福利厚生は従業員のための制度だが、内容によっては会社にもメリットが生じる。コストや手間の無駄を抑えるには、さまざまな事例を参考にしながら計画を立てることが必要だ。これまで福利厚生を軽視していた経営者は、これを機に自社の制度を見直してみよう。
目次
そもそも福利厚生とは?
具体的な事例を紹介する前に、まずは福利厚生の基礎知識を押さえておこう。
福利厚生とは企業が従業員に支払う報酬のうち、賃金・給与以外の「非金銭報酬」のこと。通常の給料に金銭を上乗せする形であっても、その名目が住宅手当や食事補助のように賃金・給与に該当しないものであれば、その報酬は福利厚生の一種に含まれる。
また、福利厚生は大きく以下の2種類に分けられている点も、経営者が理解しておきたいポイントだ。
福利厚生の種類 | 概要 | 具体例 |
・法的福利厚生 | 法律によって、従業員に提供することが義務づけられている福利厚生の総称。 | ・健康保険 ・厚生年金保険 ・労災保険 ・介護保険 ・雇用保険 など |
・法的外福利厚生 | 上記の「法的福利厚生」に該当しない福利厚生のこと。法律では特に義務づけられていないため、企業独自の制度を整えられる。 | ・通勤手当 ・住宅手当 ・職場環境の改善 ・イベントの実施 ・スキルアップの支援 など |
本記事で解説する福利厚生の事例は、いずれも「法的外福利厚生」に該当する。その一方で、法的福利厚生は従業員にも受けるための権利が認められているので、整備できていない企業はまずはここから見直す必要がある。
では、次からは世の中の企業が取り組んでいる個性的な福利厚生を、いくつかのジャンルに分けて紹介していこう。
補助金支援型の福利厚生事例3選
福利厚生の中には、一定の条件を満たした従業員に対して「補助金」を支払うものがある。金銭は人材の評価基準としてわかりやすく、さらに経済的な部分をサポートできるので、以下で挙げる制度は従業員のモチベーションアップにつながるだろう。
事例1. 早起きは1000円の得手当/パスクリエイト株式会社
この制度では始業時間の1時間以上前に出社すると1日500円、2時間以上前に出社すると1日1,000円が支給される。従業員の寝坊や遅刻を防止するだけではなく、会社全体の生産性アップも期待できる福利厚生だ。
「注意」という観点ではなく、福利厚生の充実を通して早起きを推奨できる点も魅力的なポイントだろう。
事例2. スコレー研修/株式会社キャリアデザインセンター
スコレー研修は、勤続5年ごとに20万円の資金と特別休暇10日間が付与される制度。従業員への感謝という意味合いもあるかもしれないが、この福利厚生の目的は海外で見聞を広め、より豊かな情操を育んでもらう点にある。
つまり、付与される20万円は研修のための資金であり、従業員は海外で新しい世界や文化に触れることで自己充実を図れる。
事例3. 禁煙手当/ナビタス株式会社
勤務時間中の頻繁な喫煙は、生産性の低下につながる深刻な問題だ。喫煙が「休憩時間に該当するか」は過去に裁判でも争われており、悩みの種になっている企業も多い。
そこでナビタス株式会社が導入した制度が、禁煙中の従業員に対して「禁煙手当」を支給するもの。毎月1,000円の手当金を支給することで、積極的に禁煙に取り組める環境を整えている。 禁煙に成功すれば生産性がアップするだけではなく、従業員の健康にもつながってくるため、企業側にもさまざまなメリットがある福利厚生だろう。
食事補助系の福利厚生事例3選
食事補助系の制度も、従業員を経済的にサポートできる福利厚生。さらに、方法次第では従業員の栄養面も管理できるため、会社全体で健康を目指せる点も大きな魅力だろう。
事例1. 100円ランチ/株式会社アプティ
素材・調理・栄養バランスにこだわった日替わり弁当を、100円の負担だけで食べられる制度。従業員の健康を管理できるだけではなく、「何を食べようか?」と悩む時間を節約できるので、モチベーションや生産性の向上にも役立っている。
