配慮はするけど遠慮はしない 中小企業における働き方改革実行にあたって

政府が推進する「働き方改革」によって、大企業のみならず中小企業の社長も、社員の働き方について見直しを求められています。今回は、働き方改革実行にあたり中小企業の社長が考えるべき事柄について、「配慮はするけど遠慮はしない」という視点で解説していきます。

目次

  1. 働き方改革の主旨
  2. 社員の退職を恐れるなかれ
  3. 誰にとって魅力ある職場をつくるか明確に
  4. 社長と社員が同じ方向を目指して努力する

働き方改革の主旨


まず、下記を見てください。厚生労働省による働き方改革の解説です。

働き方改革は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。 今まで:日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上や、就業機会の拡大、意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが不可欠です。 これから:働く方の置かれた事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指します。 職場環境の改善などの「魅力ある職場づくり」が人手不足解消につながることから、人手不足感が強い中小企業・小規模事業者においては、生産性向上に加え、働き方改革による魅力ある職場づくりが重要です。

「厚生労働省 働き方改革」
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/
最終閲覧日:2022年5月22日

端的にまとめると、働き方改革の主旨は、「多様で柔軟な働き方を社員が選択できるようにすることで魅力ある職場をつくる。これによって、よりよい人材を確保し、業績を向上させるという好循環を起こす」ことです。

働き方改革を進めるための法改正が順次始まっています。対象は、大企業のみならず中小企業も含まれます。

ポイントは、「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限制限」「同一労働同一賃金」の三つの制度です。

「年次有給休暇の時季指定」
法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させなければならない。
「時間外労働の上限制限」
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできない。
「同一労働同一賃金」
同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止される。※

つまり、中小企業の社長は、社員の有給休暇取得・残業のあり方、パート・アルバイトの働き方について、見直しが求められることになります。

社員の退職を恐れるなかれ


上記三つの制度については、もちろん順守していくことが求められます。一方で、会社としては社員に対し、目標を設定して成果を求めなければなりません。

ところが、このような考えを持ってしまう経営者もいるのではないでしょうか。

・「社員に数値目標やノルマを設定すると、社員にストレスがかかって辞めてしまうのではないか」
「仕事ができない社員にはっきりとそのことを伝えると自信をなくして辞めてしまうのではないか」
「この社員は、給料に比べて成果がまるで出ていないが、給料を下げたらやる気を失ってしまい辞めてしまうのではないか」

むろん、社員は個々人の事情や世の中の動向を全く配慮しない社長の下で働こうとは思えないでしょう。

同時に、社員に遠慮して目標設定やノルマを曖昧にする、もしくは目標未達を指摘しない社長がいては、社員が成長しません。社員が成長しない会社は業績が上がらず、結果的に待遇は変わらないか悪化していくことになるので、社員にしてみればその会社に居続けたいとは思わないでしょう。

大切なのは、「配慮はするけど遠慮はしない」。この考え方です。

社長と社員の関係性で考えたとき、配慮とは社長が社員を思ってする気遣いのこと、遠慮とは社長が社員に求めるべきことを求めようとしないことです。このバランスを取らないと、結局、会社も中長期的に存続し続けることができなくなります。

誰にとって魅力ある職場をつくるか明確に


働き方改革は、社員が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革です。そのためには、社長が社員に選択肢を提示する必要があります。

しかし、ここで問題になるのが、選択する上での価値観は、人それぞれ異なるということです。世の中には、さまざまな価値観を持つ人がいます。

・とにかく仕事で成果を上げて、お金を稼ぎたい
・仕事をする上で、どれだけお客様に喜んで貰うかが大切。給料は二の次
・仕事を通じてスキルアップし、理想の自分になりたい
・定時に帰ることが一番。ノルマはない方がいい
・この社長と一緒に働きたい。この仲間と一緒に働きたい
・この会社の一員であることに誇りを感じている。この会社で働きたい

多様で柔軟な働き方を社員に提示しようとしても、全ての人にとって魅力ある職場はこの世に存在しません。例えば、「定時に帰ることが一番。ノルマはない方がよい」という考え方の社員に対して、遠慮なく目標達成を求めれば、会社を辞めてしまうでしょう。一方「とにかく仕事で成果を上げて、お金を稼ぎたい」とか「仕事を通じてスキルアップし、理想の自分になりたい」という考えの社員に簡単な業務や成長が期待できない仕事を与えたら、やはり会社を去る可能性は高まります。

大切なことは、「この会社は、こういう人にとって働きやすい職場である。だからこのような価値観を持っている人に入社して貰いたい」と社員や求職者に伝えていくことです。 

つまり、以下の四つが必要になります。

・会社の理念や価値観を明確に打ち出すこと
・理念到達に向けた目標を明確にすること
・目標に基づき、社員一人ひとりの役割、求める働きを明確にすること
・求めている役割、働きを評価する仕組みをつくること

社員一人ひとりの役割、求める働きが明確になるからこそ、役割を果たすことに支障がないよう社員が自身で選択して有給休暇を取得できます。求められていることが明確になれば、必然的に同一労働同一賃金の仕組みに近づいていくことでしょうし、社員が自ら時間あたりの生産性を高めようとすることで超過労働が減っていきます。

社長と社員が同じ方向を目指して努力する


まず、会社として社員に求めていることを明確にした上で、それを理解してくれる人に入社してもらう。その上で、遠慮なく会社が社員に求める成果を伝え、実行に移すことを要求しつつ、社員の待遇について最大限の配慮を行い、価値観を同じくする社員にとって魅力ある職場としていくこと。これが、経営者に持ってほしい考え方です。

働き方改革という言葉について、「社員の権利ばかりを優遇して、会社にとっては何の利益もない話だ」と思っている社長がいるのではないでしょうか。それは、社長が自分の会社を誰にとって魅力ある職場とするべきか、社員に求めていることは何かを明らかにしていないことから起こる考えです。

働き方改革の本質的な意味を理解した上で、会社の方向性と社員に求めることの明確化を行うことができれば、本当の意味で、魅力ある職場をつくることができるでしょう。日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「働き手のニーズの多様化」などの課題は、社長もしくは社員どちらか一方の犠牲の上に解決されるものではなく、双方が同じ方向を目指して努力することで解決すべき課題です。