日本企業の99%を占める中小企業は、経営者の高齢化という課題に直面しており、後継者不在に伴う廃業の増加が懸念されている。事業承継の重要性が増す「大事業承継時代」ともいわれる現代で、事業承継に失敗しないためには何が必要なのだろうか。

目次

  1. 中小企業経営者の高齢化とともに廃業が増加
    1. 2020年に廃業した事業者の6割は黒字、事業承継の難しさ浮き彫りに
    2. 株式譲渡、借入金……後継者難だけではない事業承継の課題
  2. 後継者が事業を引き継ぎたくないと感じる4つの理由
    1. 1.会社に将来性がない
    2. 2.経営に自信がない
    3. 3.今の仕事を辞めたくない
    4. 4.事業承継後の混乱
  3. 事業承継に失敗しないためにすべき3つのこと
    1. 1.事業の将来性を高める
    2. 2.後継者教育
    3. 3.事業承継計画の準備
  4. 後進が経営者になりたいと思うような経営者像を示す
  5. 事業承継は関係者の理解を得ながら計画的に
  6. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
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(画像=ケイーゴ・K/stock.adobe.com)

中小企業経営者の高齢化とともに廃業が増加

事業承継に失敗しないためのポイントを確認する前に、中小企業を取り巻く経営環境について簡単に触れたい。

中小企業庁によると、2000年から2020年の20年間で、中小企業の経営者の年齢層は高齢化した。例えば、2000年の中小企業の経営者を年齢層別でみたとき、割合が最も高かったのは50~54歳だった。

この年齢層のピークは5年ごとに高齢化していき、2020年に入ると、60~70代が中小企業経営者のボリュームゾーンとなった。

<中小企業経営者の年齢層の推移>

出典:中小企業庁ホームページより
出典:中小企業庁ホームページより

2020年に廃業した事業者の6割は黒字、事業承継の難しさ浮き彫りに

中小企業経営者が高齢化するとともに、廃業件数は増加傾向だ。

2014年の中小企業の休廃業・解散件数は3万件あまりだったが、2020年には4万9,698件まで増加した。2020年に関しては、実に6割超の事業者が黒字だったにもかかわらず廃業しており、中小企業の経営環境の厳しさを物語っている。

また、日本政策金融公庫総合研究所が実施した2020年の別の調査では、廃業事業者のおよそ3割が後継者難を理由に挙げた。「事業に将来性がない」との回答も24.4%と高く、事業承継の難しさを浮き彫りにしている。

株式譲渡、借入金……後継者難だけではない事業承継の課題

事業承継を望む中小企業経営者が直面している課題は後継者難だけではない。

東京商工会議所が2020年に実施した事業承継に関するアンケートは、後継者(候補を含む)の有無別に、経営者に事業承継の障害や課題を尋ねている。

それによると、後継者がいる企業が挙げた事業承継の課題としては、「後継者への株式の譲渡」(38.4%)、「借入金・債務保証の引継ぎ」(32.0%)、「後継者教育」(27.4%)などが多かった。

後継者が事業を引き継ぎたくないと感じる4つの理由

後継者側の視点に立つと、どのような場合に事業承継をしたくないと感じるのだろうか。

1.会社に将来性がない

日本政策金融公庫総合研究所の調査でも回答として示されたように、引き継ぐ事業に将来性があるかどうかは事業承継の成否に重要だ。

2019年版「中小企業白書」は、事業承継の後継者が直面している課題についての調査結果を紹介している。ここでは、事業承継の後継者候補を、事業を継ぎたいと考えているがまだ合意はとれていない「積極的後継者候補」と、前向きではないが事業を継ぐかもしれないと考えている「消極的後継者候補」に分類した。

この「消極的後継者候補」に、事業を継ぐことに前向きでない理由を尋ねたところ、「事業の将来性」と回答した割合が40.4%だった。これとは対照的に、「積極的後継者候補」に事業を継ぎたい、または継いでもよいと考える理由を尋ねたところ、30.0%が「事業に将来性があるから」と回答した。

後継者候補が積極的か消極的かに関しては、事業の将来性が大きく影響していることが読み取れる。

2.経営に自信がない

事業の将来性と同様に、引き継いだ会社を経営していく自信が持てないことも、後継者が事業承継に前向きになれない理由として大きい。「消極的後継者候補」に事業を継ぐことに前向きでない理由を尋ねた質問で、最も多かった回答は「自身の能力不足」の57.6%だった。

さらに、「消極的後継者候補」を「事業の将来性に懸念がある」グループと、「事業の将来性に懸念はない」グループに分けて、事業の将来性が経営に対する自信にどのような影響を及ぼしているかを分析した。

結果は、「事業の将来性に懸念がある」グループで、「自身の能力不足」を事業承継に前向きになれない理由として挙げた割合が57.4%、「事業の将来性に懸念はない」グループは57.7%だった。

つまり、事業の将来性の有無にかかわらず、「消極的後継者候補」の半数以上が、会社を引き継いだ後の経営に自信が持てない実態を示している。

3.今の仕事を辞めたくない

事業承継に対して前向きになれない主な要因は、事業の将来性と経営に自信が持てないことの2つだが、他にも理由はある。

例えば、後継者候補が引き継ぐ会社の事業とは別に仕事をしており、その仕事を辞めたくないというケースだ。「消極的後継者候補」が前向きになれない理由として3番目に多かったのが、「現在の仕事への関心」の28.6%だった。

