近年は、VR(バーチャルリアリティ)をはじめとする仮想空間での体験がさまざまな分野で広がりを見せている。XRは、そうした人工的な現実感をもたらす技術の総称だ。ゲームやエンターテインメントを想像する人も多いかもしれない。しかしすでに医療や教育、製造、物流などのビジネスゾーンでも多くの活用が見られるようになってきた。

本稿では、市場規模が急激に成長し今後は多方面への活用が見込まれるXRの技術について解説していく。

目次

  1. XRとは?
    1. XRの読み方・意味
    2. XRの種類
    3. XRとメタバースとの違い
  2. XRが注目される背景
    1. 技術の進化
    2. 社会生活の変化
  3. XR導入のメリット
    1. 時間や場所を問わず、高い再現性で環境や空間が構築される
    2. 危険なく試乗や訓練、シミュレーションが可能となる
    3. サービス提供や顧客対応教育など訓練の効果が高い
    4. 仮想体験を通じて現実味のある経験が得られる
  4. XRの市場動向と今後の予測
  5. XRの活用事例
    1. コンビニエンスストアにおける社員研修
    2. 不動産会社のオンライン内見会
    3. バーチャル会議
    4. ショッピング
  6. XRに関するQ&A
    1. Q.XRの具体例は?
    2. Q.XRとは 何の略?
    3. Q.XRの日本語訳は?
    4. Q.XR技術の読み方は?
  7. 無限の可能性が広がるXR
コンビニ業界の研修は仮想空間で? 多方面で活用されるXRとは?
(画像=oksix/stock.adobe.com)

XRとは?

はじめにXRの概要と種類、また混同しがちな用語との違いについて確認しておこう。

XRの読み方・意味

XRは、「クロス・リアリティ」または「Extended(拡張・広げる) Reality」を意味する。アルファベットで「エックスアール」と呼ばれることが多い。XRは、現実世界と仮想世界の融合により擬似体験を生み出す技術で仮想現実に関わる用語を総称するものとして使われている。仮想的現実を表す用語として有名なのがVR(バーチャルリアリティ)だ。

しかし近年は、AR、MR、SRなどのさまざまな技術が登場し、その境界線があいまいになってきている。共通しているのは、サイバー空間に新たな世界を構築する技術であり、汎用的に使える用語としてXRが使われるようになった。

XRの種類

先にも示したようにXRを構成する技術は多岐にわたり、主に以下のようなものがある。

・VR(Virtual Reality:仮想現実)
ゲームやエンターテインメントですでにおなじみとなっているVRは、CGや3D技術によって構築された仮想空間を現実のように体験できる技術だ。一般的には、専用デバイスやゴーグルなどを用いて仮想世界への没入感を得る。フルCGによって描かれているのが特徴。

・AR(Augmented Reality:拡張現実)
ARは、現実を仮想的に拡張する技術だ。現実世界に仮想空間を重ねることでリアル空間に非現実を出現させられる。代表的な例としては、一時世界を熱狂させたスマートフォン向けアプリの『ポケモンGO』もARの一つだ。現実の世界が基礎となっていることが特徴でデバイスやアイテムを通すと新たな世界が出現する。

スマートフォン、スマートグラスを用いるサービスが多く美術館や博物館、観光地などでの案内でも活用されている。

・MR(Mixed Reality:複合現実)
MRは、VRとARをミックスした中間的な技術だ。AR以上に現実感があり、仮想世界と現実世界が密接に重なる。本当に実在しているかのように感じられ、複数人での作業もでき現実世界とCG画像の高度な物理的融合が特徴だ。ヘッドマウントディスプレイなどを用いることが多く研修やトレーニングの現場での採用が進んでいる。

・SR(Substitutional Reality:代替現実)
SRは、過去の映像と現在の空間を重ね合わせる技術だ。より一層非現実と現実の境界が感じにくいため、錯覚しやすくなる。2022年時点では、まだ実用化に至っていないが、これまでの技術よりもさらに本物の体験が可能となることが期待されている。他の技術と比べると認知度は低いが、実用化が進むことであらゆる分野での概念を変えることになりそうだ。

XRとメタバースとの違い

近年耳にすることが多くなったメタバースとは、オンライン上でのコミュニケーションやコンテンツが提供されている3次元的バーチャル空間のこと。メタバースでは、参加者がアバターを通じて経済活動や趣味、娯楽を行うことが可能となる。ただメタバース自体は、XR環境がなくても利用可能である点には注意したい。

