今後、食品業界の将来のカギを握るであろう「フードテック」。その注目度は、年々増加するフードテックへの投資額からも窺えます。また最近では、日本のスーパーやホテル、レストランなどで代替肉を見かけることが増え、その認知度は一般消費者の間でも高まっています。
そしてフードテックを語る上で欠かせないのが、イスラエル。11月7日(月)にテルアビブで開催されたフードテック最大級エキスポ「Foodtech IL 2022」の入場券は、なんと開催1ヶ月近く前から完売!イスラエル国内はもちろん、ヨーロッパやアメリカ、日本、韓国、中国、インドといったアジアからも、たくさんの人が来場しました。
エキスポには、日本・イスラエル外交関係樹立70周年を記念したNEW-IJ主催のジャパン・パビリオンも出展。「日・イ食の融合」をテーマとしたミニイベントが開催されました。さらに、前回の記事「イスラエルのフードテックが和に挑戦!NEW IJ主催、フードコンテスト」で紹介した、コンテストの最優秀賞発表および賞の贈呈も行われました。
今回は、今世界が最も注目する最先端フードテックが集結した「Foodtech IL 2022」のレポートをお届けします。
目次
危機管理の一つ!?イスラエルがフードテックに力を入れる理由
エキスポのレポートをお届けする前に、まずはイスラエルにおけるフードテックの位置づけを簡単にご説明しましょう。
イスラエルのハイテク技術は、サイバーテックやロボット工学、AIなど、軍事国防関連から発達した防衛技術に特化していると思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かにそれも事実ですが、実はイスラエルにおけるフードテックは、健康や動物愛護といった視点のみならず「将来訪れる世界的食糧危機を回避するため」という危機管理の考え方が定着しており、危機管理は防衛技術とともに国が最も強く力を入れ、世界でも最先端をリードする産業分野の一つなのです。
イスラエルは資源に乏しく食料育成に厳しい自然環境下にあります。日本の四国程度という小ささの国土のうちの60%が砂漠であるイスラエルでは、世界中で水不足の危機が叫ばれる前から水不足は緊急に解決すべき課題でした。
さらに、現在でこそ中東の和平が進み周辺諸国との関係もかなり改善されましたが、建国当初は周辺諸国の全てが敵国という、厳しい状況で自給自足を実現しなければ国の存亡が怪しまれるという環境にあったのです。
また、宗教の戒律にも特徴があります。全体の人口の80%近くがユダヤ人であるイスラエルでは、宗教的な戒律を厳格に守っていなくても禁忌とされている食べ物は口にしない、という人は多くいます。日本でもイスラム教のハラール食は馴染みがあるかもしれませんが、その戒律の元となったユダヤ教の食物規定カシェルートはハラール食のさらに上をいく厳格さ。禁忌の食べ物があるだけでなく、食べ合わせや家畜農作物を育て加工する環境、過程、器具にまでも事細かな決まりがありるのです。
「食べ残したらバチが当たる」という感覚を多くの人が共有している日本人には馴染みが薄いかもしれませんが、彼らには「食べたらバチが当たる」という感覚が存在し、それが食べ物の厳選にさらに拍車をかけているのです。
そんな環境にあるイスラエルでは「一定の条件を満たした食用可能な食物を、いかに少ない資源と労力で、どれほど大量に作るか」を農産の根本の考え方としてきました。豊かな水と肥沃な大地に恵まれた自然環境のもと「丹精込めて美しくおいしく」と高品質の農産を目指した日本とは、真逆にあると言っても良いでしょう。
…と、前置きが長くなってしまいましたが、イスラエルのフードテックに関する肌感覚をご理解いただけたかと思います。それではお待たせいたしました、Foodtech IL 2022へようこそ!
主催はイスラエル大手食品会社。「Foodtech IL 2022」概要
Foodtech ILは、イスラエルに本社を置く大手食品会社シュトラウスが毎年開催しているフードテックの展示会です。イスラエルの経済産業省とイノベーション・オーソリティが後援となりテルアビブのチャールズ・ブロンフマン・オーディトリウムで開催されました。2500人収容可能な大きなコンサートホールから(このホールの改築プロジェクトには国際音響学者の日本人、豊田泰久氏が大きく関わっています。)200人程度を収容する小さなホールも兼ね備えていて、イスラエルで開催される重要な国際的コンサートやコンベンションなどが各種ここで行われています。
上述した通り展示会の入場券はソールドアウト!会場の中のみならず外の広場まで、多くの人でとても賑わっていました。
展示会ではスタートアップの展示ブースが約70カ所設置され、コンサートホールではフードテックに関わる講演会が行われました。企業マッチングプレイスではBtoBミーティングが行われ、会場全体で提供される飲み物や食べ物は全て無料。展示しているスタートアップの技術を駆使して作られた、新しいタイプの食べ物や飲み物をたくさん試食させて頂きました。
スタートアップ企業と投資家で大賑わいを見せる会場
人混みをかき分けながら会場を歩いていくと、スタートアップのブースが大賑わいです。
空腹や血糖値と関係なくチョコレートなどの糖分を摂取したくなる衝動を抑えるチューインガムを開発した”SweetVicrtory”、3Dプリンタで培養肉を製造する”Steakholder Foods”(最近日本でも商標登録を取得しました)、人工的に成分を培養させる自然環境を整え、牛を使わずに牛乳を製造する”Imagindairy”、独自のオルガノイド技術で自然の組織形成を利用した魚肉培養の”Forsea”など、一口にフードテックと言っても様々な分野に及んでいることがわかります。
