独占インタビュー|ニール・プラテック(LISUTO株式会社 代表取締役社長)


ある市場調査会社によれば、コロナ禍での巣ごもり需要により、EC、通販の利用者が確実に伸びたようだ。性別、年代別の調査によれば、女性全世代と男性10代、60代の利用頻度が増えているという。ただ、その利用頻度が増えた理由を見ると、“外出して感染することが不安だから”というコロナ禍に直結する理由は実は5位で、”自宅まで商品を届けてもらえるから”が1位、”大きいものや重いものが購入できる”が2位などと、その利便性が広く認知された結果であることがわかる(参考:コロナ禍での総合ECサイト利用動向から見る、EC市場成長の可能性、MMD研究所)。すなわち、従来あまり利用しなかった人も、コロナ禍を切っ掛けとしてその便利さに気づき、ECが広く浸透してきたと見ることができる。今後通信速度の早い5Gが普及し、シニアのスマホ利用者も更に増加するであろうことも踏まえると、この傾向は今後も続くと考えられる。

LISUTO株式会社 代表取締役社長 ニール・プラテック氏
(画像=LISUTO株式会社 代表取締役社長 ニール・プラテック氏)

今回取材させていただいたのは、そのECの影の主役とも言えるサービスを提供しているLISUTO(リスト)の創業者ニール・プラテック氏だ。プラテック氏は1度目の東京オリンピック(1964年)の翌々年に日本で生まれ、10歳まで日本で過ごした。その後イスラエルに戻ったが、1995年から再び日本で生活している。そのため、日本語も大変流暢であり、今回の取材も日本語で行うことができた。

インターネットで記事や商品が検索されるためには、その記事や商品の特徴を表し、検索するときに使うであろうキーワード(タグ)がサイトに登録されている必要がある。LISUTOのサービスは、商品を説明するテキストや商品の写真から、AIが自動的にタグを抽出するものらしい。まず、この興味深いLISUTOのサービスについて詳細を伺い、日本生まれの“ほとんど日本人”であるプラテック氏ご自身の経歴についてもお話を伺った。

―――LISUTOのサービスとはAIでタグを自動抽出する、という理解で合っていますでしょうか?

間違ってはいないのですが、それは手段の一部であり、LISUTOが実現できることはもっと大きなことです。

ECサイトの利用者視点から見たときに、欲しい商品を探すには2つのやり方があります。一つは検索ボックスにキーワードを入力して商品を検索する方法ですが、もう一つはサイト側からキーワードが提示されて、それを選択してゆくことで絞り込んでゆくやり方です。例えば、Tシャツの色が5種類、サイズが4種類ある場合、シャツの写真とともに、それらのボタンがついていて、目的の色やサイズがすぐに絞り込める例はご存知かと思います。このような商品の属性がタグで、私達の技術では、商品情報のテキストや写真から、そのタグを自動的に抽出することができます。重要なのは、そのタグをECサイトに適切に登録することで、前述のように色やサイズの絞り込みが簡単にできるようになるということなのです。

ECの影の主役LISUTO(リスト)!その創業者日本生まれのプラテック氏に訊く
(画像=ECの影の主役LISUTO(リスト)!その創業者日本生まれのプラテック氏に訊く)

―――タグを抽出するだけではなく、その登録をするから商品が絞り込めるわけですね?

大企業であれば、自社のオンラインショッピングサイトを持っていることも多いでしょうが、通常は、楽天やPayPayモールなどのマーケットプレースに出店することが多いと思います。その場合に、それぞれのマーケットプレースの構造に合わせて、属性情報を登録していくことが必要になります。これが結構面倒なのです。商品数が少なければ、手作業で登録することも出来ますが、商品数が多くなったり、更には色やサイズなどの商品の属性情報が多くなったときには、その登録作業は膨大な時間を要する仕事になります。通常は1つの商品に15タグくらいあるので、商品数が多くなると登録すべきデータが膨大になることがわかるでしょう。しかも、その登録が間違った場合には、せっかく商品があるにもかかわらず、その商品が見つけられない不良在庫になってしまうわけです。

更に問題は、同じ“Tシャツの白”という属性だったとしても、それぞれのマーケットプレースにおいて対応するIDが異なり、サイトの構造も異なることです、つまり、楽天とPayPayの2つのモールで同じ商品を売りたいと思った場合、似たような作業をそれぞれで別々に行う必要があるわけです。LISUTOのサービスは、主要なマーケットプレースの構造を理解していて、それぞれの構造に合わせてタグを自動的に抽出・登録します。従って、従来は大変手間のかかった作業が、LISUTOを使えば仮に1000商品ある場合でも、数分で済んでしまうのです。

LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック
(画像=LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック)

適切にタグ登録できることで、欲しい商品が見つかりやすくなり、実際に、LISUTOを利用することでコンバージョン率が大幅に改善された、というデータもあります。独自サイトの場合はその構造に合わせたカスタマイズ作業が必要になりますが、主要なマーケットプレースであればすぐに利用できて効果を確認できるSaaS型のサービスとなっており、処理する商品数をパラメータに、例えば100商品までであれば月額15,000円のようなパッケージプランとなっています。マーケットプレース自体が属性登録の優先順位を上げており、商品検索へのインパクトも大きくなっています。また楽天は来年大きなシステム変更があるため、私達もその対応に注力しています。流通大手の佐川急便とも資本業務提携を行い、彼らからも顧客を紹介してもらうようになりました。当面需要の大きなマーケットプレースに集中していきますが、顧客の中には自社ECサイトをお持ちの企業もあり、将来はそちらへも展開してゆきます。

―――LISUTOのメリットが良くわかりました。プラテックさんはこのサービスをどのようにして思いついたのでしょうか?

当社のメンバーである、パベル・ザスラヴスキーが大きな役割を担っています。彼はshopping.comという、世界初の価格比較サイトでカタログの責任者でした。その事業はイーベイに買収され、彼はイーベイのカタログ部門を立ち上げました。彼は、様々な商品カテゴリーの構造がどうなっているかを理解しているのです。私は95年にイスラエルから日本に戻ってきて、ベンチャーキャピタル(VC)をやっていたのですが、2000年にイーレディーという日本のブランド品のECサイトを始め、その一環として、日本の商品をイーベイで販売する(日本の商品を海外で販売する)事業を始めました。当時はまだこの事業を指す言葉がなかったのですが、今で言う「越境EC」です。イーベイに出品をするために、商品の日本語テキスト情報を正規化し、多言語変換もできるような仕組みを作りました。これにより海外向けの販売が効率化され、その売上が会社全体の8割になるほどの成果を上げました。この機能自体がプラットフォームとなれば、多くの出品者にメリットがあると考え、プロセスの自動化を進め、イーレディーから切り離してLISUTOを始めたのです。

セールスアップのイメージ
(画像=セールスアップのイメージ)

ただ、日本の顧客も越境ECには興味があるとはいえ、まずは日本国内のECを優先しています。彼らとともに日本市場でのECを研究するうちに、日本国内では異なる課題があることに気づきました。それがタグ抽出とマーケットプレース向けの構造化をあわせた自動化、という今のLISUTOの事業展開へとつながっています。開発はすべてイスラエルで行っています。LISUTOが日本市場をターゲットとしているのは、もともと私が日本にいて日本のことが良くわかっているからなのです。

―――なぜ、イスラエルの方が日本市場をターゲットとしているのか少し不思議に思っていたのですが、プラテックさんご自身が日本で生活していたからなのですね。プラテックさんご自身のことも少し教えてください。

最初の東京オリンピックの翌年1965年に、経済成長の始まった日本でのビジネスチャンスを求めて、私の父親が来日しました。私はその翌年1966年に日本で生まれ、10歳まで日本で育ちました。その後ニューヨークで1年過ごした後、12歳でイスラエルへ移り、中学・高校で学んだ後に兵役義務を果たし、大学へ進学しました。兵役では8200部隊に従軍、大学では経済学と法学を大学院まで学び、弁護士資格も取得しました。ただ私がやりたかったことは弁護士ではなく、スタートアップに興味があったので、軍隊の仲間とともにいくつか起業をしました。私は弁護士の素養があるので、技術を開発した仲間たちを支援して、シードマネーを集め、会社を起こすところを担当しました。最初に起業した近距離通信の会社は、TI(テキサス・インスツルメンツ)に買収されています。その後も別の会社を立ち上げ、買収されるまでのプロセスを経験しています。その後、スタートアップへの関心からVCの仕事を始め、日本とイスラエルとをつなぐ役割になりたいと思い、95年に日本に戻ってきたのです。2000年には、イーレディーという会社を立ち上げました。イーレディーは日本のマーケットを対象にした日本の会社として作りましたが、先程説明したように越境ECの機能はグローバル展開もできると考え、イスラエルでLISUTOの開発も強化しました。

イスラエルと日本の国旗
(画像=イスラエルと日本の国旗)

“日本とイスラエルとをつなぐ”という意味では、日本企業がイスラエル企業に出資したり、イスラエル企業が日本支社をつくったり、という事例は多くありますが、イスラエルチームと日本チームが協力しながら日本で起業した、という事例は私達以外にはあまり無いのではないでしょうか。私が目指しているのは、日本発でグローバルに活躍するメガベンチャーなのです。

