2015年にSDGsが採択された影響で、世界的に注目されているESG経営。政府も関連施策を進めているが、そもそもなぜ環境・社会に配慮する必要があるのだろうか。ここではESG経営の重要性に加えて、企業にとってのメリットやデメリットを解説する。
目次
ESG経営とは? 拡大している背景
ESG経営とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」を重視した経営手法である。もともとは国連の「責任投資原則(PRI)」から誕生した考え方であり、今ではSDGsにも並ぶ重要ワードとして世界的に広まっている。
○ESG経営の3要素
・環境:環境汚染や森林破壊、急な気候変動などを防ぐための取り組み。
・社会:ジェンダー平等やダイバーシティ、人権保護などに関する取り組み。
・企業統治:管理体制の強化によって収賄や汚職などを防ぐための取り組み。
18世紀に発生した産業革命以来、世界では多くの企業や個人が利益を追求してきた。その影響で、現在では温暖化問題や異常気象、人権問題などが顕在化しており、生活を脅かされる人々も増えてきている。
このような状況下で表明されたものが、前述の責任投資原則だ。責任投資原則の中で、国連は機関投資家に対してESGを重視した投資(※ESG投資と呼ばれる)を促しており、それをきっかけにESG経営が注目されるようになった。
ESG経営はなぜ重要なのか
20~21世紀にかけて顕在化した問題は、企業の事業活動にも深い関わりがある。
例えば、化石燃料への依存度が高い日本にとって、石油や天然ガスの枯渇は死活問題だ。火力発電所の稼働が停止すると、十分な電力を賄えなくなるため、あらゆる産業が大きなダメージを受けてしまう。
また、ジェンダー不平等や人種差別も、人材不足につながるリスクである。日本では将来的に労働力人口の減少が予測されているので、多様性を受け入れない企業は人材不足に陥る可能性が高い。
つまり、長期的な成長を目指す企業にとって、環境問題・社会問題の解決につながるESG経営は欠かせないものと言える。
企業がESG経営に取り組むメリット
ここからは、企業がESG経営に取り組む具体的なメリットを見ていこう。
長期的な成長を目指しやすくなる
ESG経営に取り組む企業は、社内外から評価されることで長期的な成長を目指しやすくなる。
ESGの考え方はすでに一般投資家にも浸透しており、社会貢献度の高い企業に投資をする例は珍しくない。また、ESGに関する取り組みを評価する金融機関も存在するため、ESG経営には資金調達のハードルを下げる効果がある。
さらに、労働環境の整備によって働きやすい企業になれば、優秀な人材が集まることで高い成長率を維持しやすくなるだろう。
新しいビジネスの創出につながる
具体的な施策にもよるが、ESG経営は新たなビジネスの創出にもつながる。
分かりやすい施策としては、さまざまな人材を受け入れて活躍させる「ダイバーシティ&インクルージョン」が挙げられるだろう。多様な人材が在籍する企業には、多角的なアイデアや意見が生まれるため、斬新なビジネスモデルやイノベーションを創出しやすくなる。
経営リスクを抑えられる
ESG経営によってコーポレート・ガバナンスを強化すると、情報漏えいなどのトラブルが起こりにくくなる。粉飾決済や横領などの不祥事も防げるため、施策次第では経営リスクを大きく抑えられるはずだ。
経営リスクが低いクリーンな企業は、消費者や投資家、取引先からの評価も自然と高まっていく。
ブランド強化やイメージアップにつながる
ESG経営に取り組むと、ステークホルダーからは企業努力をしているように映る。顧客や投資家だけではなく、従業員満足度も高めている印象を受けるため、最終的にはブランド強化やイメージアップにつながるだろう。
ESG経営に取り組むデメリットや注意点
一方で、ESG経営にはデメリットや注意点も潜んでいる。
短期的な効果は期待しづらい
現代企業が直面する環境問題・社会問題は、簡単に解決できるものではない。新たな企業文化の浸透や環境保全活動、人材評価システムの導入などが必要になるため、リターンを得るまでに数年~10年以上かかるケースもある。
したがって、ESG経営では短期的なリターンは期待せずに、中長期の視点をもってプランを立てることが重要だ。
施策によっては大きなコストがかかる
環境・社会に貢献する経営と聞いて、再生可能エネルギーや省エネシステムの導入をイメージする経営者も多いだろう。しかし、あまりにも大規模な設備を導入すると、キャッシュフローや経営を圧迫する恐れがある。
前述の通り、ESG経営は中長期プランが前提となるため、倒産リスクが高まるようなコストのかけ方は避けておきたい。
事業との関連性が重要になる
企業の収益源はあくまで事業活動(本業)であり、ESG経営の実現が目的ではない。資金調達だけでは経営が成り立たないので、本業のリターンについても十分に考える必要がある。
