できるビジネスマンは日本酒を飲む
(画像=Kento,O/stock.adobe.com)

(本記事は、中條 一夫氏の著書『できるビジネスマンは日本酒を飲む ―外国人の心をつかむ最強ツール「SAKE」活用術』=時事通信社、2020年10月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

目で選ぶ(瓶やラベルのデザイン)

「瓶がきれいだから選んだ」「ラベルがかわいいから選んだ」。これも立派な選び方です。ラベルでインパクトを狙う「ジャケ買い」狙いの製品も増えています。ビジネスにおいても相手に与える第一印象は重要ですし、そこに意味を込めることも可能です。

①瓶の色

日本酒の瓶は、茶色か深い緑色が多いです。これは日光や照明の紫外線で酒が劣化するのを防ぐためです。茶色はビール瓶みたいであまりオシャレには思われませんが、日本に詳しい外国人には日本らしさを感じさせることもあります。深い緑色はワインボトルにもよくあるので良くも悪くも目立ちません。黒瓶は高級感を感じさせます。

最近は青色の瓶も時々見かけます。爽やかな味わいの製品だったり夏季限定の製品だったりします。イメージは夏ですが紫外線には非常に弱いので直射日光は大敵です。

透明の瓶も時々見かけます。これは濁り酒や淡い色のついたお酒であることを強調するため、あるいは逆に、水のように澄んだお酒であることを強調するために使われることが多いようです。もちろん直射日光は大敵です。ワインでもロゼやヌーヴォーなど長期保存せずにフレッシュな状態で楽しむ製品には透明の瓶が使われることが多いようです。

ガラスの表面がフロスト(すりガラス)になっている瓶もあります。高級感を与える反面、光を乱反射させるだけで紫外線には弱いので要注意です。

瓶に新聞紙を巻いている製品もあります。日本酒愛好家にとっては「紫外線対策を意識している酒蔵だ」という良い印象を与えますが、外国人には高級感を与えません。ただしカジュアルな雰囲気を出したい際や、相手が日本語を読めたり日本語に興味を持っている場合には話のネタとして効果的です。私は瓶が竹皮に包まれた日本酒をヨーロッパで使ったことがありますが、異国情緒は満点で「これは何だ」と尋ねる人が続出しました。レセプションで多くの人にとりあえず一口試飲してほしい場面では絶大な威力を発揮しました。

②瓶のサイズ

日本酒の瓶は一升瓶(一八〇〇ミリリットル)か四合瓶(七二〇ミリリットル)が一般的です。四合瓶は一般的なワインボトル(七五〇ミリリットル)に近いので外国人にも違和感を与えません。

日本酒の小瓶では三〇〇ミリリットルや一合瓶(一八〇ミリリットル)をよく見かけます。三〇〇ミリリットル瓶はワインのハーフボトルのイメージですし、一合瓶はワインの四分の一ボトル(国際線のエコノミークラスの機内食でよく見かける)のイメージです。

贈答品文化の根付いた国で小瓶をプレゼントすると「みみっちい」と思われかねないので、その場合は四合瓶に限ります。プライベートでは一升瓶で相手を驚かせる手もありますが、ビジネスの場ではお勧めしません。逆に、倫理規定の厳しい国では、高価そうなプレゼントを渡すと相手も困るので、先方の事情も確認の上で「ちょっと気の利いたプレゼント」として小瓶の日本酒をプレゼントするのは一案です。

③瓶の形

日本酒はワインのように瓶の形が地域や風味と密接に結びついてはいないので、外国人を混乱させている側面もあります。その反面、酒蔵のアイデアを自由に反映させられるので選ぶ楽しみがあるとも言えます。

最近は外観も中身もワインを意識した日本酒が増えてきています。ラベルのデザインがワインを意識している日本酒であれば、その瓶の形からどのようなワインを意識しているか想像できることがあります。ワインの素養のある外国人には分かりやすいでしょう。

また、ファッション性のある変わり種の瓶も増えてきました。飲んだ後も飾り物や一輪挿しとして使う人もいるようです。ベルギーでのレセプションで「この瓶が空いたら欲しい」と複数の女性からリクエストを受けて驚いたことがあります。

日本酒の樽を模したデザインのミニボトルもあります。これはいかにもお土産用です。飲んだ後にも部屋に飾ってもらえる可能性があるので、贈り主を忘れないでいてもらえるという人脈構築上の利点があります。ただし相手が本物の日本酒樽を知らないと愛着が湧かないので、鏡開きの風習も含めて説明することができればなお効果的です。

④ラベルのデザイン

昭和期には紋章風のロゴマークの上に銘柄名を記したデザインのラベルが多かったですが、平成期には筆文字で銘柄名を大書したデザインが増えました。ワインのような横文字のデザインや、芸術的なデザイン、あるいはイラストを中心とするかわいいラベルの製品も増えてきました。

筆文字で銘柄名を大書したデザインは漢字圏以外の外国人には異国情緒満点ですが、当然ながら何という意味かを尋ねられますし、そこで気の利いた答えが出てこないと話が盛り上がりません。デザイン以外にその製品を選んだ明確な理由があればよいのですが、一般論として「動植物の名前」「富士」「美人」などの言葉の入った銘柄は話題にしやすいです。尋ねられて説明できない銘柄をビジネスの現場で活用するのは得策ではありません。

ワインのような横文字のデザインは、日本人にとっては日本酒としてインパクトがありますが、実はワインを見慣れた外国人にとってはインパクトがなかったりしますし、そういう人は横文字ラベルを見る目が肥えていることが多いので「外国人だから横文字のラベルが喜ばれる」とは限りません。

かわいいラベルの製品、とくにアニメ風のキャラクターについては、外国人の間でも好き嫌いが分かれますので、ハイリスク・ハイリターンです。相手を選びましょう。浮世絵の美人画ラベルも、外国人には異国情緒満点と思われがちですが、まれに芸者に対する偏った理解をしている外国人もいるので注意する必要があります。

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中條一夫(ちゅうじょう・かずお)
国際きき酒師(外国人に日本酒の説明・提供を外国語で行うスペシャリスト)。1967 年北九州市生まれ。1987 年福岡県立東筑高校卒。1992 年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程専修コース修了。1992 年外務省入省。1993 年の東京サミットの際、晩餐会で日本酒が乾杯酒に使われたことに感銘を受ける。その後、海外駐在(4か国11 年間)や海外出張(数十か国・地域)を通じ、外国人に対して日本食および日本酒の紹介や説明を行った経験多数。帰国後も週末の酒蔵訪問や日本酒イベントのボランティア等を通じて研鑽を重ねつつ、日本人・外国人を問わず、酒蔵案内、講演(外務省の在外公館赴任前研修での日本酒講座講師など)、自主セミナーを通じ、日本酒・焼酎をはじめとする日本産酒類の魅力を伝えている。2014 年、第四回世界きき酒師コンクール決勝大会で審査員特別賞受賞。2018 年、日本酒英語資格三冠達成第一号(SSI 国際きき酒師、WEST サケ・レベル3、JSA サケ・ディプロマ・インターナショナル)。他にSSI 焼酎きき酒師、日本酒学講師等。

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