中小企業が自社の事業活動に必要な人材を確保するためには、採用活動はもちろん既存社員の定着率を改善することも必要だ。本記事では、中小企業が必要な人材を確保するために効果的な採用活動や定着改善のポイントなどについて解説する。最後に人材確保のアイデア事例を紹介するので、参考にしてほしい。
目次
人材確保のアイデアがあってもうまくいかない理由4つ
人材確保には既存社員の定着率向上だけでなく、新卒社員や中途社員の継続的な採用が欠かせない。中小企業が人材採用のためのアイデアを持っていても、自社が望む人材を確保できない理由には大きく4つある
1.人材採用の戦略が練られていない
人材採用の方針や戦略が練られていないと、採用活動の進め方が定まらず、自社が求める人物像にマッチした人材を採用することも難しい。
中長期的な経営目標を定めた上で、必要な人数や採用スケジュールなどを定めておく必要がある。
2.自社の組織的な課題が明確になっていない
自社の組織としての課題がわかっていないと、新しく人材を採用してもこれまでと同じように離職してしまう恐れがある。
社員が定着しない根本的な理由を把握することが大切であり、退職者の離職理由を振り返るのはもちろん、既存社員から意見や不満点を吸い上げることも大切だ。
3.求人情報が求めている人材に届いていない
どんなに素晴らしい求人情報を作成しても、自社が求める人材に閲覧してもらえなければ意味がない。
求人広告を掲載する媒体によって閲覧者のタイプも異なるため、媒体の選択はもちろん、自社ホームページやSNSでの発信も必要不可欠だ。
4.自社の魅力や強みが候補者に伝わっていない
自社で働くことの魅力や他社にはない強みが採用候補者に伝わらないと、たとえ面接などでマッチ度が高いと感じて内定を出しても辞退されてしまうことがある。
人材採用活動でも競合他社がいることを認識し、優位性などを候補者にアピールすることが欠かせない。
中小企業が人材確保につながるアイデア
中小企業は会社自体の知名度や人事担当者の人数面などで大企業に比べて劣るため、人材確保が難しいという課題がある。ここでは、採用面や定着面などに着目して、人材を確保するためのアイデアを紹介する。
【大前提】自社に必要な人材を明確化する
人材確保の大前提として、自社に必要な人材を明確にすることが大切だ。
人手不足とはいっても、社会人としての基礎力が低く自社の社風とのマッチ度が低い人材を採用すれば、育成に時間がかかったり、既存社員のモチベーションを下げて離職率が上がったりする恐れがある。
短期だけでなく中長期的な経営目標を立案した上で、必要な人材のスキルや人柄などといった人物像、理想とする組織構造などをはっきりさせよう。
その上で、経営者として自社の将来的な目標と人材マネジメント方針を内外にアピールすることで、人材採用や定着率向上のための活動の効果が高まるだろう。
【採用】求人募集の方法を最適化する
採用活動においては、求人募集の方法を最適化することが大切だ。
中小企業が利用する求人広告としては、ハローワークや求人サイト、フリーペーパーなどが一般的だ。しかし、どれだけサービスを利用しても応募数が想定を下回れば人材確保はできない。
過去の求人募集の実績から効果の高い方法を利用しつつ、リファラル採用のような社員からの紹介、人材紹介サービスが所有する候補者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングといった募集方法も検討しよう。
【採用】自社で働くメリットやデメリットを伝える
自社とマッチ度の高い人材からの応募を増やすためには、自社で働くことによるメリットやデメリットなどの情報発信も大切だ。
就職活動で中小企業への入社を希望している学生へのアンケートによると、職場の雰囲気や人間関係の良さ、自分の強み・能力が発揮できるといった回答が上位を占めている。
求職者が求めていることを想定した上で、自社の職場の雰囲気、既存社員が感じているやりがい、自社の有給休暇や育休制度の利用状況など、メリットを積極的に伝えることが大切だ。
デメリットについては、「人数が少ない」ならば「アイデアが形になりやすい」「相互サポートがしやすい」などのように、メリットと関連づけて伝えることが大切だ。
【採用】選考試験の内容を見直す
自社が必要とする人物像と近い人材を採用するためには、選考試験を見直すことも欠かせない。
中小企業の選考試験は、採用担当者の人を見抜く力だけに頼りがちだ。客観的な視点を入れるためにも、面接には配属予定先の管理職や現場社員の同席も検討しよう。
また、SPIや玉手箱、TG-WEBといった筆記試験を行い、基礎的な学力や性格適性を確認しておくと、主観的な視点による偏った人材採用になりにくいだろう。
【定着】職場の環境整備を進める
職場の環境整備は、社員の定着率アップのために最初に取り組むべきことだ。
中小企業社員の離職理由の上位には「人間関係への不満」が上位にあり、配置転換を行うことでコントロールする必要もある。中小企業では配置転換が難しい規模の事業所が少なくないため、問題の根本原因をはっきりさせて適宜指導を行うことが大切だ。
