温暖化問題が深刻化した影響で、最近では「脱炭素」や「カーボンニュートラル」の文字を目にする機会が増えた。「カーボンオフセット」もよく見られるが、これらの用語はどう使い分けるのだろうか。ここでは温暖化問題の関連用語や世界の実情を解説する。
目次
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは?関連用語もチェック
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量を実質ゼロにすることである。単に排出量を抑えるだけではなく、植物や土壌などへの吸収・除去も活用されており、カーボンニュートラルを実現した社会は「脱炭素社会」と呼ばれている。
つまり、脱炭素とカーボンニュートラルは同義語だが、脱炭素については「完全に炭素を抜く」といった意味で使われる場合もある。では、ほかにはどのような関連用語があるのか、以下で簡単にチェックしていこう。
低炭素とは?
低炭素とは、CO2の排出量をできる限り抑えることである。京都議定書が採択された1997年頃に誕生した考え方であり、2008年には基本的な方針を定めた「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定された。
温暖化問題が深刻化した影響で、現在では脱炭素やカーボンニュートラルの必要性が高まっているため、「低炭素社会」という言葉は徐々に使われなくなってきている。
ゼロカーボンとは?
ゼロカーボンは、CO2排出量を全体としてゼロにすることである。脱炭素やカーボンニュートラルの同義語であり、明確な使い分けについては定義されていない。
なお、カーボンニュートラルやゼロカーボンのように「カーボン」を含む場合は、温室効果ガス全体(CO2やメタン、フロンなど)の削減を意味することもある。
カーボンオフセットとは?
カーボンオフセットとは、吸収・除去の努力だけでは削減しきれない温室効果ガスを、次のような方法で埋め合わせる考え方である。
○カーボンオフセットの主な手法
・CO2削減に関する団体や活動への投資
・ほかの場所のCO2削減量をクレジットとして購入
・環境保護や保全活動への参加
一見すると便利な方法に見えるが、カーボンオフセットは温室効果ガスの削減努力が前提となる。つまり、排出量を抑える努力をしない場合は、上記の手法を用いてもカーボンオフセットには該当しない。
カーボンニュートラルの歴史や世界の実情
カーボンニュートラルが世界の潮流になったのは、2015年に採択されたパリ協定がきっかけと言われている。世界中の先進国・途上国が参加したパリ協定は、カーボンニュートラル実現に向けた転換点であり、温室効果ガスの「排出量と吸収量の均衡」が明確な目標として設定された。
その後、世界はどのように動いているのか、主な出来事をピックアップして紹介しよう。
カーボンニュートラルはSDGs達成の手段に
2015年に開催された国連サミットでは、あらゆる環境問題・社会問題を解決する目標として「SDGs」が採択された。SDGsには17のゴールと169のターゲットが設定されており、その中にカーボンニュートラルに関する目標が定められている。
○カーボンニュートラルに関するSDGsの目標
【目標7】エネルギーをみんなに そしてクリーンに
【目標9】産業と技術革新の基盤をつくろう
【目標11】住み続けられるまちづくりを
【目標12】つくる責任 つかう責任
【目標13】気候変動に具体的な対策を
【目標15】陸の豊かさも守ろう
つまり、現在のカーボンニュートラルはSDGsを達成するための手段である。脱炭素社会が最終的なゴールではないため、その先を見据えるためにもSDGsの目標には目を通しておきたい。
カーボンニュートラルが投資家から評価される時代へ
SDGsが採択された影響で、近年では「環境・社会・ガバナンス」を重視するESG投資も広まっている。2021年時点で世界のESG投資残高は35兆ドルを超えており、環境・社会に配慮する企業が投資家から評価される時代になった。
評価機関や各メディアも企業のカーボンニュートラルに注目しており、最近では脱炭素銘柄のランキングやテーマ株などが公開されている。
カーボンニュートラル実現に向けた「脱炭素ドミノ」とは?