そのため、理想としては事業との関連性が強い施策を考えたい。本業を通して環境・社会に貢献できれば、利益を追求しながら外部からの評価を高められる。
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ESG経営の成功事例
ESG経営は2015年頃から広まっているため、すでにさまざまな成功事例がある。ここからは、中小企業が参考にしたい2つの事例を紹介しよう。
【事例1】サステナビリティへの5つの取り組み/森永製菓
大手菓子メーカーの『森永製菓』は、サステナビリティへの取り組みとして以下の施策に取り組んでいる。
○森永製菓のESG経営
・世界の人々のすこやかな生活への貢献(健康につながる商品の提供など)
・多様な人材の活躍(個を活かす職場づくり)
・持続可能なバリューチェーンの実現(フードロス削減推進など)
・地球環境の保全(水資源の有効活用など)
・経営基盤の強化(DX化や情報開示など)
また、公式サイト上でESGデータを公開している点も、中小企業が参考にしたいポイントだ。目標値や達成率などの推移を公開すれば、外部から見ても活動実績が分かりやすいため、透明性が高い印象を与えられる。
【事例2】生活者の目線に立った施策/花王
消費財化学メーカーである『花王』は、生活者の目線に立ったESG経営を意識している。具体的には、以下の3つを主軸とした戦略を策定し、製品のコンパクト化や「ESG よきモノづくり」に取り組んでいる。
○花王のESG戦略(Kirei Lifestyle Plan)の主軸
・快適な暮らしを自分らしく送るために
・思いやりのある選択を社会のために
・よりすこやかな地球のために
また、NGO・NPO団体や地域社会、アカデミア、行政・自治体などと連携している点も参考になるポイントだろう。大規模なプロジェクトは企業単体では難しいため、花王は多様なパートナーと協働する形で施策を進めている。
本業と関わりのあるパートナー企業を見つければ、中小企業も成長を目指しながらESG経営に取り組めるだろう。
ESG経営のよくある質問集
ここからは、ESG経営の基礎知識をQ&A形式で解説する。本記事のおさらいも含めて、経営者や担当者が気になるポイントを確認していこう。
Q1.ESG経営はなぜ必要?
ESG経営は、企業が長期的な成長を目指す上で欠かせない戦略である。
ESGの取り組みはSDGsの達成度に関わるため、政府・企業の動向を注視するステークホルダーが多い。近年ではESGの観点から投資先を選ぶ株主も出てきており、「ESG投資」という言葉も世間に広まりつつある。
つまり、ESG経営は資金調達やイメージアップにつながるので、成長を目指す企業は積極的に導入を検討したい。
Q2.投資家はなぜESG投資をする?
ESG投資の市場は拡大しており、2018年にはすでに30兆ドルを超えている。今後も市場拡大が予想されているため、早めに投資をすると先行者利益を得られる可能性がある。
そのほか、中長期的にはリスクを抑えやすい点や、社会貢献につながる点もESG投資のメリットである。
Q3.ESG経営の課題や問題点は?
ESG経営は長期目標が軸となるため、短期的なリターンは望みにくい。資金や体力が限られた中小企業にとっては、この点がESG経営推進の障害となっている。
また、社会への貢献と企業利益の両立が難しい点も、経営者が注意したい課題である。利益だけではなく、ステークホルダーや社会を意識したプランが必要になるため、ESG経営は正しい方向性を見極めにくい。
Q4.ESG経営の具体例は?
ESG経営の例としては、以下のものが挙げられる。
・安全基準の明確化(商品やサービス)
・人権を守るための製造工程の見直し
・女性や外国人、シニア人材の積極的な雇用
・労働条件の明確化や透明化
・地域活性化につながる事業や資金援助
欧米のように積極的な施策に取り組む地域も多いため、海外事例にも目を通しておきたい。
Q5.ESG評価機関の役割とは?
ESG評価機関は、企業の「環境・社会・ガバナンス」に関する取り組みをスコア化し、機関投資家に情報提供をしている。市場拡大には欠かせない存在であり、一般投資家向けに情報公開をしている機関も多い。
ただし、機関によって基準や比較項目が異なるため、評価元による違いは十分に理解しておく必要がある。
さまざまな事例に目を通し、ESG経営のプランを考えよう
投資市場が拡大している現状を踏まえると、ESG経営は今後も注目される可能性が高い。取り残された企業は、多くのステークホルダーから見放されるようなリスクも考えられる。
現代ビジネスの重要ワードであるSDGsやカーボンニュートラルとも関連するため、これを機にさまざまな事例に目を通し、自社が取り組めることを考えてみよう。