また、職場で社員が快適に働けるように、居住性の改善はもちろん使用するパソコンなどの設備・機器の定期的な見直しなども考慮しよう。
【定着】人材育成の制度を整備する
社員の定着率向上には、人材育成制度を整えることも大切だ。
中小企業の社員育成は現場でのOJTが大半を占め、社員のキャリアに応じた人材育成が行われているとは言い難く、個人の意識や努力に委ねられるため、不満を感じてしまうことが少なくない。
自社ですでに活躍している人材をロールモデルとして人材育成制度を整備し、継続的に社員育成に取り組む姿勢を示すことが大切だ。
【定着】人事評価制度の透明性を高める
賃上げなどの待遇改善が難しい中小企業では、人事評価制度の透明性を高めることが大切だ。
そもそも社員一律で待遇を改善しても、自社にとってキーマンとなる優秀な人材は待遇に満足できずに離職してしまう恐れがある。そのため、成果を上げることで相応の待遇が得られることを示しておく必要がある。
そのためには、人事評価制度の評価項目や基準を定めた上で公開し、場合によっては上級ポストを新しく構築することも大切だ。
【その他】外部人材を活用する
新規事業を行う場合や社員の離職などによって一時的に人手不足な状態ならば、スキルや知見を持った外部人材に業務委託することも考慮しよう。
人材採用や社内人材の育成には時間がかかることが多く、人材確保の遅れによって事業チャンスを逃してしまう恐れがある。
クラウドソーシングサービスなどの普及もあり、人事やマーケティング、デザイン、事務、営業など幅広い業務の外注化が容易になっているため、社内での人材確保にこだわり過ぎないことも大切だ。
【その他】多様な働き方に対応する
働き方改革の施行やコロナ禍などの経験を通して働き方の多様化が進む中、中小企業でも人材確保のために社員のワークライフバランスを意識した取り組みが求められている。
一部業務に対するテレワークの適用、フレックスタイム制の導入、副業兼業の許可など、社員が多様な働き方ができるような制度設計を行うことで、従業員満足度を高めることが、定着率の向上にもつながるだろう。
中小企業が人材確保するアイデア事例集
最後に、厚生労働省の『人材確保に「効く」事例集』を参考に、いくつかのアイデア事例を抜粋して紹介する。
採用管理の事例
人材募集段階では求職者に「応募したい」と思わせることを意識し、求人票や自社のホームページなどで以下のような情報を積極的に公開する企業がある。
・賃金はモデル賃金も記載して明確に記載する
・職場の雰囲気や従業員の紹介などを行う
・年休取得率や産休・育休などの制度利用状況を公開する
・自社のウェブサイトやSNSで職場の魅力をアピールする
選考試験では、面接の段階で仕事内容や待遇などについて説明するだけでなく、実際に職場見学も行ってもらうといった取組事例がある。
定着管理の事例
社員の定着に直結する配置・配属については、業務適性や社員同士のマッチ度を考慮した上で配属するのはもちろん、定期的な面接によって適応状況を確認してフォローアップする、配置転換をするなどといった事例がある。
人材育成については、経験年数や職種別による育成制度の整備、自己啓発に対する一部助成や資格手当の創設、人材育成のためのジョブローテーション実施などといった取組事例がある。
就労条件の事例
就労条件については、働き方改革の施行による法改正に伴い、休暇制度の見直し、就業規則の定期的な改訂や労働条件の分かりやすい表記に努める企業がある。
労働時間管理が曖昧だった企業ではタイムカードの導入や勤怠管理システムの見直しを行い、勤務実態を把握した結果、フレックスタイム制を導入した事例もある。
理念・価値観の事例
中小企業でも自社が存在する理由である「経営理念」を社内外に示すことで、社員の帰属意識を高めて定着率を向上させたり、求職者の応募を促したりすることも不可能ではない。
紹介事例では、無記名での社内アンケートの実施により、社員の要望や不満点、働くことに対する価値観を確認することで企業理念や行動規範を整備し、それらを記載した「クレドカード」を配布して一体感を高めたという取り組みがある。
中小企業も優秀な人材確保に向け、自社の課題を把握し採用戦略を定期的に見直そう
人材不足が深刻化する中、中小企業の人材確保は経営存続に直結するほど大きな課題となりつつある。
企業によって人材確保に関する課題は異なるため、経営者や管理職層の主観的な考えだけでなく、社内アンケートなどによる自社の組織的な現状課題の把握も必要だ。
自社の課題が把握できたら、厚労省の取組事例なども参考にしながら施策を実行し、定期的に見直しを行って自社独自の人材確保の手段を構築してほしい。
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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)