脱炭素という言葉が叫ばれて久しい。しかし現代では、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」から一歩進み、排出量よりも吸収量のほうが多い状態を目指す「カーボンネガティブ」が注目を集めている。本記事では、カーボンネガティブの意味や必要性、カーボンニュートラルに取り組む企業の事例を紹介していく。

あわせてカーボンネガティブを達成するにあたり、消費者が気を付けるべきグリーンウォッシュ(みせかけのエコ)についても解説する。

目次

  1. カーボンネガティブの意味と意義
    1. カーボンネガティブとは
    2. カーボンネガティブに取り組む必要性
  2. カーボンネガティブに取り組む企業の実例
    1. マイクロソフト
    2. 花王株式会社
    3. 大成建設株式会社
    4. 住友化学株式会社
    5. パタゴニア
    6. Zホールディングス株式会社
  3. カーボンネガティブ達成への課題
    1. グリーンウォッシュ問題
    2. 日本の発電事情と脱炭素化問題
  4. CO2排出削減は企業の社会的責務に
  5. カーボンネガティブに関するQ&A
    1. Q1.カーボンネガティブとは何をすること?
    2. Q2.カーボンネガティブの例は?
    3. Q3.カーボンネガティブの反対語は?
カーボンネガティブって何? その意味と必要性、企業の取り組みを紹介
(画像=matsu/stock.adobe.com)

カーボンネガティブの意味と意義

まずは、カーボンネガティブとカーボンニュートラルの違い、カーボンネガティブの必要性について解説する。

カーボンネガティブとは

カーボンネガティブとは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量よりも吸収・除去量のほうが多い状態を指す。カーボンネガティブとよく似た言葉に「カーボンニュートラル」がある。カーボンニュートラルは、排出した温室効果ガスの量と吸収・除去量の差し引きをゼロにするという意味だ。

「吸収・除去量のほうが多い状態にする」というカーボンネガティブは、カーボンニュートラルよりも温暖化対策に積極的な姿勢といえる。カーボンニュートラルやカーボンネガティブを実現するためには、産業界全体で以下のような取り組みを行うことが必要だ。

  • 再生可能エネルギー発電の導入* 拡大
  • カーボンリサイクル(排出したCO2を回収* 貯留し、再利用する)
  • DACCS(大気中のCO2を回収* 貯留する)
  • 水素発電
  • 電化
  • 炭素を除去するための植林 など

カーボンネガティブに取り組む必要性

カーボンネガティブに取り組む必要性がある背景には、カーボンニュートラルだけではなく温室効果ガス削減に関する取り決めを定めた「パリ協定」がある。2016年に発効した「パリ協定」では、世界が達成すべき長期的な目標として以下の2点を挙げている。

  1. 世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く保つ。さらには、1.5度に抑える努力をする
  2. 1を達成するために早期に温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、21世紀後半には温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとる
    出典:資源エネルギー庁

気候変動に関する国際連合枠組条約の報告書によると「1.5度に抑える目標を達成するには、2030年までに温室効果ガスの世界総排出量を2010年比で45%削減しなければならない」としている。しかしパリ協定の締結各国は、実現困難な状況にあるのが現状だ。そのためカーボンニュートラルよりも一歩踏み込んだカーボンネガティブの取り組みが求められる。

カーボンネガティブに取り組む企業の実例

ここでは、企業のカーボンネガティブの取り組み例を紹介する。

マイクロソフト

「カーボンネガティブ」に取り組む企業の代表格といえるのが米国のマイクロソフトだ。同社は、2013年6月期からCO2の排出量に応じて社内で資金を集め再生可能エネルギーを購入する「内部炭素課金」という方法でカーボンニュートラルを実践してきた。2030年までにカーボンネガティブを達成し、2050年には1975年の創業以来排出してきた量のCO2を除去すると宣言している。