そのブースの間を、目を光らせながら歩いているのが世界各国のVCや投資家、食品会社の開発部門や市場部門の担当者達です。次世代を担い大きく成長する可能性のある技術への投資相手や、共同開発のパートナーを逃してはならないと、スタートアップの説明に耳を傾けています。
対するスタートアップも世界市場デビューへの切符を手にするチャンスはここぞとばかりに売込みをかけてきます。彼らが開発した技術が世界的な食の課題を解決するためにどれほどのインパクトがあるのか、その独自性や付加価値を、現在の世界的フードテック・マーケットのデータをあげながらサンプルを提供しつつ説明しています。
私自身はフードテックビジネスの専門家ではありませんが、こんなにたくさんの食の技術が集結している会場を見て回っているうちに、将来の食糧不足や環境破壊を食い止める技術がここから世界に広がっていったらすごいなあと、希望を膨らませる気持ちになりました。
ここのブースで目にして試食品をいただいたスタートアップがいつか世界的にポピュラーになるのかもしれない…と、興味の湧いた会社名と食品の味を記憶にとどめておこうと思ったものです。
日本・イスラエル外交関係樹立70周年記念イベントも!ジャパン・パビリオン
この様にグローバルを意識せずにはいられないイスラエルのフードテック展示会ですが、もちろん日本もその中で存在をアピールしています。それが冒頭にご紹介したNEW-IJ主催のジャパン・パビリオンです。
イスラエルと深い縁をお持ちの鎌田敏行氏が会長を務める和食レストランチェーンサガミホールディングスの宇宙日本食、こだわりの有機農業でお米を生産する出羽弥兵衛株式会社、創業398年という日本酒の老舗株式会社福光屋、天然素材のみで作られた繰り返し使える蜜蝋ラップを開発したロゼッタワークス株式会社、大豆を丸ごとペーストにした株式会社インターキューブ soyAiなど、日本発の未来の食にまつわる品物が展示されました。
また、イスラエルのお茶の老舗Zissotzky社と漢方の漢満堂の合同展示もありました。これらジャパン・パビリオンの参加企業にはNEW-IJの企画により、イスラエルの企業とのマッチングミーティングも行われました。
また平成27年度「現代の名工」「秋の黄綬褒章また平成27年度「現代の名工」「秋の黄綬褒章「外務大臣表彰」を受賞した西宮孝哲氏が、NEW-IJの招待でジャパン・パビリオンに参加し、日本の「お弁当」を展示。イスラエルのフードテックにより誕生したバッタパウダー「Hargol」を利用して作られたつくねなど、ここにもイスラエルのフードテックと和食の融合が取り入れられました。
「外務大臣表彰」を受賞した西宮孝哲氏が、NEW-IJの招待でジャパン・パビリオンに参加し、日本の「お弁当」を展示。イスラエルのフードテックにより誕生したバッタパウダー「Hargol」を利用して作られたつくねなど、ここにもイスラエルのフードテックと和食の融合が取り入れられました。
さらにこのブースでは日本・イスラエル外交関係樹立70周年を記念してミニイベントも行われました。
在イスラエル日本大使館の水嶋光一大使もご挨拶に駆けつけてくださり、賑やかなジャパン・パビリオンは人だかりの山。日本イスラエル商工会議所のゼエブ・ワイス元会長や、イスラエル国会議員ツビ・ハウザー氏のスピーチ、東京都知事小池百合子氏からのNEW-IJあてのメッセージビデオなど、多くの方からの日イ交流強化に対する強い期待と、NEW-IJの活動に対する高い評価を実感しました。
そして最後にジャパン・パビリオン、ミニ・イベントの最大の目玉、プレ・イベントとして行われたイスラエルのフードテックと和を融合したフードコンテストの結果の発表となります。
日イ融合、フードテックの頂点に輝いたのはXXをクリームの中に閉じ込める技術!
コンテストには、デーツシロップを作った後に廃棄されていたデーツを利用して製造されたデーツ醤油や、植物由来の卵ZeroEggによるだし巻き卵風、植物由来の代替肉Redefine Meat による和風ステーキなど、いくつもの日イ融合のメニューが発表されました。審査員は在イスラエル日本大使館の公邸調理人柴田得雄氏及び、イスラエルでフードコンテスト番組を国民的関心ごとへと押し上げ、いくつもの有名レストランを持つ一流シェフ、エヤル・シェニ氏。
どれも甲乙つけがたい作品たちでしたが、最終的に最優秀賞に輝いたのは、こちら!
アルコール分をクリームの中に閉じ込めるという特殊な技術を開発したCreamcol社のアルコールクリームを使い、日本の抹茶と融合させたデザートを作ったロニット・ブランドさんの抹茶ボールです!ロニットさんには賞品として日本行きの航空チケットがNew-IJよりプレゼントされました。
まだまだ続く、イスラエル・ツアー
開催期間は1日という短い展示会ではありましたがその内容は盛りだくさんで、イスラエルのフードテックにかける「本気」を目の当たりにしたような気持ちです。この展示会の取材を通して私もフードテックの現在についてたくさん勉強させていただいたと思っています。
NEW-IJが企画したイスラエル・ツアーは実はこの展示会だけにとどまりません。一行はここからイスラエルのデザートテック、アグリテック、フードテックの企業を回るツアーに参加し、一方でこの期間中、現代の名工西宮先生による日本食をイスラエル人に教える料理教室が開催されました。その様子も取材しましたので、皆さんにお伝えしたいと思います。
次回は一行のテックツアーの様子です。どうぞお楽しみに。