―――プラテックさんが日本語ネイティブの理由もよくわかりました。両国の文化を良くご存知の立場で、それぞれの違い、良い点、悪い点などについてもご意見をいただけますか。

良く言われることですが、日本人は計画性があり、物事を慎重に進めるところが特徴であり、あまり直球で物事を言うようなところはありません。一方、イスラエル人はオープンコミュニケーションが得意で、ベンチャーマインドがあります。軍隊の上官もファーストネームで呼び、上下関係なく意見を言います。私は両方がわかっているので、双方の良い点を活かしたマネージメントができればと思っています。少なくともスタートアップの世界では、日本人はイスラエル人のベンチャーマインドから学べることは多いと思います。また、日本は大きなマーケットであり、人間関係をきっちりと築けば、お客様と長期のビジネスを続けることができるのも素晴らしい点だと思っています。だから私たちは日本のマーケットを重視しており、資金調達も日本で行ってきました。

LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック
(画像=LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック)

イスラエルの特徴ですが、イスラエルでは大学のアルムナイ(卒業生)よりも、兵役に従事する軍のユニットのアルムナイネットワークのほうが重要です。そのアルムナイネットワークで、チェックポイントやNICEなどの先輩たちの成功事例を見ながら、若い人も後に続く、という文化や流れができているので、開発系の部隊経験者だけではなく、コンバット部隊やパイロットの経験者から起業をする人もいます。私達の会社も、8200部隊のアルムナイネットワークからエンジニア人材を紹介してもらうこともあります。

LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック
(画像=LISUTO 株式会社代表取締役社長ニール・プラテック)

両国の文化の違いとしては、日本人は間違ったことを言わないようにと慎重ですが、イスラエル人はおかしなことでもどんどん発言しますし、周囲もそれに対して否定的には反応しません。間違っていても気にしないというのは、アイデアをどんどん出して、育てるためには重要な点だと思っています。また、日本人の親は、子供が良い大学に進学して大企業に就職することを期待するような傾向があると思いますが、イスラエル人の親は子供が起業家の道を進むことに大変ポジティブです。ただ、最近イスラエルでも多国籍企業の開発拠点が増え、特にエンジニアは高い給与で大企業に就職することもキャリアの一つとなってきました。従って、起業家への指向も今後少し変わってくるかもしれません。

LISUTOのホームページを見て取材の準備をした時点では、AIを利用したタグの自動抽出技術を持っていると理解していたので、LISUTOのサービスはもっとシンプルなものであると想像していた。しかし、プラテックさんのお話を伺って、まさにECの売上の鍵を握っているサービスであることを理解し、大変感銘を受けた。このような重要なサービスが、イスラエルの技術をもとに日本発のサービスとして具体化したことは大変嬉しいことではないだろうか。イスラエルで完成された技術をそのまま日本に持ってくるとか、イスラエルのスタートアップに出資する、というような活動で両国を繋いでいる事例は多いが、イスラエル人がイスラエルで開発された技術をもとに日本で起業し、日本市場で事業を成長させているというLISUTOのような事例は稀だろう。文字通り、プラテックさんは日本とイスラエルとの架け橋である。今後は、日本での実績を踏まえて、ヨーロッパやアメリカ、アジアへ展開していく計画だそうだ。取材の最後にLISUTOという社名の由来を伺ったところ、マーケットに出品するという意味がある英語の”LIST”を日本語発音にして“LISUTO”としたと教えて頂いた。当メディアも“ISRAEL”を日本語発音にした “ISRAERU”という名前なので、不思議な縁を感じた。イスラエル人による日本発サービスのグローバル展開に大いに期待をするとともに、このような形で日本とイスラエルとをつなぐケースが増えてくることも期待したい。

https://www.lisuto.co.jp/

LISUTO株式会社 代表取締役社長 ニール・プラテック氏
(画像=LISUTO株式会社 代表取締役社長 ニール・プラテック氏)

ニール・プラテック

日本とイスラエルに拠点を置くEC向けAIを提供するLISUTO会社及び高級ブランド品専門ECを運営するイーレディー株式会社CEO。東京で生まれ育ち、流暢な日本語を話すイスラエル人。イスラエルと日本を繋ぐ初のベンチャーキャピタルを設立し、これまで数多くのスタートアップに投資を行う。8200部隊所属時にはクリエイティブシンキング賞を授賞。テルアビブ大学で経済学の講師を務めた経験も持つ。イスラエル弁護士会会員、日本イスラエルビジネスフォーラム共同創設者である他、TOKYO 2020ではイスラエルチームのオリンピックアタッシェを務める。テルアビブ大学法学士号及び経済学修士号取得。