インターネットを通じて「貸したい人」と「借りたい人」がマッチングし、モノや空間を共有するサービスが人気だ。労働力やスキルなど目に見えないものをシェアするケースもあり、さまざまな事業が新しく誕生している。
好調に市場が拡大している反面、法整備や補償設計が追いついていなかったり、安全性や信頼性に懸念点が多かったりと、問題も残る。シェアリングエコノミーの現状や課題を解説する。
目次
シェアリングエコノミーとは?
さまざまなモノを「シェア(共有)」する経済モデルであるシェアリングエコノミーの定義や、昨今注目されてきた経緯について大まかに説明する。
概念や目的は?
シェアリングエコノミー(Sharing Economy)とは、インターネットを介して個人や企業の間でさまざまなモノを売買したり、貸し借りしたりする経済モデルを指す。モノや場所、スキル、労働力など対象は多様だ。
シェアリングエコノミーでは、それまで十分に活用されていなかった資産を利用して、多様なニーズを満たすことが期待される。自然災害などの非常事態にも柔軟に対応できるような社会、そして「持続可能な循環型社会等の実現に貢献すること」を目的に、デジタル庁も推進している。
いつごろから認知度が高まった?
シェアリングエコノミーに対する消費者の意識を把握するため、PwCコンサルティング合同会社が16歳〜70代の男女に対し「国内シェアリングエコノミーに関する意識調査」を実施している。
2021年の調査によると、シェアリングエコノミーの認知について「具体的に知っている」または「聞いたことはある程度」と回答した人の合計は全体の27%だった。2017年の割合は19.1%、2018年は22.1%、2019年は26.9%、2020年は26.7%と、順調に増加している。2019年ごろからシェアリングエコノミーの認知度が上昇し、現在では約4人に1人が認知している状況だと言える。
市場規模や将来性は?
一般社団法人シェアリングエコノミー協会と情報通信総合研究所による共同調査「シェアリングエコノミー関連調査 2021年度調査結果」では、シェアリングエコノミーの市場規模は2021年度で2兆4,198億円だった。順調に成長しており、現状のペースだと2030年度には7兆6,455億円に至ると予測している。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響や認知度の低さといった課題が今後解消されれば、2030年度は14兆2,799億円に拡大する見込みだ。
シェアリングエコノミーとSDGs
シェアリングエコノミーはSDGs(持続可能な開発目標)にも多様な貢献が可能だ。例えば、働き方に関するシェア事業は働きがいを感じる人を増やしたり、失業を回避できる人を増加させたりする。それによって、SDGsに掲げられている目標の1つ「働きがいも経済成長も」に対応する。
その他、移動手段のシェアは「住み続けられるまちづくりを」に、既存の資産を活用することによる資源消費の減少やごみ処理などにかかるCO2の削減で「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」にそれぞれ貢献する。
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シェアリングエコノミーのサービス分野
シェアリングエコノミーの対象となる分野は非常に多岐にわたる。場所や空間に関するサービスから、移動手段、モノなど形があるものから、スキルや労働力など目に見えないものもある。具体的にどのようなサービスがあるのかを紹介する。
「場所」や「空間」に関するサービス
空間を提供するシェアリングサービスとしては、例えばシェアオフィスの需要が高い。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、通勤を減らすリモートワークが推奨されていることが追い風となっている。法人や個人で契約できるシェアオフィスや個室デスクなどを日常的に利用する人も珍しくない。
イベントや交流会を開催する際に会場として一時的にスペースを借りる場合や、写真撮影やデートの目的でスペースをレンタルするケースもある。空き家や空き物件の他、廃校となった校舎などを貸し出して、有効活用する例も増えている。
自宅などに旅行者を宿泊させる「民泊」も、場所をシェアする事例として挙げられる。
「移動手段」に関するサービス
自動車や自転車など、移動手段をシェアする事例もある。事前予約や長時間利用が前提となるレンタカーやレンタサイクルに比べて、月額登録などをしておけばいつでも手軽に利用できるカーシェアやシェアサイクルは、短時間利用に適した料金プランも多い。エリア内に複数の拠点があり、借りた場所とは異なる拠点での返却が可能な点も魅力だ。通勤・通学や観光で利用されている。
その他には、キャンピングカーなど特殊な車両のシェアや、クルーザーとスタッフを提供するサービスもある。
「モノ」に関するサービス
服飾品や家電製品、家具などをシェアするサービスも人気だ。着物やドレスなど特別なシチュエーションで着用するものや、モデルルームで短期的に使う家具などとの相性が良い。ベビーベッドやおもちゃ、ベビー服など使用期間が限られている子ども用品のシェアも人気だ。
