日本政府は、人々の幸福の実現を目指すためにさまざまな施策を行っている。そのなかの一つに「ムーンショット計画」がある。ムーンショット計画とは、野心的な構想や困難な社会課題の解決を掲げることで挑戦的研究開発を行うことができるというものだ。「挑戦的研究開発を行う」というと壮大なイメージを持つかもしれないが、実をいうとムーンショット計画はビジネスでも応用できる。

ここでは、国のムーンショット計画の取り組みとビジネスへの応用について解説していく。

目次

  1. わが国が取り組むムーンショット計画とは
    1. ムーンショット計画の概要と導入された背景
    2. 9つのムーンショット目標とは
  2. ムーンショットはビジネスでも活用できる
    1. ムーンショットを活用することで会社が成長する
    2. ムーンショットは人事でも活用できる
  3. ムーンショットの今後の展開に注目
  4. ムーンショットに関するQ&A
    1. Q1.ムーンショットとは?
    2. Q2.日本が取り組む「ムーンショット型研究開発」とは?
    3. Q3.ムーンショット型の目標とはどんなもの?
ムーンショット計画とは? 今後の展開やビジネスでも使える考え方を紹介
(画像=daniiD/stock.adobe.com)

わが国が取り組むムーンショット計画とは

はじめに、わが国が取り組むムーンショット計画がどのようなものかを見ていこう。

ムーンショット計画の概要と導入された背景

そもそもムーンショット計画とは、月面着陸プロジェクト (アポロ計画)になぞらえて名づけられたものである。アポロ計画のように困難だが実現すれば大きな効果が期待される社会課題を解決するために野心的な目標を掲げ、実践することがムーンショット計画の目的だ。ムーンショット計画は、さまざまな分野において世界各国で導入されている。

日本で導入されているのが「ムーンショット型研究開発制度」。近年日本は、大規模自然災害、少子高齢化問題、地球温暖化問題への対処など多くの課題を抱えている。これらの課題は、解決が困難だが早急に取り組まなければいけない問題だ。従来のようなやり方では解決できない。解決のためには、破壊的イノベーションの創出や科学技術への挑戦、大規模な投資が必要。

そこでわが国では、9つのムーンショット目標を掲げ、それぞれの目標を達成するための研究や開発に大きな投資を行っている。

9つのムーンショット目標とは

ここからは、わが国が掲げている9つのムーンショット目標を簡単に見ていこう。

・目標1.身体、脳、空間、時間の制約からの解放
2050年までに複数の人が遠隔でアバターやロボットを操作し、生活や仕事ができるようになることを目指した目標だ。身体的、認知的な能力を最大限に拡張できる多数のアバターやロボットを開発する事業に投資を行う。この目標を達成することで、さまざまな年齢や価値観、背景を持つ人がライフスタイルに応じた生活を送ることができるようになる。

・目標2.疾患の超早期予測・予防
2050年までに臓器間の包括的ネットワークを確立し、疾患の超早期予測・予防ができるようになることを目指した目標だ。根本的な予測・予防方法を確立するために慢性疾患などの発症メカニズムを解明する研究に投資を行う。この目標の達成により慢性疾患などを予測したり予防したりができ、誰もが健康的に生活できる社会の実現が期待できる。また健康・医療産業の競争力を強化することも可能だ。

・目標3.自ら学習・行動し人と共生するAIロボット
2050年までに自ら学習・行動し、人と共生するAIロボットの開発を目指すという目標だ。少子高齢化の進展による労働人口の減少や災害時の対応など、あらゆる分野でのロボット開発に投資を行う。この目標の達成で労働人口の確保、月や小惑星などの地球外での活動、ビッグデータを用いた新たな技術や医薬品の開発などができるようになる。

・目標4.地球環境の再生
2050年までに資源循環技術の開発とその技術を用いた製品などを普及させることで地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現することを目標としている。世界が直面している温室効果ガス削減や海洋プラスチックごみ問題など環境問題の解決を行うための研究に投資を行う。この目標の達成で生産活動などを行いながらも環境問題の解決ができ地球環境の再生が期待できる。

・目標5.食と農
2050年までに微生物や昆虫などの生物機能をフル活用したり食料のムダをなくしたりすることで持続的な食料供給産業を創出することが目標だ。地球規模での食料生産システム構築に関する研究や開発に対して投資を行う。この目標の達成で将来世界的に人口の増加が起こっても、それに対応した食料の確保や地球環境の保全への貢献が期待できる。

・目標6.誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現
2050年までに一定規模のNISQ量子コンピュータを開発し、誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現を目標としたものだ。コンピュータは、これまでも発展をしてきたが、現代の技術ではその発展が頭打ちになる。そこで従来のコンピュータとはまったく異なる原理である量子計算を用いたコンピュータの研究・開発に投資を行う。

この目標を達成することで誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現ができる。材料開発やエネルギー分野、創薬分野、経済分野などあらゆる分野で革新の実現が可能だ。

