「商品は売れているし、利益は出ているのに、手元にお金がない」そんな風に感じている経営者は少なくない。資金繰りの改善は、手元にお金を残すことに直結する。会社の資金不足で悩んでいるなら、資金繰りについて学び、資金繰り改善の手立てを講じることが近道だ。この記事では、経営者が注意したい「黒字倒産」の意味や資金繰りの改善方法を紹介する。
目次
資金繰りとは? 経営者は「黒字倒産」に注意
資金繰り(しきんぐり)とは、会社の収入と支出を管理し、資金が不足しないよう調整することをいう。資金繰りがなぜ重要かというと、資金繰りに失敗すると、「黒字倒産」するリスクがあるからだ。
黒字倒産とは、文字通り、黒字のまま会社が倒産してしまうことを指す。利益が出ていても、資金が底をついて支払ができなくなれば、会社は倒産してしまう。
利益が出ても、そのお金がそのまま会社に残るわけではない。黒字倒産を防ぐには、売上の回収時期や仕入れ先への支払い時期、借入金の返済など、さまざまな要素を考慮して、資金繰りの悪化を防ぐことが大切だ。
資金繰りが悪化する原因と資金繰り改善のアイデア事例7選
まず、資金繰りが悪化する原因と改善方法を具体的に解説していく。
1.売掛金の回収
商品やサービスを提供し、すぐに代金を受け取らないときは、売掛金を計上し、代金は後日回収することになる。しかし、代金の回収がもれたり遅れたりすると、資金繰りが悪化する原因になる。
資金繰りが悪化しているときは、回収できていない売掛金をチェックし、回収に向けて働きかけなければならない。従業員が売掛金の回収に熱心に取り組んでいないことが原因なら、社内教育の徹底や仕組み作りが必要だ。
資金繰りの悪化を予防するには、売掛金を適切に管理する必要がある。得意先をリスト化し、入金予定日を入力して、回収もれを防ぐ工夫をしたい。入金が遅れたら速やかに得意先に連絡し、回収予定日を聞いて入力し、入金を確認する。この作業を繰り返すことで、回収もれや遅延の多くを防ぐことができる。
また、確実に代金を回収できるよう、口座振替やカード決済、キャッシュレス決済を導入するなど決済方法を見直すのも一つのやり方だ。さらに、あまりにも回収もれや遅延が多い得意先に対しては、警告したり取引を断ったりするという選択肢もある。
2.在庫管理の徹底
仕入のタイミングと売れるタイミングが大幅にずれることも、資金繰りの悪化につながる。増えすぎた在庫(棚卸資産)は、仕入れても売れていないことを表す指標だ。仕入先に支払いをしたものの、売れることなく残っている在庫があるなら、販売計画を立てて早めに売り切るようにしたい。
不良在庫の増加を予防するには、在庫管理を徹底し、売れ行きをもとに仕入を調整することが重要だ。適正在庫を決めてズレがないよう管理していくことが望ましい。また、理論上の在庫数と実際の在庫数に開きがないかチェックする作業も重要である。
在庫管理の負担が大きければ、在庫管理システムを導入するのも一つの方法だ。在庫を圧縮できれば、不要な倉庫を解約しコスト削減につなげることもできる。
3.仕入債務の支払い期限の見直し
売上代金を回収できず、仕入れ代金の支払いに追われる状況は、資金繰りが悪化した典型的なケースである。
売上代金の回収が遅れ、資金が不足しそうなときは、仕入れ先と交渉して支払期限を延長してもらうのも1つの選択肢だ。ただし、いざというときに支払期限を融通してもらうためには、日頃から仕入先をきちんと管理して遅滞なく支払い、信頼を積み重ねておく必要がある。
また、支払いに法人向けのクレジットカードを使うと、1ヵ月分支払いのタイミングを先延ばしにできる。
4.借入金の検討や交渉
金融機関と交渉し、金利や返済方法を見直すことで、資金繰りの改善をはかる方法もある。返済期間を長くすれば、それだけでも資金繰りは大きく改善するだろう。
金融機関と交渉するときは、現在の資金繰りの状況や事業の展望を伝え、返済計画を示すことが大切だ。そのためには、資金繰り表や事業計画書を作っておくことが望ましい。
資金繰りの悪化を防ぐため、必要な融資を受けることも大切だ。新規事業の創設や設備投資といったタイミングで融資を検討したい。ただし、過剰な融資は資金繰り悪化にもつながるため、注意が必要だ。
最近では、金融機関からの融資のほか、クラウドファンディングで資金調達するという選択肢もある。
5.不要な資産の売却や活用
不要な資産の売却も、資金繰りにおいてプラスになる。必要ないスペースがあるなら、売却すれば賃料を削減できるだろう。また、管理の手間がかからなくなり、従業員の負担が減って人件費削減につながることもある。
不動産や有価証券、特許権など、使用していない資産や事業活動に影響のない資産について帳簿をチェックし、早急に売却を検討したい。
不動産ならば、テナントとして貸し出して営業外収益を得るのも1つの選択肢だ。