さらに同社ではドリンク類や駄菓子、ダイエットに役立つプロテインなども福利厚生として提供している。いつでも糖分や栄養分を補給できる点は、多くの従業員にとって魅力的な環境だろう。
事例2. ハッピーフライデー/Dropbox Japan株式会社
毎月1回「ハッピーフライデー」と呼ばれるイベントを開催し、すべての従業員にアルコール飲料や軽食を振る舞う制度。さらに同社では、普段から「ドリンク・スナック・フルーツ・朝食・ランチ」も無料で提供している。
これらの制度は食事補助につながるのに加えて、社員同士の交流が深まる点も大きなメリットだ。もちろん食事の面でも従業員が満足できるように、三ツ星レストラン出身のシェフを呼ぶなど質にもこだわっている。
事例3. 野菜支給制度/株式会社ゆめみ
すべての社員に対して、産地直送の無農薬野菜を毎月1回配る制度。同社は農家と直接契約をし、新鮮な旬野菜を配布できる環境を整えている。
この制度の目的は、従業員に健康への意識を少しでも高めてもらうことだ。仮にうまく調理できない社員がいたとしても、野菜を手にすることが健康を考える良いきっかけになる。
コミュニケーション促進型の福利厚生事例3選
従業員が気軽に参加できるイベントを開催するなど、コミュニケーションの活性を目的とした福利厚生は非常に多い。たとえば、食事会によって社員同士の交流が深まれば、悩みが解決されることで仕事面にも良い影響が生じてくる。
事例1. コミュニケーション活性化制度/株式会社Cygames
会社が飲み会を主催し、その懇親会費用はすべて会社が負担する制度。部署に関係なく飲み会が開催されるため、社内での関わりが少ない社員ともコミュニケーションを図れる。
社員の中には、同じ部署の仲間に話しにくい悩みを抱えたスタッフもいるはずだ。そのような人物や見聞を広めたい従業員にとっては、懇親会が貴重な体験になる可能性がある。
事例2.Know Me/Sansan株式会社
他部署の社員と飲みにいくことで、1人当たり最大3,000円の補助が支給される制度。月単位での利用頻度や人数に制限はあるものの、シンプルかつ自由度の高い福利厚生だ。 他部署の人物とのコミュニケーションは、新たな発見や思いがけないサポートにつながることもある。「今度Know Meしましょう」のように、ほかの人を気軽に誘えるネーミングセンスもこの制度の大きな魅力だろう。
事例3. 脱スマホ手当/株式会社岩田製作所
スマートフォンは便利な機器だが、それゆえに社員同士のコミュニケーションを阻んでしまう側面もある。その点を問題視して改善に取り組んだ例が、毎月5,000円が支給されるこの「脱スマホ手当」。 この制度では、会社内でスマートフォンを使用しない従業員に対して手当金が支払われる。その効果は着実に現れており、スマートフォンからガラケーに戻した社員も見られたほどだ。
スキルアップ型の福利厚生事例3選
福利厚生を実施する会社としては、従業員の満足度を高めつつ、何かしらのメリットも発生させたいところだ。そこでぜひ検討しておきたい制度が、スキルアップ型の福利厚生。福利厚生の充実がスキルアップにつながれば、従業員全体の能力やスキルを底上げできる。
事例1.全社員を対象にした旅行研修/株式会社CRAZY
同社は創業当初から、会社の理念やマインドを共有する目的で定期的に研修を開催している。毎月1回は全日、3ヶ月に1回は2泊3日の合宿を開催するほどの徹底ぶりだ。
さらに、全社員を対象に約1ヵ月間かけた「世界旅行研修」も開催。このように個々の従業員に任せる形ではなく、全社員を対象とした福利厚生は、会社全体のスキルアップや理念の共有などにつながるだろう。
事例2. 100回帳/株式会社武蔵野