「スキル」や「労働力」に関するサービス
シェアリングエコノミーの対象になるのは、目に見えるモノだけではない。翻訳やプログラミング、デザインなどのビジネスプロフェッショナルスキルを持つ人が、クラウドソーシングなどを通じて技術を提供することができる。
料理や介護、家事などを代行するサービスやベビーシッターなども、スキルや労働力を提供しシェアする事業に含まれる。
「お金」に関するサービス
プロジェクトなどの資金を募るクラウドファンディングや、必要なときに十分な資金が手元にない場合に先払いで資金調達するサービスなど、お金にまつわるシェア事業もある。スタートアップ企業や中小企業、フリーランスなどの積極的な活動を後押しする方法として注目を集めている。
シェアリングエコノミーのスキーム
シェアリングエコノミーのビジネススキームは、「共有」がキーワードだ。従来までの、「モノを購入し所有する」という概念から、「借用・貸与して共有する」というスタイルへ変化している。モノやサービスを融通し合うため、多くの場合は個人の費用負担を軽くできる点がメリットだ。
提供者・利用者・事業者の関係
シェアリングエコノミーのシステムが成立するには、モノやサービスを「貸す側(提供者)」と「借りる側(利用者)」の存在が不可欠だ。そして両者を繋ぎ、より円滑にやり取りできる場を提供するのが事業者の役割となっている。
例えば着物をシェアする場合、貸す側にとっては「自分は着ないが、たんすにしまってある着物を活用したい」といった課題がある。一方で借りる側にとっては、「パーティーに着て行きたいが、日常的に着用するわけではないのでコストを抑えたい」といったニーズが考えられる。両者がマッチングすることで、それぞれのメリットが生まれ需要が満たされる仕組みだ。
ただし、双方がスムーズに貸し借りをするためには、一定のルールが必要になる。借用期間のスケジュールや費用負担のルールなどを管理し、トラブルを防ぐためだ。それらを担保し、プラットフォームを提供するのが事業者だ。
シェアリングエコノミーの課題は?
近年認知度が上昇しているシェアリングエコノミーだが、比較的新しい概念であるため、多様な面で課題が残る。
モラルやルールに関する課題
シェア事業において、モノやサービスを提供する側・受ける側のいずれにとっても相手方のモラルやプラットフォームのガバナンスへの信頼が不可欠だ。しかし実際には、ルールが十分でなかったりモラルに起因する問題があったりして、トラブルに発展するケースも少なくない。
法整備に関する課題
新しいビジネススキームであるために、法整備が追いついていないのが現状だ。法律や規制が整備されていないことによって、グレーゾーンと言われるような事業が存在していることもある。
行政機関もシェアリングエコノミーを推奨しており、法整備に尽力している。例えばカーシェアや民泊もかつてはグレーゾーンだと指摘されていたが、法改正によって問題点を解消した。一方で次々に新しいビジネスモデルが考案され実現するため、法律の整備が追いついていないのが現状だ。
雇用に関する課題
クラウドソーシングなど人材やスキルを有効活用するシェア事業では、労働力を提供する側にとっては多様な就労形態や働き方を実現できる。提供を受ける側にとっても、人材を雇用する場合に比べて、必要なときに必要なスキルを利用できるためコストを下げて品質を上げられるというメリットがある。
ただし雇用契約に比べて、報酬や評価の制度やマネジメント方法が十分に構築されていないケースが多い。労働基準法の適用範囲や、事故が起きたときの損害の負担者などが明確でないことも問題だ。
安全性や補償に関する課題
モノやサービスを提供するのが、従来のような企業や事業者ではなく個人になるため、品質や安全性を担保する仕組みが十分でないこともある。
法整備同様に、補償や保険の制度が設けられていないことも多い。事故やトラブルに巻き込まれた際、既存の補償制度では適用範囲外となるケースもある。法整備同様に、実態に即した制度設計が進められてはいるが、事業の多様化も進み追い付かないことも考えられる。
税金に関する課題
使っていない資産を有効活用して収益を得られる可能性があることから、気軽に始められる副業としてもシェアリングエコノミーは人気が高い。しかしそれらの収益に対する課税方法など税制面でのルール作りや周知などが課題だ。
デジタル格差に関する課題
シェアリングエコノミーでは、インターネットを通じてサービスを仲介することが前提となる。利便性が高い反面、スマートフォンやPCなどデジタル機器の所有状況やリテラシーによって、得られるサービスや情報に差が出る「デジタル格差」の問題が指摘されている。
年代や収入額を問わず、幅広い層がシェアリングサービスの恩恵を受けられるような環境づくりが求められている。
シェアへの抵抗感に関する課題
人によっては、自分のモノを他人に貸すことに抵抗を感じる場合もある。特に新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中では、他人が使ったモノをシェアすることで感染に対する不安や嫌悪を抱く人もいる。
利用者側が不安に感じている点は?
