今年のプロ野球は、監督に注目が集まる
新型コロナウイルスの影響が尾を引いた2021年のスポーツシーンでしたが、2022年シーズンはプロ野球もJリーグも100%のお客さまが入場可能となって、活気が戻ってきましたね。サッカーはワールドカップイヤーですし、プロ野球もノーヒットノーランの偉業を5人も達成したり、58年ぶりに王貞治の日本人選手最多本塁打55号に到達したり(2022年9月13日時点)など、話題も豊富です。
そして、今年のプロ野球は、日本ハムの“ビッグボス”こと新庄監督や、楽天の石井監督、千葉ロッテの井口監督、ヤクルトの高津監督など、監督に注目が集まっているように思います。新庄監督は就任会見で「優勝なんか一切目指しません』と発言したことや、石井監督はGMを兼任しながらマネジメント力を発揮していることや、2年連続最下位だったヤクルトを日本一に引き上げた高津監督が選手のやる気を引き出し今年も好調をキープしていることなど、改めて監督の存在の大きさに目が行きます(筆者も、少年サッカークラブの代表兼監督として活動しているため、なおさら気になるところです…)。
世界に目を向けると、スポーツの商業化が加速し、国内リーグだけでなく、欧州・アジアなどの大会も開催され、放映権収入をアップさせようとしています。その影響で、試合数は増加し、(移動も含めた)選手の負担は大きくなっています。さらに、科学的なトレーニングにより選手のポテンシャルを最大化させることができるようになった一方で、ケガをする選手が増えたように思います。
このような環境下では、監督はリーダーシップだけではなく、選手・チームのマネジメント手腕が求められます。では、マネジメント手腕を評価される監督は、具体的に何が優れているのでしょうか?ビジネスに引き寄せて考えてみましょう。
マネジメントとは何か?
改めて、「マネジメント」とは、何をすることなのでしょうか?ドラッカーは、マネジメント(マネジャーの仕事)について、このように定義しています。
部分の総和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出すこと
自らのあらゆる決定と行動において、直ちに必要とされるものと、遠い将来に必要とされるものとをバランスさせること
-『マネジメント——課題、責任、実践』
ダイヤモンド社より
つまり、個々人の強みや性格などを正しく把握し、各人、さらには組織全体としての力を最大限に引き出すのが、あるべきマネジメントの姿です。
効果的でハイアウトプットのチームを作るには、チームを単なる人の集まりである「集団」ではなく、同じ目標に向け、協力して成果を生み出すように導く必要があります。具体的には、以下の状況が満たされていればチームとして高いアウトプット、パフォーマンスを残す可能性が高まります。
- 適材適所が実現している
- 個々人が自分の役割を認識し、当事者意識を持って仕事に取り組んでいる
- 組織としての向かうべき方向性や到達点が共有されている
- スキルや個性が相互補完的になっている
- 組織の規範が共有されており、凝集性も高い
- お互いに助け合う風土が根付いている
- 必要な多様性が担保されている
- 組織学習が根付いており、組織として学び変わろうという姿勢が強い
出所:『グロービスMBAミドルマネジメント』 (グロービス経営大学院.編著、ダイヤモンド社)を元に平野作成
上記8つの要素ができていたら、ビジネスならば成果が出やすく、スポーツチームならば勝利という結果も出やすいでしょう。調子を崩したときにも立て直しがやりやすいでしょう。
マネジメントにおける陥りがちな罠は?