勉強会などのイベントに参加するとお手製の「100回帳」にスタンプが押され、100個のスタンプが貯まると5万円分の旅行券が支給される制度。現金にも換えられる旅行券を配布することで、同社では自主的に勉強会に参加する社員が増えている。
スキルアップにつながる場を設けることも重要だが、より効率的に従業員の底上げをしたいのであれば、モチベーションも刺激することが必要だ。同社のこの取り組みは、その部分にうまく着目した事例と言えるだろう。
事例3.ライバル指名制度/株式会社カヤック
ある社員が別の社員を「ライバル」として指名し、その対決の勝者に39,000円の賞金が付与される制度。指名してから半年後に勝敗を決め、肝心の勝敗は全社員の投票によって決められている。
この制度の魅力は、指名した社員・指名された社員の両方のモチベーションが上昇する点にある。また、普段から彼らを見ている全社員が投票者となるので、当事者となる2人はスキルがアップするだけではなく、会社の生産性アップにも貢献してくれるだろう。
女性支援型の福利厚生事例3選
働き方改革が叫ばれる昨今では、女性の活躍が社会的に重視されている。女性の活躍は人材不足の解消にもつながるので、特に人手不足に悩んでいる中小企業は以下のような福利厚生も検討しておきたい。
事例1. 出産子育て支援金/株式会社バンダイナムコオンライン
1子と2子の出産時には20万円、3子の出産時には200万円の支援金が支給される福利厚生。同社は育児支援制度も実施しており、働くママをサポートするために万全の体制を整えている。
女性の人生の中でも、出産は特に大きなライフイベントだ。この事例のように体力的・経済的にサポートしてもらえる環境が整っていれば、仕事・プライベートの両方に安心して取り組めるだろう。
女性に優しい環境づくりは、貴重な人材の定着や復職にもつながってくる。
事例2. macalonパッケージ/株式会社サイバーエージェント
妊活休暇や妊活コンシェル、子どもの看護時に在宅勤務できるキッズ在宅など、女性にとって嬉しい制度が詰まったパッケージのような福利厚生。女性特有の体調不良の際には、利用用途のわかりにくさ(=取得のしやすさ)にも配慮された休暇制度「エフ休」を利用することも可能だ。
同社は女性社員の比率が高いことから、働く女性やママを積極的にサポートしている。2014年度の産休・育休後の復職率が90%を超えていることからも、女性にとって魅力的な就労環境であることがわかるだろう。
事例3. オフィスに授乳室を設置/株式会社ファーストコラボレーション
オフィスに授乳室を設置する福利厚生は、本記事の中でも比較的シンプルな方法に映るかもしれない。しかし、周りの従業員も「店舗に赤ちゃんがいる環境」に慣れる必要があるため、具体的にイメージすると簡単な話ではないことがわかるはずだ。
同社では、赤ちゃんのママが忙しい場合には他の社員が積極的に世話をしている。単に授乳室を設置するだけではなく、会社全体で働くママをサポートする「環境づくり」に力を入れている点は、ぜひ参考にしておきたい部分だ。
休暇型の福利厚生事例3選
会社の生産性を高めるには、従業員に程よい休暇を与える必要がある。あまりにも休暇が少ないと、モチベーションや健康を維持することが難しくなってしまうためだ。
従業員に関して「身体的・精神的な疲れがたまっているな」と感じる場合には、思い切って以下のような福利厚生も検討してみよう。
事例1. 特別休暇制度/株式会社エイト
両親の誕生日や命日、子どもの誕生日など、各従業員の特別な日に休暇を付与する制度。ほかにも配偶者の誕生日や結婚記念日など、同社では家族を大切にするための休暇制度が充実している。
日々忙しく働いている従業員にとって、家族と過ごす時間は大きな癒やしになるだろう。これらの特別休暇を使って疲れ・ストレスを解消できれば、業務におけるモチベーションも維持しやすくなる。