以下は、そのための取り組みの一例だ。

  • 2021年7月までに内部炭素課金をサプライチェーンにまで拡大
  • 2025年までに企業活動を行うビルなどの電力を再生可能エネルギーに100%シフト
  • 2030年までに世界中の会社敷地内で走る車両を電気自動車にする

花王株式会社

花王株式会社は、2019年4月から脱炭素に貢献する活動「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を策定。2040年までに事業活動から排出されるCO2をゼロ、2050年までにカーボンネガティブを目指してさまざまな取り組みを行っている。2021年には、国内にある全55ヵ所のロジスティクス拠点で使用電力の100%再生エネルギー化を実現。

工場やロジスティクス拠点など全事業所での使用電力における再生可能エネルギー化比率は、38%となり2030年までに100%を目指すとしている。また製品の原材料調達から「製造→輸送→使用→廃棄」といったサイクルから生み出されるCO2の排気量を抑える取り組みも実施中だ。

2021年は、水の使用によるCO2の排出を減らすことを目的とした節水製品の販売、包装容器のプラスチック使用量削減などの取り組みにより2017年に比べてCO2排出量を4%減らすことができた。製品の生産* 使用にかかわるCO2排出量については、2030年までに2017年比22%の削減を目指す。

さらに2050年のカーボンネガティブを目指しCO2を使った原料をつくり、その原料を自社製品に活用するための技術開発に取り組んでいる。

大成建設株式会社

CO2は、コンクリートを製造する際に排出される。しかし大成建設株式会社が開発したカーボンリサイクル コンクリートは、CO2をコンクリート内部に吸収 固定しているのが特徴だ。材料に排気ガスなどから回収したCO2をカルシウムに吸収させた炭酸カルシウムが使われている。カーボンリサイクル コンクリートに吸収 固定されているCO2は、1立方メートルあたり171キログラム。

このコンクリートを製造するために排出されたCO2は、1立方メートルあたり55キログラムで排出量と吸収量の差し引きは1立方メートルあたり-116キログラムとなりカーボンネガティブを実現した。

住友化学株式会社

住友化学株式会社では、2030年までにグループ全体で温室効果ガス排出量を2013年比で50%削減、2050年までにカーボンニュートラルの実現が目標だ。同時にカーボンニュートラルに向けた取り組みとして自社の製品や技術を通じて世界の温室効果ガス削減への貢献も掲げている。

後者の取り組みとしてメタンの炭素をエネルギー源とする微生物で生産される樹脂を使った自動車 繊維向け材料の共同開発を始めた。メタンはCO2の約25倍の温室効果があり、その削減は温暖化の抑制につながる。農業 産業廃棄物から回収したメタンを使い米国企業とともに自動車向けと繊維向けの樹脂を開発するという。

パタゴニア

米国のアパレルメーカーのパタゴニアは、2025年までにサプライチェーンまで含めたビジネス全体でカーボンニュートラルの達成を目標としている。さらにその先には「カーボンポジティブ(カーボンネガティブに相当する呼称)」を目指す。具体的には、以下のような取り組みを行っている。

  • 世界にあるオフィスや店舗で使用する電力を、100%再生可能エネルギーでまかなう
  • 森林再生のような炭素回収プロジェクトへの投資を行う
  • 2025年までに再生可能またはリサイクルした素材だけを製品に使用する など

Zホールディングス株式会社

2022年ヤフー株式会社やLINE株式会社、株式会社ZOZOなどを傘下に持つZホールディングス株式会社では、グループ全社が事業活動で排出する温室効果ガスの量を2030年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル宣言」を発表した。2025年ごろまでには電力の80%以上を再エネ化、2030年には100%再エネ化を目指す。

グループ傘下のヤフー株式会社では、2023年末に再生可能エネルギー化100%を達成することを目標に掲げ、データセンターで使用する電力に再生可能エネルギーを取り入れているのが特徴だ。特に米国のデータセンターは、ほぼ100%再生可能エネルギーで稼働している。