とはいえ、ハイアウトプットを出すチームの要素が理解できても、実際にやろうとすると上手くいかないことは多いのではないでしょうか?それは、ビジネスにもスポーツにも共通して陥ってしまう罠があるからです。
その罠とは、マネジャーの「プレーヤー(ハイパフォーマー)としてのメンタルモデル」であり、自身の成功体験がメンバーや組織のあり方を決めつけてしまうことです。ですから、ハイパフォーマーで自分のこだわりを持っている方は、マネジメントをするにあたっては注意が必要です。少年サッカークラブの経営に携わり8年、代表兼監督を6年務めている私の個人的な経験上は、特に以下の3つは気をつけたいところです。
(1)適材適所を見誤り、ローパフォーマーと位置付けてしまう(1.適材適所)
人間は「できないこと」に目が行きがちで、メンバーの欠点が気になってしまうと、「この人(選手)はローパフォーマーで、ウチの組織では活躍できない」と決めつけてしまいがちです。ですが、この先入観を排除して、強みを見出し、適材適所が実現できるよう、マネジャーが持つメンタルモデルを克服する必要があります。
たとえば、サッカー日本代表でキャプテンを務め、現在ドイツで活躍している長谷部誠選手は、現在守備を中心に活躍していますが、元々は攻撃の選手でした。プロ一年目で、出場機会が得られなかった長谷部選手でしたが、彼のもつ高い戦術眼や献身的な姿勢がフィットし、世界で活躍し続けられています。
このように、監督・マネジャーが適材適所を見極めてあげられれば、活躍できる人は多くいます。
(2)適材適所は考えていても、メンバーの組み合わせ(相性)を考えていない(4.相互補完性)
メンバーの強みを把握し、適材適所に配置できたとしても、組織のパフォーマンスが上がらない場合があります。それは、メンバーの組み合わせ(相性)が悪いときです。超一流選手であっても、相性次第では十分な活躍ができません。
世界的スーパースターのリオネル・メッシも、バルセロナ時代に組んでいたネイマール、スアレスとの『MSNトリオ』と比べて、パリ・サンジェルマンに移籍した現在は、攻撃は見劣りがします。メッシが全盛期のピークを過ぎたということもあるかもしれませんが、現サンジェルマンでのエムバペ、ネイマールとのトリオは、お互いの我が強く、相性が良いようには見えません。(もちろん、個の力は3人とも超一流なので、点は取れますが、3人の息が合っているかと言われると、物足りなさを感じます)。
実力的には、十分なものを持っていても、性格面も含めたメンバー間の相性を考慮しないと、チームのアウトプットを最大化させることはできません。
(3)自分のやり方にこだわりすぎて、多様性を許容できない(7.多様性の担保)
適材適所も相性も良さそうであれば、ハイアウトプットが出る可能性は高まりますが、そうならない場合は、マネジャーの設定する組織の方向性や規範の幅が狭い可能性があります。自分の理想とするイメージが強すぎるため、細かい部分にまで指示をしてしまい、個々の強みが発揮されないのです。
とあるJリーグでも活躍していた監督は「スローインは●●のタイミングで、■■に投げて、その後▲▲にパスをつなげ」というところまで、事細かに指示を出していたそうです。そこまで細かく指示される状態になると、選手は常に監督・マネジャーの顔色を伺うようになります。
この状態を脱却するためには、個々の尊重をして、心理的安全性を確保することが必要です。その上で、伝えたいことはしっかり言語化し、ロジカルなコミュニケーションをすることが大切になります。
上記は、特に自身がハイパフォーマーとして成功体験がある方ほど、陥りやすいと感じています。「自分はできる」と、仕事に自信がある人は気をつけましょう。
どんな環境でも、マネジメントのスキルは磨ける
ここまで、プロスポーツの監督を通してマネジメントについて考えてきました。個々の特徴をしっかり把握して、適材適所や組み合わせを考えながら、関わり方を変えていく。これって、スポーツだけの話ではないですよね。
ビジネスにおいても、組織が置かれた状況が変われば、適する人材や役割なども変化します(例えば、攻めるのか、守るのか等)。そして、状況に合わせてマネジメントも変化させなければなりません。メンバーの能力や意欲をよく見極めて、関わり方を変えながら、チームのアウトプットを最大化させていきいですね。
さらに言えば、家族のマネジメントや、ボランティア組織などでも同じようなことは発生します。つまり、どんな環境でもマネジメントのスキルは必要だということです。であれば、仕事以外のところでマネジメントのスキルを磨くということもできますし、そのスキルを仕事にも活かせるはずです。
ぜひ、身近なところから、皆さんのマネジメントのスキルを磨いてみてください。
(執筆者:平野 善隆)GLOBIS知見録はこちら