事例2. 失恋休暇・離婚休暇/株式会社サニーサイドアップ
従業員が過ごすプライベートな時間の中には、精神的なダメージを受けてしまうイベントも少なくない。たとえば、失恋によって大切なパートナーを失うと、仕事が手につかなくなる従業員も多いはずだ。
そこで同社が実施している福利厚生が、「失恋休暇・離婚休暇」と呼ばれるもの。これらの特別休暇を使って心をリフレッシュすることで、従業員は次の日から気持ちを切り替えて仕事に臨める。
ダメージを引きずって効率が悪くなるよりは、思い切って休暇を与えたほうが良い結果に結びつくケースも多いだろう。
事例3. サプライズ休暇/株式会社ギャプライズ
遠方の家族に突然会いに行く、妹の卒業式に飛び入りで参加するなど、身近な人にサプライズを届けるための休暇を取得できる制度。利用はおおむね年に1回であり、周りのメンバーから賛同を得られれば休暇取得が認められる。
この制度の特徴的なポイントは、ほかの従業員に取得理由をプレゼンテーションする点だ。ほかのメンバーにも理由を明かしたうえで休暇を取得できるため、利用時に後ろめたさを感じにくい制度と言えるだろう。
健康促進型の福利厚生事例3選
前述でも健康につながる福利厚生はいくつか紹介したが、従業員の健康は生産性に大きな影響を及ぼすので、より健康面を重視した制度は数多く存在する。特にデスクワークが増えがちな企業や、身体的な負担が大きくかかる職場では、以下のような制度の導入も検討しておきたい。
事例1. 自転車通勤支援制度/はてな株式会社
自転車で通勤をした従業員に対して、月額2万円の手当が支給される制度。手当金は自転車のタイプによらず支給されるので、同社では自転車通勤率が非常に高くなっている。
シンプルな福利厚生ではあるものの、普段から身体をあまり動かさない従業員にとって、自転車通勤が習慣になる意味合いは大きい。従業員の立場からすれば、手当を受け取りつつ健康管理にもつながるため、まさに一石二鳥の制度と言えるだろう。
事例2. 健康応援/株式会社フォースリー
社内でのトレーニング環境やマッサージチェアの設置、毎月1回のマッサージ手当の支給など、さまざまな面から従業員の健康をサポートする制度。さらに年1回の人間ドックも含まれているため、従業員は健康状態を定期的にチェックできる。
健康につながる福利厚生を充実させても、その制度の利用率が低ければ大きなメリットにはつながらない。少しでも利用率を高めるには、さまざまな角度から健康をサポートしたり、目に見える形で健康状態を把握できたりなど、この事例のように工夫を凝らすことが必要だ。
事例3. グラム売りダイエット/株式会社Saltworks
1グラムあたり1円~10円の金額で、会社がダイエットした分の体重を買い取ってくれる制度。毎月1回決まった日にちに体重測定を行い、このときに痩せていた体重分だけ手当金を受け取れる。
同社でこの制度を利用するには、社内での「ダイエット宣言」が必要になる。つまり、従業員の自発性に任せた制度であるため、決してダイエットを無理強いするものではない。 仮にダイエット宣言をしなかったとしても、この制度が社内にあるだけで健康面への意識は強まるだろう。
目的を明確にしたうえで、その目的を達成できる制度の導入を
本記事では数多くの福利厚生を紹介してきたが、制度の充実にはコストや手間が発生する。そのため、魅力的な事例が見つかったからと言って、闇雲にさまざまな制度に手を出すべきではない。
福利厚生を充実させる際には、まず自社の状況や課題を明確にすることが必要だ。「何のために充実させるのか?」という目的を明確にしたうえで、その目的を達成できるような制度を効率的に導入しなくてはならない。
会社にとってもメリットが発生する仕組みを慎重に考え、かつ従業員の利用率が高まるような制度を計画していこう。
文・THE OWNER編集部