4.事業承継後の混乱

会社を引き継いだ後に社内でさまざまなトラブルが生じ、事業承継に失敗した事例もある。例えば、後継の経営者のことを他の従業員が認めておらず、離職者が相次いだり、反対に後継者を追い出そうとしたりするケースだ。

家族経営の会社の代替わりで親族トラブルが生じ、資金流出が起きて業績悪化につながることや、後継者に反目するベテラン従業員との関係がこじれ、ひいては取引先が離れることも珍しくはない。

あるいは、後進に道を譲ったはずの前経営者が影響力を持ち続け、会社の意思決定に口をはさむなどして混乱が深まる場合もある。いずれのケースでも、トラブルの収拾に手間取り有効な対策を打てなければ、最悪廃業に追い込まれるかもしれない。事業承継は会社を引き継いだ後のことまで考えて行う必要がある。

事業承継に失敗しないためにすべき3つのこと

以上の点を踏まえ、事業承継に失敗しないためには何が必要だろうか。

1.事業の将来性を高める

「消極的後継者候補」のおよそ4割が事業承継に前向きになれない理由として事業の将来性を挙げていることからも、事業の将来性を高めることがいかに重要かわかる。

もっとも、一口に事業の将来性を高めるといっても、それは簡単なことではない。どのタイミングで事業を引き継ぐかを見据えながら、人材育成に業務改善、コスト削減などを進め、先々の見通しを示していくほかはないだろう。

2021年版の中小企業白書によると、事業承継を実施した企業の当期純利益成長率は、そうでない同業企業の平均値と比べて、約20%高かった。後継者候補に自社に将来性があることをいかに示していくか、工夫と努力が必要だ。

2.後継者教育

事業の将来性にかかわらず、半数以上の「消極的後継者候補」は経営に対して自信を持てないでいる。後継者をいかに育成していくかも事業承継の成否を左右する。

後継者の育成に関しては、社外で経験を積ませる方法と社内で教育する方法の2種類がある。

社外教育のメリットは、自社では経験できない仕事などを通じて新たなスキルや経営手法を身につけられたり、人脈を広げられたりする点だ。社内で後継者を育成するメリットは、さまざまな部門を経験させて業務全体のプロセスを理解させたり、経営幹部として参画させ、使命感や責任感を養ったりできることである。

いずれか一方のみで後継者を育成するのではなく、若いうちに社外経験を積ませ、後に社内に戻して経営者としての自覚を促すなど、年齢やタイミングを考慮して中長期的に育て、自信をつけさせるのがよいだろう。

3.事業承継計画の準備

会社を引き継いだ後に社内トラブルが生じて事業承継に失敗することを回避するためには、入念な事業承継計画も必要だ。

従業員や取引先など関係者の理解を得ずに拙速に事業承継を進めれば、思わぬトラブルを招きかねない。後継者候補に対して他の従業員がどのような思いを抱いているか、また、親族の間で不満がくすぶっていないかなど、関係者の気持ちに意識を向けることも重要だ。

事業承継の場面では、自社株や土地、借入金の扱いなども焦点になる。後継者と緊密にコミュニケーションをとりながら齟齬が生じないようにし、事前に計画を立てて、関係者の理解を得ながら円滑に進めたいところだ。

後進が経営者になりたいと思うような経営者像を示す

事業承継の課題の1つが後継者不足である以上、後進が経営者になりたいと思うような経営者像を示すことも肝要だ。そのためには、経営に関心を持っている世代が経営者に対してどのような憧れを抱いているのか、知っておいて損はないだろう。

日本政策金融公庫総合研究所の「2021年度起業と起業意識に関する調査」によると、起業関心層が起業したいと思う理由で最も多かったのが「収入を増やしたい」の61.6%だった。次いで多かったのが「自由に仕事がしたい」の48.9%で、「自分が自由に使える収入が欲しい」が17.5%と続いた。

同調査では、実際に起業した起業家にも、その動機を尋ねている。起業の動機として最も多かったのは「自由に仕事がしたかった」の61.1%で、続いて多かったのが「収入を増やしたかった」の39.6%だった。

2つの質問からうかがえるのは、経営に関心を持つ世代が、「自由に仕事がしたい」という思いと、収入増への憧れを抱いていることだ。

後継者の事業承継に対する思いはそれぞれ個別の事情があるだろうが、一般的にこのような経営者像を抱いているという点は留意しておいてよい。

事業承継は関係者の理解を得ながら計画的に

6割超の事業者が黒字にもかかわらず廃業する「大事業承継時代」にあって、後継者を確保し育成することは容易なことではない。しかし、後進が育たなければ自身が築いてきた会社の存続が危ぶまれるのも事実だ。

少なくない後継者候補が経営に対して自信を持てないでいる。後継者教育を適切に行い、自信を養っていくことが重要だ。また、事業の将来性に対する不安が事業承継に二の足を踏む要因となっており、いかに将来性を示すかも後継者の確保には欠かせない。

さらに、事業を引き継いだ後に生じた社内トラブルなどで事業承継が失敗するケースもあり、計画的に関係者の理解を得ながら事業承継を進めることも肝要だ。

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