員の健康を維持するための場所としてもオフィスの存在は重要となる。コロナ禍においては、在宅勤務で生活リズムが乱れたり運動不足に陥ったりした人は少なくない。そのため今後は、心身の健康を保つために出社する“新しいスタイル”が生まれる可能性がある。

非対面・非接触のシーンが増える

コロナ禍では、人の接触が制限されオンライン会議や書類のオンライン決裁の環境を整えた企業も多い。以前なら会議や書類の決裁は「出勤しなければならない理由」の最たるものだったが、出社しなくても可能になったことでニューノーマルの仕事のあり方として定着するだろう。

オフィスでニューノーマルを実現するための4つの準備

オフィスでニューノーマルを実現するには、ニューノーマルを支える設備や仕組みが必要だ。

1. DXの導入をすすめる

DX(デジタルトランスフォーメーション)、つまりデジタル技術を使って働き方を改善する必要がある。前述した書類のオンライン決裁も在宅勤務を可能にしたDXの一つだ。コロナ禍では、オフィスに出勤する人間を抑えるためにAIを活用した顧客対応やロボットによる業務の自動化を導入する企業が増えたが、これらもDXの事例だ。

コロナ禍に導入されたDXの技術は、ポスト・コロナにおいても引き続き活用されている。

2. オフィスのあり方を見直す

上述したようにニューノーマルに合わせたオフィスを考えなければならない。オフィスに行かなくてもできる業務とオフィスに行かなければできない業務を整理し、オフィスの役割を改めて定義する必要がある。またコロナ禍のような感染症が再び来ることを想定し、執務エリアの在籍率を50%以下にするようなレイアウトにしたり、フリーアドレスを導入したりといった対応がオフィスに求められる。

3. 評価制度の見直しをすすめる

オフィスに常時出社しない形態が定着すると、上司は勤務態度や業務のプロセスをもとに部下を評価するのが難しくなり成果によって評価するような仕組みに見直さざるを得ない。しかし成果主義が行き過ぎると従業員のモチベーションが下がってしまう恐れがある。成果と業務プロセスをバランスよく評価に反映させることが重要だ。

上司と相談して従業員が自身で目標とそのために必要な取り組みを設定し、上司が振り返りや評価を行う「目的管理制度(MBO)」はテレワークとの相性がよい。

4. 事業継続計画(BCP)を策定する

事業継続計画(BCP)とは、災害や感染症の拡大などが起きたとき、被害を抑えながら企業活動を継続したり、復旧したりするために立てる計画だ。

ニューノーマルの意味が「新しい常態」であるように、私たちは再びコロナ禍のような感染症の流行に見舞われる可能性を意識しながら生活を送らなければならない。また近年は、水害や地震が頻発していることから自然災害への対応も必要だ。そこでBCPを作成し、非常時の対応を決めておきたい。

事業継続計画(BCP)の作成に役立つ資料

事業継続計画(BCP)を作成する際には、BCPを作成する目的を決め、災害発生時の被害やそのなかで優先して続ける事業をイメージすることが必要だ。またそのために必要な資源の調達方法や指揮系統などを決定し、作成したBCPを社内に定着させたり見直ししたりする作業も求められる。BCPの作成と運用に関する資料として内閣府の「事業継続ガイドライン」が役立つ。

また中小企業庁が定めた「中小企業BCP策定運用指針」は、中小企業の実情に即したBCPの作成方法が解説されている。BCP作成の際には、ぜひ参考にしてほしい。

ニューノーマルの働き方における注意点と対策

ニューノーマルの働き方は、従業員をストレスから解放し、子育てや介護と仕事の両立を可能にするなど多くのメリットがある。しかし当然のことながら以下のような注意点もある。

セキュリティリスクへの対応

従業員の自宅やコワーキングスペースなどでのテレワークは、情報漏えいのリスクが伴う。社内でセキュリティシステムを整えるのと同時に従業員のセキュリティに対する意識を高めなくてはならない。従業員にITリテラシーに関する研修を行うとともに情報漏えいなどのトラブルが起きた際の対処方法も周知しておくことが重要だ。

従業員の管理への対応

テレワークでは、従業員同士のコミュニケーションが不足する。企業側で従業員同士がコミュニケーションを取れるようなツールを用意しておくとよいだろう。また自宅などで業務を行っているとモチベーションを維持するのも難しい。企業側は、従業員のモチベーションを保てるように上司がサポートしたり、業務の環境整備のためにリモートワーク支援金を用意したりと工夫が必要だ。

ニューノーマルを意識した会社のあり方を

2023年5月、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、いわゆる「ポスト・コロナ」といわれる時期を迎えた。しかし日常生活は、すべて以前に戻ったわけではなく「ニューノーマル」とよばれる新しい局面に移っている。ニューノーマルにおける会社のあり方を実現するには、在宅勤務に必要な設備やオフィスといったハードやインフラに加え、従業員の教育やサポートも重要だ。

また新型コロナ禍のような事態が起きても経営を持続できるようBCPの策定も求められる。ニューノーマルにおけるオフィスの役割を新たに定義し、会社のあり方や従業員の働き方を設計しよう。

著:せがわ あき
会計事務所に10年勤務。その後、会計ソフトメーカーでの勤務を経て、現在は会計・税務・金融などをテーマにライティング活動を行う。会計事務所では、顧問先の会計業務や融資支援に従事。融資のための提出資料作成や融資・資金繰りのアドバイスなどを行う。会計ソフトメーカー時代には、お客様対応業務に加えてソフト開発にも携わり、お客様の声を製品に反映させる仕事に従事。
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