メタバースにアクセスできる環境であれば普通に利用ができるが、XRと融合することで参加者はよりリアルな体験ができる。ビジネス向けメタバースにもVRゴーグルを着用し、360度仮想空間で会議や打ち合わせが可能となるサービスがある。VRを活用すれば遠隔地にいるビジネスパートナー同士が、あたかも隣に座って話し合っているかのようなリアルな体験を得られる。

XRが注目される背景

近年XRが注目されている背景を見ていこう。

技術の進化

・5G「第5世代移動通信システム」の実用化
5Gは、高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続を実現する新しい通信技術だ。モバイルなどで用いられている次世代通信規格の5世代目を意味し、すでに日本では2020年春から商用サービスが開始している。どのようなデバイスを利用するにしても、高速で安定した通信ができなければXRの世界にアクセスすることはできない。

そのため5Gの普及は、XRを各所で活用するために不可欠なインフラとなる。

・デバイス・ソフトの進化
デバイスやソフトの進化は、VRで必要とされる高画質なビジュアル、立体的な音響効果を実現する。肉眼と差を感じない視野やダイナミックな音の世界がさらなる没入感を生み出す。またセンシング精度の向上により微妙な動作を感知し仮想的世界になめらかな変化を与え続けられる。

かつては、大規模スタジオなどの特殊な施設のみで可能であったこれらの技術が、ハードウェアの低価格化により身近なものとなってきたことも大きな要因だ。

社会生活の変化

・消費者の志向変化
XRでは、これまで誰もが経験したことのない未知の世界を気軽に体感できる。インターネットで世界がつながり、消費者は自分で検索したりSNSなどから膨大な知識を得たりしながら非常に詳細な好みに合わせた買い物ができるようになった。市場の変化はスピーディで新商品が次々に投入され、発売と同時に陳腐化する時代だ。

「モノ消費」から「コト消費」の体験重視へと消費者の志向が変化する現代において、XRは新たなビジネスへの起点となる可能性を秘めている。

・コロナ禍による働き方の変化
2020年から猛威を奮っているコロナウイルスによって世界のすべてが大きな影響を受けた。感染を食い止めるためにビジネスでは人との距離を保ちながら働ける環境が求められた。リモートワークやテレワークの導入で課題とされたのが、コミュニケーションの維持である。こうしたニーズへの対応策としてXR技術のビジネス活用が急激に進むこととなった。

XR導入のメリット

XRは、現実で実現しづらい状況まで視覚や聴覚、体感で提供することが可能となる。XRの導入効果としては、主に以下のようなものが挙げられる。

時間や場所を問わず、高い再現性で環境や空間が構築される

XRは、現実と近い環境をいつでも再現できる点がメリットだ。遠隔地にいるメンバーが話し合ったり共同作業したりする際に「同じものを見る」「同じ音を聞く」といった経験を共有すれば意思疎通がしやすくなり、同程度の理解を得ることが期待できるだろう。同空間にいるのと同様の密なコミュニケーションができるため、連帯感や同一意識が持ちやすくなる。

危険なく試乗や訓練、シミュレーションが可能となる

XRの活用が最も進んでいるのが、さまざまな機器類の操作や業務訓練の現場だ。操作に不慣れな場合や危険な現場では、実地訓練が難しいこともある。しかしXRを使えば安全に業務上で必要な感覚を養うことが可能だ。現実感に満ちたリアルな恐怖を通じて緊急時の対応を何度でも練習することができる点はメリットといえる。

サービス提供や顧客対応教育など訓練の効果が高い

XRを活用した教育では、一般的な手法で行うよりも各段に高い効果が得られる点もメリットの一つだ。ゲームに慣れた子どもの教育では、教師の口頭やテキストだけの授業よりも理解しやすいとされる。ビジネスにおいても顧客へのサービス提供やコミュニケーション対応などバリエーションに富んだ具体的なシチュエーションをいくつも設定できるため、応対技術が身に付きやすいと考えられる。

仮想体験を通じて現実味のある経験が得られる

世の中には「体験してみないとわからない」「判断がつかない」という場面が数多くある。購買活動の場もその一つだ。XRを購買体験に活用することで顧客に現実味のある経験を提供できる。観光業や自動車ディーラー、不動産業などでは、セールスプロモーションにVRを取り入れることで訴求効果の拡大を図れるだろう。

XRの市場動向と今後の予測

XR市場は、今後も急激な規模の拡大が予測されている。2022年5月に株式会社矢野経済研究所が公表している「XR(VR/AR/MR)360°動画対応HMD市場に関する調査」によると特にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の普及が市場をけん引。2021年国内出荷台数約72万台が2027年には約386万台と5倍以上の拡大が予測される。