6.投資計画の立案
設備投資では、投資額をどのくらいで回収できるかという視点が重要だ。費用対効果を意識しながら、資金繰りを圧迫しない範囲で投資を行うことを意識したい。
過剰な設備投資は、資金繰りを悪化させる原因になりかねない。そのため、投資の必要性を十分に検討するとともに、投資によって事業にどのようなプラスがあったかを検証することが大切だ。
投資計画を立て、資金繰りに影響が出ないか税理士に相談するのもいいだろう。
7.コストの削減
コスト削減で資金繰りを改善するのも大切な視点だ。無駄な支出、削減できる支出がないか、決算書を見て一つひとつ振り返ってみよう。
電力会社のプランを見直す、テレワークを導入して通勤手当を減らすなど、コスト削減の方法はたくさんある。自分の会社に合った方法を探し、できることからコツコツ取り組むようにしたい。
従業員からコスト削減のアイデアを集め、プロジェクトチームを作って周りを巻き込みながらコスト削減に取り組むのもいいだろう。
資金繰りを改善するための3ステップ
ここまで紹介してきたように、資金繰りの改善にはさまざまな方法がある。しかし、全体像を把握しないままやみくもに取り組んでも、なかなか資金繰りは改善しない。全体像を把握しながら資金繰り改善するために、どのようなステップを踏めばいいかを解説する。
ステップ1 資金繰り表を作成する
資金繰りを改善する上で、資金繰り表を作成することが最初のステップとなる。
資金繰り表とは、お金の動きを把握し、予測する表のことだ。月ごとに売上と仕入、収入と支出を入力し、資金の増減や残高を把握する。これに設備投資や新規雇用の予定などを入力すれば、将来の資金繰りを予測することもできる。
資金繰り表に決められた形式はないので、管理しやすいような表の作成は自由だ。日本政策金融公庫が公開しているオーソドックスな資金繰り表を活用してみるのもいいだろう。
資金繰り表を作っておくと、融資を受けるときや、金利や返済方法の交渉をするときにも活用できる。
ステップ2 アクションプランを立てる
資金繰り表でお金の動きを把握できたら、問題点を分析し、資金繰り改善に向けたアクションプランを立てる。
たとえば、売上代金の回収もれを防ぐため決済方法を見直す、不良在庫をなくすため在庫管理システムを導入する、といった方法が考えられる。
ステップ3 実行に移し効果を検証する
アクションプランを立てたら、実行に移して効果の検証まで行うことが大切だ。資金繰り表があれば、効果が数字で分かるため、次の施策にもつなげやすい。
資金繰りは、一度改善したら終わりというわけではない。資金繰りの改善計画を立てて実行し、効果検証するというサイクルを回すことで、健全な経営状態を維持できる。継続的に資金繰りの改善に取り組むことが大切だ。
中小企業が資金繰りを改善する4つのメリット
それでは、中小企業が資金繰りを改善するメリットについて、4つの視点から解説する。
1.会社を存続させられる
資金繰りが悪化し、支払に必要な資金が不足すると、最終的に会社は倒産してしまう。資金繰り表で会社のお金の流れを把握し、資金繰りを改善することは、会社を存続させることにつながる。会社を存続し、事業活動を続けられることが、資金繰り改善の目的であり、メリットでもある。
2.経営の自由度が上がる
資金繰りが改善すれば、会社に十分な資金が残り、経営の自由度が上がる。設備投資や従業員の待遇改善、経営者の報酬の確保など、経営の意思決定をする上で、元手となる資金は必ず必要だ。会社の資金が増えて経営の自由度が上がるのは大きなメリットといえるだろう。
3.事業を拡大できる
資金繰りが改善すれば、事業拡大や新規事業の創設に取り組みやすくなる。現代は、技術革新をはじめ変化の激しい時代だ。既存の事業だけで売上を維持し、会社を存続させていけるとは限らない。事業を多角化し、時代の変化に柔軟に対応できるのはメリットである。
4.リスクに備えられる
経営リスクに備えられるのも、資金繰りを改善するメリットだ。不良品や情報漏洩、不祥事、災害など、会社経営にはさまざまなリスクがある。対策を講じても、すべてのリスクを排除することは難しい。問題が起きてしまったとき、資金があると、対処しやすくなる。いざというときに備えられるのも資金繰りを改善するメリットである。
資金繰りの改善は会社を守ることにつながる
事業を継続し、会社を永続発展させるためには、資金繰りの改善は必要不可欠だ。資金繰りが悪化すると、利益が出ているのに倒産してしまう「黒字倒産」にもなりかねない。資金繰り表を作ってお金の流れを把握し、資金繰りを改善するとともに、将来の見通しを持って経営のかじ取りをしていくことが大切だ。
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