2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人いるそうだ。このうち、約半数の127万社が後継者未定のまま、廃業などの危機を迎えるといわれる。

「廃業」というと、経営が思わしくないため、やむをえず会社をたたむというイメージがあるかもしれない。しかし、東京商工リサーチの「2021年休廃業・解散企業動向調査」によると、2021年に休廃業や解散した企業のうち黒字だったケースは56.5%にも上った。

業績が順調であっても承継者や承継先がなく、やむをえず廃業したケースが過半を占めている状況だ。

目次

  1. なぜ事業承継がうまくいかない?
  2. 早めの後継者対策が未来の選択肢を増やす
    1. (1)親族内承継
    2. (2)従業員等への承継
    3. (3)第三者への承継
  3. 税の適正化には、相続発生前からの対策が肝要
    1. 中小企業対象の事業承継税制
    2. 生前贈与の活用
  4. 経営者の個人保証解除を専門家が支援
    1. 債務等の相続対策を
    2. 経営者保証ガイドラインを活用
  5. 「多面的」な視点で「同時並行的」な対策を
  6. 避けては通れないリスクマネジメントの一つ
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
後継者はどう育てる? 後継者育成の問題点と育成方法を解説
(画像=琢也栂/stock.adobe.com)

なぜ事業承継がうまくいかない?

中小企業の経営が順調にもかかわらず、なぜ事業承継がうまくいかないケースが多いのか。本稿では、中小企業の事業承継が抱える課題と対策について、(1)後継者問題、(2)税負担、(3)経営者の個人保証、の3つの観点から解説する。

早めの後継者対策が未来の選択肢を増やす

事業承継がうまく進まない原因の第一は、そもそも後継者が決まらないケースだ。資金繰りやコスト改善に比べて、事業承継は緊急性が低く、対応を先送りにする経営者は多い。気付いたときには、適切な後継者が見つからずやむをえず廃業、というケースは少なくない。

後継者が決定したとしても、実際に引き継ぐまでの期間も必要だ。みずほ情報総研が2018年に行った「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」によると、後継者決定から実際に引き継ぐまでの期間として、44.9%が「1年以上」と回答している。

後継者選びから承継するまでの期間を考えると、さらに長い期間が想定されることから、早めの対策が必須だ。

では、後継者選びにはどのような選択肢があるのだろうか。誰に会社を承継させるかという事業承継には大きく分けて、(1)親族内承継、(2)従業員等への承継、(3)第三者への承継という3つの形式がある。

(1)親族内承継

親族内承継は、自分の子供や兄弟などの親族に継がせるケースで、一般的に社内外からも受け入れられやすく、後継者を早めに決めて将来に向けて育成できるという利点がある。もっとも、経営能力と意欲の両方を兼ねそろえた者が必ずしも親族内にいるとは限らない。また相続人が複数いると、後継争いに発展する恐れもある。

親族内で承継を考える場合は、後継者を決めたら本人の了解を早めに取り付け、スムーズな承継に向け育成を開始する必要があるだろう。

(2)従業員等への承継

親族内に後継の適任者がいない場合、社内から後継者を探すことが考えられる。

この場合、社内業務に精通しているため、他の従業員の理解を得やすい半面、候補者に株式取得などの資金力がない場合が多い。また、従業員と経営者では、経営リスクに対する覚悟が違うので、従業員の中から後継者を選ぶ場合も、早めに本人の意思を確認して、周囲にもアナウンスすることが必要だ。

(3)第三者への承継

親族内にも社内にも適任者がいない場合には、広く外部に人材を求めることになる。他社に事業を売却するM&Aもこれに当たる。

従来M&Aは、従業員の雇用や売却価格などの希望を満たす譲渡先を探すのが困難とされてきた。このような状況を受け、経済産業省は2020年3月に「中小M&Aガイドライン」を発表するなど、中小企業のM&A支援に乗り出している。

親族内外を問わず、後継者の選定やM&Aには一定の時間をかける必要がある。早めの対策が後継者の選択肢を増やすことにつながるといえるだろう。

税の適正化には、相続発生前からの対策が肝要

事業承継では、後継者が経営者から自社株式や事業用資産を引き継がなければならないが、これらの取得には贈与税や相続税が発生する。

相続税の負担が重すぎて後継者が十分な株式を取得できなかったり、従業員を後継者に決めたものの、自社株式取得に伴う贈与税を払う資金が準備できなかったりするなど、重い税負担は円滑な事業承継の妨げになることがある。

中小企業の事業承継に伴う税金については、納税猶予や免除などさまざまな特例が用意されているので、しっかりとした対策を立てることで、負担を軽減することができる。

中小企業対象の事業承継税制

例えば、事業承継税制は、後継者が相続や贈与によって取得した自社株式などについて、一定の要件の下、相続税や贈与税の納税が猶予・免除される制度だ。

事業承継税制が適用されると、自社株式の取得に伴う相続税、贈与税は全額の納税が猶予されるため、承継時の税負担をゼロにできる。

親族に限らず、従業員等への親族外承継でも適用されるので、後継者となる従業員が納税資金の調達を心配することなく承継できる。

生前贈与の活用

自社株式などを生前贈与する場合には、一定額について非課税になる制度もある。年間110万円までの贈与については贈与税が課税されないので、毎年後継者に対して計画的に自社株式を譲渡することで節税対策ができる。