XRは、ゲームや動画視聴を中心に教育・研修分野や販売分野などビジネス導入が急拡大しているのが現状だ。一方、ARは建築・建設現場や物流など企業向けが主体だ。2022年度に5G環境の整備が加速しXRの導入を後押しする要因となっている。さらに2024年の官民連携によるプラットホーム、スマートシティの運用本格化がXRへの大きな波及効果が見込まれる。

XRの活用事例

すでに多くの分野でXRの実用的な活用が始まっているが、ここでは具体的な活用事例を紹介していく。

コンビニエンスストアにおける社員研修

大手コンビニエンスストアチェーンでは、教育担当者の負担を軽減するためにXRによる研修システムを導入。XRが提供する仮想空間において具体性のあるさまざまな場面を通じて現実的な接客経験が体験可能だ。近年増加する外国人従業員に向けて多言語自動翻訳機能を活用しながら業務スキルの向上を図っている。

不動産会社のオンライン内見会

不動産業界では、XRを活用したオンライン内見会で時間や交通費の削減効果を上げている。希望者を現地に案内する前に、XR内見することで実際の内見とのイメージのギャップを回避。効率的な成約につなげられる。近年は、VR内見のみでの成約も見られるといい、再現精度、利用者満足度の高さがうかがえるだろう。

バーチャル会議

コロナ禍を契機にVRを活用したバーチャル会議を取り入れる企業も増加している。遠隔地の人員も柔軟にワークショップや会議に参加可能となり全社的な意識の統一や社内統制にも貢献。一般的なオンライン会議と比べても現実世界と同様の共有体験ができるXRでは、よりコミュニケーションの活発化が期待できる。

ショッピング

XRを使った進化形サービスでは、バーチャル空間のショップ内で購入・決済まで完結することが可能となった。これまでもVRショッピングは提供されていたものの、新しいサービスでは他サイトへ遷移せずに決済でき深い没入感とスムーズな決済体験が提供されている。ユーザーの高揚感を損なわずに買い物体験が完了するため、リピートへの強力なアピール要因となっている。

XRに関するQ&A

Q.XRの具体例は?

A.すでにゲームやエンターテインメント、ショッピングなどで活用されている。また近年は、企業内におけるバーチャル会議や各種の研修・教育、内見会・見本市、乗り物系操作技術取得のシミュレーションなど、多種多様な業界で実用化が進んでいる。特に研修分野では、積極的に取り入れる企業が増えている。

例えばコンビニチェーンでの接客対応や営業系のロールプレイングなどでは、さまざまなシチュエーションを想定できて対面教育よりも制限や負担が軽減するため、重宝されている。

Q.XRとは 何の略?

A.XRとは、「クロス・リアリティ」もしくは「Extended Reality」の略だ。「X」は、広がりや多様化する技術の変数を意味する。仮想的世界を構築する技術は、VRをはじめとしてすでに広く浸透しておりAR、MR、SRなど続々と進化系が登場している。そうした技術は、非常に境界があいまいであるため、仮想的な空間に関連する技術をまとめて表現するためにXRという呼称が用いられている。

Q.XRの日本語訳は?

A.直訳はなく「VR」「AR」「MR」といった先端技術の総称として使われる。VRは、CGや3D技術によって構築された仮想空間を現実のように体験できる技術だ。ARは、現実を仮想的に拡張する技術。MRはVRとARの中間的な技術でAR以上の現実感がもたらされる。このほか、さらなる進化形として、SR(代替現実)が登場している。

Q.XR技術の読み方は?

A.「エックスアール」「クロス・リアリティ」「エクステンデッドリアリティ」などと呼ばれる。XR技術とは、 VR・AR・MRのように現実世界と仮想世界を融合したり重ね合わせたりして新しい体験を提供する技術の総称だ。多くの場合は、ヘッドマウントディスプレなどを用いて視覚や聴覚、さらに触覚を刺激し、現実感や没入感を与える。

無限の可能性が広がるXR

XRは、さまざまな仮想空間における活動の総称ともいえる技術だ。最先端技術でありながら、すでに個人利用レベルから多様なビジネスニーズに対応するまでになっている。テクノロジーの進化が現実世界と遜色ない体験をもたらしアイデア次第で可能性は無限に広がるだろう。自社の教育や営業、製造などの課題解決に「XR活用」という新しい手段の導入を検討してみてはいかがだろうか。

著:千葉 悦子
MOS(マスター)、統計士、着付け技能士、スペイン語検定2級、生涯学習インストラクター、アドラー心理学講師、プロカウンセリング、対人魅力コーチ、データベースインストラクター、PC講師、キャリアカウンセリング、心理カウンセリングなど多くの資格を所有。現在はビジネス系、IT系、転職・求人系、人事管理などの記事を多く執筆。アドラー心理学をベースとしたメンタル記事も得意。
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