・目標7.100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
2040年までに国民一人ひとりが、100歳まで健康不安なく人生を楽しむための医療や介護システムの実現を行うための目標である。健康寿命延伸医療や新世代医療などの研究・開発に対して投資を行う。この目標の達成により、何歳になっても健康不安なく人生を楽しむことができる社会の実現や人出不足でも質の高い医療や介護を受けられるシステムの実現が可能となる。

・目標8.気象制御による極端風水害の軽減
2050年までに極端な風水害による被害を大幅に軽減し、安全安心な社会の実現を目標としたものだ。風水害の被害は、地球温暖化が進む現代や未来において、さらに大きくなっていくことが予想される。しかし今までの堤防などの構造物での予防対策では不十分。そこで災害につながる気象現象自体を回避・軽減できる技術が必要になるため、これらの技術の研究や開発に投資を行う。

この目標の達成で災害に対する高精度の予測や回避・予防行動ができるようになり安心して暮らせる社会の実現が期待できる。

・目標9.こころの安らぎや活力を増大
2050年までに精神的に豊かで皆が活躍できる社会を実現することを目指すための目標だ。社会不安やコロナ禍の影響もあり自殺をする人やうつ病などのこころの病気を患う人も多い。そこでこころの安らぎや活力を増大するなど、こころをサポートするための技術研究や開発に対して投資を行う。

この目標の達成でこころの病気の予防や回復促進、暮らしやすい社会の実現が期待できる。また新しい産業の創出も可能だ。

ムーンショットはビジネスでも活用できる

ここまで見てきた通り、わが国が行うムーンショットは多岐にわたり、その内容も大きなものとなっている。しかしムーンショットは、国だけが行うだけのものではない。ビジネスでムーンショットを活用することで会社だけでなく個人にもさまざまなメリットをもたらすことが期待できる。ここでは、ムーンショットとビジネスの関係について見ていこう。

ムーンショットを活用することで会社が成長する

ムーンショットの活用により、会社の成長を促すことが可能だ。会社でムーンショットを活用することで例えば以下のような効果が期待できる。

・常識にとらわれない考え方による新商品・サービスの開発
ムーンショットの実現は困難だが、それにチャレンジすることで新しい技術などの実現が期待できる。そのため、ムーンショットを会社に取り入れれば今までの常識で出てこなかったアイデアが生まれたり、新製品やサービスの開発につながったりする可能性が高くなるだろう。

・チームワークの上昇(人材確保にもつながる)
ムーンショットを一人で実行するのは、無理である。数名でチームを作りアイデアを出し合いながら進めていく必要があるため、チームワークが高まり、より個人やチームの力を発揮できるようになるだろう。また皆が同じ方向へ舵を切るため、退職者を抑制することもでき、結果的に人材確保につながるだろう。

ムーンショットは人事でも活用できる

ムーンショットは、目標管理や人材育成などにも活用することが可能だ。ムーンショットでは、上述しているように実現困難なものにチャレンジをしていく必要がある。人事にムーンショットを採用することで社員に実現するための根拠のある目標や斬新な目標を立てることを促すことが可能だ。少し実現困難な目標を立てることで人材を成長させたり多様な考え方を持つ人材を育成したりすることができる。

ムーンショットの今後の展開に注目

ムーンショットは、世界各国で導入されている制度で日本でも採用されている。「日本が抱える多く問題を解決することができる」といわれているが、実はビジネスでも応用可能だ。わが国が進めるムーンショット計画は、数十年単位のものも多い。そのため成功するかどうかは、現段階で評価することは難しいだろう。日本にムーンショットが根付いていくのかは、今後の展開に注目である。

ムーンショットに関するQ&A

Q1.ムーンショットとは?

A.ムーンショット計画とは、アポロ計画のように困難ではあるが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題を解決するために野心的な目標を掲げて実践するための計画。ムーンショットは、国だけでなくビジネスでも採用されている。

Q2.日本が取り組む「ムーンショット型研究開発」とは?

A.ムーンショット型研究開発制度とは、日本が抱える少子高齢化の問題や大規模自然災害への備えなど多くの問題を解決するために設けられた制度だ。日本が抱える問題の解決には、破壊的イノベーションの創出や科学技術への挑戦、大規模な投資が必要である。「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」や「疾患の超早期予測・予防」など9つのムーンショット目標を掲げているのが現状だ。

それぞれの目標を達成するための研究や開発に大きな投資を行っている。

Q3.ムーンショット型の目標とはどんなもの?

A.ムーンショット型の目標とは、企業が人事面で取り入れる目標で、実現困難だが今までにないものにチャレンジをしていくための目標である。目標を実現するため、社員に根拠のある目標や斬新な目標を立ててもらうことで多様な考え方を持つ優秀な人材を育成することが可能だ。

著:せがわ あき
会計事務所に10年勤務。その後、会計ソフトメーカーでの勤務を経て、現在は会計・税務・金融などをテーマにライティング活動を行う。会計事務所では、顧問先の会計業務や融資支援に従事。融資のための提出資料作成や融資・資金繰りのアドバイスなどを行う。会計ソフトメーカー時代には、お客様対応業務に加えてソフト開発にも携わり、お客様の声を製品に反映させる仕事に従事。
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