また、生前贈与された財産については、相続財産に合算する相続時精算課税制度を活用できる場合もある。

60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対し贈与した場合に選択することができ、特別控除額2,500万円までの金額には贈与税が課税されない。

この制度を選択した場合、相続時に合算される贈与財産の価額は、贈与時の価額で計算される。そのため、贈与時より相続時の方が、評価額が上昇している場合などに適用すると税制上有利になる。具体的には、会社の業績が伸びており、将来自社株式の評価額の上昇が見込まれる状況で、後継者に株式を生前贈与する場合に活用できる。

中小企業の事業承継に伴う税負担については、このようにさまざまな特例が用意されている。もっとも、相続発生後など事後的に対応できる制度は限られる。

元気なうちに相続のことを考えるのには抵抗を感じる経営者も少なくないだろうが、事前の準備で税負担に大きな違いが生じる可能性は高い。税負担の適正化はもちろんのこと、納税資金の準備など、ここでも早めの対策が肝要だ。

経営者の個人保証解除を専門家が支援

事業承継では、自社株式や会社所有の不動産などプラスの財産だけでなく、経営者個人が借り入れている事業用資金などの債務や担保、保証の承継についても考える必要がある。

債務等の相続対策を

例えば、経営者が死亡し相続が発生する場合には、誰が経営者個人の債務を相続するかという問題が生じる。また、経営者が自己所有の不動産を会社の債務の担保としたまま相続が発生した場合、担保物件が複数の相続人の共有状態となり、経営に支障をきたすケースも考えられる。

このようなケースでは、事業承継とともに経営者の相続対策も併せて進めなければならない。

経営者保証ガイドラインを活用

さらに厄介なのが、経営者保証の問題だ。中小企業が金融機関から事業資金を借り入れる場合、経営者の個人保証か、経営者が所有する土地や建物等の担保提供を求められる場合がほとんどだろう。

このような経営者保証は、事業承継を行う上で大きなネックとなるが、経営者保証を解除しようとしても、金融機関は消極的な態度を取ることが一般的とされてきた。金融機関としては、経験の浅い後継者は信用に乏しいと評価するためだ。かといって、経営者保証を残したままでは会社に不測の事態が起きた場合、前経営者が多額の返済負担を負う可能性がある。

この経営者保証が事業承継の阻害要因の一つとなっていることに鑑み、日本商工会議所と全国銀行協会は、「経営者保証に関するガイドライン」を策定している。同ガイドラインは、金融機関に対して経営者保証の解除や後継者との保証契約の必要性などについて検討するよう求めており、中小企業が経営改善に取り組むことで、金融機関が経営者保証の解除に応じるケースも増えている。

東京商工リサーチの「経営者保証に関するガイドライン認知度アンケート報告書」(2016年)によると、経営者が金融機関に対して保証解除の申し出や相談を行った結果、46%が解除に応じたという。

経営者保証解除を目指す中小企業に対しては、専門家による支援事業も用意されている。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターに相談申し込みを行うと、経営者保証コーディネーターが、経営者保証に関するガイドラインの要件を満たすかどうかをチェックしてくれる。要件を満たす場合は、希望すれば専門家が金融機関との面談に同席し、経営者保証解除に向けた支援まで行う流れだ。

「多面的」な視点で「同時並行的」な対策を

中小企業の事業承継が抱える「2025年問題」は、現状のままでは、中小企業の廃業が急増し、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるとの試算もなされている。個々の企業の問題にとどまらず、国にとっても大きな損失として議論される喫緊の課題となっているのだ。

この状況で事業承継を成功へと導くためには、多角的な視点を持って早めに同時並行的に対策を始めることが何よりも肝要だ。特に中小企業は、今日、明日の経営状況や課題に目を向けがちだが、5年後、10年後の自社の姿をイメージしながら、将来に備えて計画的に準備しなければならない。

そのためには、前述した3つの課題への対策とともに、現段階で自社が抱える課題、自社が持つ価値を正しく把握し、将来へ向けた磨き上げを継続していくことが経営者には求められている。自社の価値を磨き上げることで、金融機関からの信頼確保や優秀な人材の獲得につなげることができれば、事業承継の選択肢も自ずと広がることになる。

避けては通れないリスクマネジメントの一つ

中小企業の経営者にとって事業承継の問題は、避けては通れないリスクマネジメントの一つだ。将来のリスクを分散し最小限に抑えるためにも、先送りにせず正面から向き合うことで、会社にとっても経営者にとっても最善の選択を導き出すことができるだろう。

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