カーボンニュートラル実現に向けては、「脱炭素ドミノ」というワードも注目されている。
脱炭素ドミノとは、カーボンニュートラルに対する意識や取り組みが波及し、全国的に広がっていく現象である。環境省は、この脱炭素ドミノを軸とした5年間のロードマップを公開している。
日本はエネルギーの大部分を化石燃料に頼っているため、国の施策だけではカーボンニュートラルの実現が難しい。脱炭素分野で世界をリードするには、自治体や地域住民、地方企業が一体となり、カーボンニュートラルの概念を広げていく必要がある。
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日本が行っているカーボンニュートラルの取り組み事例
では、環境省を中心とした政府は、どのような施策を進めているのだろうか。ここからは、日本が行っているカーボンニュートラルの取り組み事例を紹介する。
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略は、2050年までに成長が期待される14分野を選定し、予算や税制、金融などの政策を総動員するプロジェクトである。
○グリーン成長戦略の施策例
・グリーンイノベーション基金を通した資金支援
・重要性の高いプロジェクトへの集中投資
・カーボンニュートラル投資促進税制の導入
・新技術に対応するための規制改革
・大学等における人材育成 など
上記の施策は一部であり、ほかにも分野別ロードマップの作成や、欧米との技術協力なども行われている。多方面からサポートを受けられるため、カーボンニュートラルに関連する企業はぜひチェックしておきたい。
RE100
RE100は、企業の消費電力をすべて再生可能エネルギーで賄うための国際的な取り組みである。活動報告書の提出義務や技術要件はあるものの、この取り組みに参画した企業には以下のようなメリットが生じる。
○RE100に加盟するメリット
・ステークホルダーからの評価が高まる
・再エネ先進企業とコミュニケーションを図るきっかけになる
・化石燃料高騰の影響を受けにくくなる
中小企業が参画することは難しいが、例えばRE100の参画企業と技術提携をすれば、イノベーション創出の可能性がアップするはずだ。また、最近では取引先に対して、RE100への参画を求める企業も見られるようになった。
カーボンプライシング
カーボンプライシングとは、課税やクレジット取引などを通して、炭素に価格をつける施策である。例えば、燃料・電気の使用量に応じた炭素税を導入すると、全国的にCO2排出量を抑制する効果が期待できる。
カーボンプライシングは企業によるCO2排出をコントロールできることから、脱炭素社会に貢献する施策として注目されている。現状では炭素税(CO2排出量1tあたり289円)とクレジット取引のみだが、今後の動向によっては新たな仕組みが導入されるかもしれない。
脱炭素やカーボンニュートラルに関するQ&A
脱炭素やカーボンニュートラルは、今後の世界経済やビジネスを左右する重要ワードである。ここからは基礎知識をQ&A形式でまとめたため、おさらいの意味も含めて最後までチェックしていこう。
Q1.カーボンニュートラルの意味や具体例とは?
カーボンニュートラルとは、温室効果ガス(主にCO2)の排出量・吸収量を均衡させることである。具体例としては、再生可能エネルギーの導入や電力の脱炭素化、カーボンリサイクルの利用などが挙げられる。
努力では削減しきれない温室効果ガスについては、他団体のクレジットを購入する「カーボンオフセット」が利用されるケースもある。
Q2.カーボンニュートラルの弊害は?
カーボンニュートラルの弊害としては、まずコスト面が挙げられる。例えば、風力発電や太陽光発電は初期費用が高く、設備のメンテナンス費も負担しなければならない。
また、温室効果ガスの明確な検証が難しい点も、軽視できないデメリットだろう。なかでも複数国に自社工場を構えている企業は、排出量・吸収量の検証が難しいとされている。
Q3.脱炭素の具体例は?
脱炭素の例としては、発電時に大量のCO2を排出しない「再生可能エネルギー」の導入が挙げられる。
再生可能エネルギーには多くの種類があり、代表的なものとしては水力や風力、バイオマス燃料などがある。いずれも石炭や石油より環境にやさしいため、日本を含めた世界各国で導入が進められている。
Q4.カーボンニュートラルの成功例はある?
関西エリアを中心とする阪急電鉄は、カーボンオフセットを活用する形で摂津市駅のカーボンニュートラルを実現している。同駅は太陽光発電やLED照明、無水トイレなどを導入し、CO2の排出量を大きく減らすことに成功した。
また、温室効果ガスを吸収する施策として、駅構内の緑化計画にも取り組んでいる。
Q5.カーボンニュートラルはなぜ難しい?
カーボンニュートラルの問題点としては、次の3つが挙げられる。
・計測方法による国家の格差
・導入コストの高さ
・検証の難しさ
中でも導入コストの高さは、国内企業にとって深刻な問題である。日本は再生可能エネルギーの土壌が乏しいため、設備導入だけで多くの初期費用がかかってしまう。
脱炭素とカーボンニュートラルは社会評価にもつながる重要ワード
SDGsやESG投資が浸透した影響で、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」の考え方も広がっていく可能性が高い。時代の変化に取り残されると、金融機関やステークホルダーからの評価が下がるリスクも考えられるだろう。
技術開発やイノベーションはもちろん、資金調達にも関わってくるため、これを機に脱炭素やカーボンニュートラル実現に向けた施策を考えてみよう。