中小企業におけるウェルビーイングとは?
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昨今、“ウェルビーイング”という言葉をよく耳にするようになった。直訳してしっくりくる日本語がなく、何とも言い表しにくい用語だ。今回は、そんなウェルビーイングを中小企業に導入するためにはどうすればいいか考えてみたい。

本物の「上司力」
大村 康雄(オオムラヤスオ)
株式会社エッジコネクション 代表取締役

延岡高校、慶應義塾大学経済学部卒業後、新卒生として米系金融機関であるシティバンク銀行入行。営業職として同期で唯一16ヶ月連続売上目標を達成。 2007年、日本の営業マーケティング活動はもっと効率的にできるという思いから営業支援・コンサルティング事業を展開する株式会社エッジコネクション創業。ワークライフバランスを保ちつつ業績を上げる様々な経営ノウハウを構築、体系化し、多くの経営者が経営に苦しむ状況を変えるべく各種ノウハウをコンサルティング業、各メディア等で発信中。1200社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減、創業前後の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。

目次

  1. ウェルビーイングとは?
  2. 中小企業にはハードルが高いウェルビーイング
  3. トップから始まる中小企業のウェルビーイング
  4. 経営理念の浸透がもたらすウェルビーイング
  5. 経営理念の浸透から生まれる改善策
  6. 本質は温故知新にあり

ウェルビーイングとは?

“ウェルビーイング”を解説している記事は執筆者によって意味合いに微差が生じており、なかなか“これ!”と一言で表すのは難しいようだ。

さまざまな情報を照らし合わせた結果、私の考えるウェルビーイングとは、“心身ともに満たされており、日々の暮らしに幸福があふれている状態 ”だ。

とにもかくにもウェルビーイングとは、心も体もハッピーであることなのだ。

中小企業にはハードルが高いウェルビーイング

ウェルビーイングを達成すべく、各企業は試行錯誤している。

企業のウェルビーイング事例を調べてみると、オフィスのレイアウトを変えてみたり、独自の人事制度を設けたりと、取り組みはさまざまだ。

しかし、その多くが資本力を基にした施策であることが多く、中小企業が取り組むのはハードルが高い。事例を調べれば調べるほど中小企業には無縁、不可能という気持ちになってしまうのが実情のようだ。

トップから始まる中小企業のウェルビーイング

では、中小企業が従業員のウェルビーイングを達成することは不可能なのだろうか?

そんなことはない。まずはトップがウェルビーイングにしっかりと取り組むという決心を持てばスタートラインに立つことができる。

そもそも、ウェルビーイングとは人生にまつわる言葉である。よって、勤務時間がウェルビーイングに近づくことでウェルビーイングな人生になるかというと、必ずしもそうではない。一人一人のプライベートな時間の過ごし方も大きく関わってくるからだ。

「社員それぞれが退勤後に好きなことをして、人生を満たせばいいじゃないか。」

理屈としてはそれも成り立つ。しかし、起きている時間のほとんどを占めているのが仕事である。勤務時間の質を高めなければウェルビーイングへの道のりは遠くなってしまうだろう。

よって、一丁目一番地として、従業員のウェルビーイングは企業トップに責任があると認識することが重要だ。

「プライベートでどんな過ごし方をしているかわからないから取り組んでもしょうがない」ではなく、「プライベートでどんな過ごし方をしているかわからないからこそ勤務時間くらいは幸せでいて欲しい」

そう考えることがスタートラインになる。

経営理念の浸透がもたらすウェルビーイング

トップがウェルビーイングに取り組もうと決意したら、次に取り掛かるべきは、経営理念を強く社内に浸透させることだ。経営理念にはビジョン、ミッション、バリュー、行動指針、社訓など、さまざまなものがある。

厳密に“経営理念”でなくても構わない。ポイントは、【従業員が拠り所にすべきキャッチフレーズが社内に浸透していること】だ。

なぜ、【従業員が拠り所にすべきキャッチフレーズが社内に浸透していること】なのか。それは、従業員の不安や迷いを打ち消し、精神的な負担を軽くすることにつながるからだ。

例えば、“顧客満足”を経営理念に掲げている企業があるとする。顧客満足の達成の仕方はいろいろと考えられる。対応のスピード、提案力、価格などなど。

このアイディアのばらつきは、従業員のウェルビーイングを下げることにつながる。理由の一部を挙げると以下のようなことが考えられる。

  • 何に力点を置いて顧客対応をすれば良いか迷う

  • 上司が考える顧客満足において重要なことと、自分の考える重要なことがずれていて評価してもらえない

  • 前任担当者の得意分野と自分の得意分野がずれており、いちいちクライアントに比較されてつらい

いかがだろうか?

経営理念が【従業員の拠り所】となっていないと、このようなストレスが従業員にじわじわとのしかかっていく。

「従業員の拠り所になる」とは、迷ったときに立ち戻る原点になるということである。

例えば、同じ顧客満足でも、“どこよりも早くお客様の要望に応えることで顧客満足を達成する”という経営理念を掲げていたらどうなるだろうか?

この経営理念が浸透することにより、

  • 顧客満足度の上げ方には様々ある中で、「早く対応することが正解」と自信を持って行動しやすくなる

  • 上司の求める顧客対応のあるべき姿と部下のやりたい顧客対応が一致しやすくなる

  • 前任担当者も同じような顧客対応をしていたので、クライアントに比較されにくくなる

顧客満足を達成する方法が、“どこよりも早くお客様の要望に応える”となることで、このような効果が期待でき、従業員のストレスが軽減されていくのだ。

直観的な例として、家族といる自分と他人といる自分を想像してみて欲しい。

家族といる自分は、お互いに考え方や価値観がわかり、リラックスした状態でいることができるだろう。一方、他人といる自分は周囲の人がどんな人か、何を言われるか、何をされるかわからず警戒心がなかなか解けないだろう。

経営理念の浸透で、他人といる自分が家族といる自分になることができるのだ。

経営理念の浸透から生まれる改善策

経営理念の浸透は、会社経営にもメリットがある。

  • 「どこよりも早くお客様の要望に応える」ための業務フローを見直す基準が明確になる

  • 「どこよりも早くお客様の要望に応える」ために人事評価制度をブラッシュアップするきっかけになる

など、経営理念の浸透がもたらすメリットは枚挙に暇がない。

そして、このようなメリットが従業員の職場環境改善につながるのは間違いないだろう。残業時間の短縮や業務分担の明確化による従業員間のトラブルの減少、明確な人事評価によるやる気アップ、全社的な効率改善による賃金アップなど、これらすべてがウェルビーイングだ。

本質は温故知新にあり

これまでのことをまとめていこう。

以下のようなプロセスを踏むことで、中小企業でもウェルビーイングは十分達成可能だ。

  • 勤務時間だけでも幸せに過ごしてほしいと決意する

  • 従業員の拠り所となる経営理念を浸透させる

  • 従業員の働き方や働くときに大事にすべきことが統一され、衝突や理不尽が解消されていく

  • 経営理念の達成につながる仕組みが整備され、より経営理念に即した働き方ができ、業務効率も良くなる

  • 残業時間、人間関係、賃金などさまざまな面で従業員のウェルビーイングが上がる

    迷いなく何かしらの理念に則して働くことができれば、それに勝る仕事のやりがいはなかなかないだろう。

一見、中小企業でのウェルビーイングは難しそうに見えるが、従業員に幸せになってほしいというトップの決意と従業員の拠り所となる経営理念の浸透をスタート地点にすることで、大企業ではなかなか達成が難しい、心の底から湧き出るウェルビーイングが達成できるのではないだろうか?