シェアリングエコノミーでモノやサービスの提供を受ける側にとっては、どのような懸念があるのか。利用者の不安を解消するための制度についても触れる。
事故やトラブル時の対応
PwCコンサルティング合同会社による「国内シェアリングエコノミーに関する意識調査2021」の結果では、「シェアリングエコノミーのサービスを利用する場合の懸念事項」について、いずれの事業分野でも「トラブル対応と信頼性」との回答が最多だった。
個人間での貸し借りを前提とするシェアリングエコノミーでは、トラブルに発展したり、不慮の事故に巻き込まれたりするリスクが否定できない。プラットフォームを提供する事業者が十分なルールや補償を提供しているかどうかはユーザーにとって重要だ。
口コミ評価が信頼できない
個人間での取引を主とするシェアリングサービスでは、相手の信頼性を確かめるために、すでに利用したユーザーのレビューや口コミ評価などが重要な判断材料となる。
しかし口コミは必ずしも適正とはいえず、金銭取引によってレビューや評価が不正に操作されていることもある。正確な情報を知りたいユーザーにとっては不安を感じる点だ。
サービスの品質などが不安
シェアリングサービスは提供者やプラットフォームによって、サービスなどの品質がさまざまだ。そのため、求めている品質やスキルを十分に満たすかどうかが事前に分からない場合も多い。
「シェアリングエコノミー認証制度」
一般社団法人シェアリングエコノミー協会は、シェアサービスの安全性や信頼性を評価し、一定の基準を満たした事業に認証を付与している。政府の公表したガイドラインを基に自主規制(共同規制)を策定し、シェアリングエコノミー協会は第三者として認証する。
認証制度では、安全性や品質に関する信頼性だけでなく、提供者・利用者・事業者の責任分担を可能な限り明確化し「価値の共創を促進する仕組み」を構築しているか、また持続可能性が向上する取り組みかどうかを基本原則としている。認証はユーザーにとっての判断材料となり得る。
シェアリングエコノミーに関するQ&A
シェアリングエコノミーをめぐるよくある疑問をまとめた。
シェアリングエコノミーのデメリットは?
個人間でのモノやサービスの貸し借りでは、トラブルに発展する危険性もある。また、新しいビジネススキームであるために法律や税金、補償制度が未整備であることや、個人によって「貸し借り」への抵抗感やデジタル機器を使いこなせる力が異なると格差が生まれる点が課題だ。
シェアリングエコノミーの環境への影響は?
シェアリングエコノミーはSDGsにも多様な面から貢献している。環境面では、モノや空間のシェアによって、既存資産を活用することで建設や製品の製造、ごみ処理の過程で排出されるCO2を削減できる。また、移動手段のシェアによってエネルギー消費の減少にもつながる。
シェアリングエコノミーの例は?
シェアの対象や具体的なサービス内容は、シェアオフィスやイベント会場などの「空間」、カーシェアなど「移動手段」、服飾品や家電製品など「モノ」、特殊な技能など「スキル」、クラウドファンディングなど「お金」といった多様な分野に及んでいる。
シェアリングエコノミーの将来性は?
シェアリングエコノミー市場は成長を続けており、現状のペースで拡大すれば2030年度には7兆6,455億円に至ると予測されている。新型コロナウイルス感染拡大の影響などの問題が解決すれば、2030年度は14兆2,799億円に至る見込みだ。
拡大続くシェアリングエコノミー市場、環境づくりも
SDGsの意識の高まりやコロナ禍など、昨今の環境の変化も追い風となってシェアリングエコノミーの認知度は上昇し、市場も拡大を続けている。提供者・利用者・事業者の3者が関わり合うシェアリングエコノミーのビジネススキームでは、新たな事業やサービスが次々と生まれている。
法整備が追いついていなかったり信頼性や安全性の懸念が生じたりといった問題もあるが、事業者や政府も課題解決に向けて尽力している。現状の懸念が解決されれば、市場はますます活況になると予測されるシェアリングエコノミー事業や、それらを取り巻く環境づくりにも注目したい。
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