ヤフー株式会社では、グループ傘下の他社に先駆け2023年以降はカーボンネガティブへの取り組みを開始し2030年までに達成することが目標だ。

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カーボンネガティブ達成への課題

製造現場やオフィス業務など企業はあらゆる活動の中で排出されるCO2の削減に取り組んでいる。しかしカーボンニュートラルやカーボンネガティブを実現するには課題が多い。ここでは、課題の一例として2つの問題を紹介していく。

グリーンウォッシュ問題

「グリーンウォッシュ」とは、エコをうたいながら根拠があいまいだったり実態がなかったりする商品や活動のことを指す。例えば以下のようにエコを企業イメージに悪用するケースは、枚挙にいとまがない。

  • CO2排出量ゼロとPRしているが数値的な裏付けがない
  • 100%リサイクル可能の紙ストローを使用としていたが実際は廃棄していた など

欧米では、グリーンウォッシュに対し制裁を伴う規制を導入したり企業を摘発したりしている。しかし日本では、環境庁などによるガイドラインの発表にとどまっているのが現状だ。

日本の発電事情と脱炭素化問題

日本は、国全体で2050年にカーボンニュートラルを目指している。カーボンニュートラル、さらにはカーボンネガティブを国全体で実現するために電力問題は避けて通れない。日本では、供給電力の7割以上を火力発電に頼っているが火力発電の約76%が石炭・天然ガス・石油といった化石燃料だ。化石燃料は、CO2を排出するが国内のCO2排出量の4割以上が火力発電由来である。

原子力発電所の稼働を停止している状況で火力発電を続けるには、化石燃料を減らすことが必要だ。その際、排出源から出たCO2を回収し燃料として再利用したり水素やアンモニアを燃料として活用したりする方法が有効になる。これらの方法は、実証段階のものが多く今後の進展が待たれる。

CO2排出削減は企業の社会的責務に

パリ協定で定められた目標達成のため、カーボンニュートラルから一歩踏み込んだカーボンネガティブは、企業だけでなく国を挙げて取り組む必要がある問題だ。日本でも企業単位では、取り組みが進んでいるものの国レベルでは、エネルギー政策の面などで解決すべき問題は大きい。

ただし今後あらゆる業種で企業としてCO2の排出削減に取り組むことは、単なるイメージ戦略ではなく企業の社会的責務とみなされる。まだ対策を講じていない企業も具体的な目標とその期限を設け、事業規模に応じてできることから取り組んでほしい。

カーボンネガティブに関するQ&A

Q1.カーボンネガティブとは何をすること?

A.あらゆる活動で排出されるCO2などの温室効果ガスについて排出量よりも多くの量を吸収・除去すること。カーボンネガティブを実現するためには産業界全体での努力が必要。

Q2.カーボンネガティブの例は?

A.排出したCO2を回収・貯留し、資源として再利用する「カーボンリサイクル」は、CO2を除去するための植林などが挙げられる。

Q3.カーボンネガティブの反対語は?

A.「カーボンネガティブ」に対して「カーボンポジティブ」という表現があるが、これはカーボンネガティブと同じ意味を表している。「CO2を吸収する」ことを「ポジティブ」ととらえ、カーボンポジティブと表現したものだろう。パタゴニアなどのようにカーボンネガティブという表現を使わずカーボンポジティブを使う企業もある。

また単純に反対の意味を言うのであれば「環境破壊」という言葉が用いられることもある。

著:せがわ あき
会計事務所に10年勤務。その後、会計ソフトメーカーでの勤務を経て、現在は会計・税務・金融などをテーマにライティング活動を行う。会計事務所では、顧問先の会計業務や融資支援に従事。融資のための提出資料作成や融資・資金繰りのアドバイスなどを行う。会計ソフトメーカー時代には、お客様対応業務に加えてソフト開発にも携わり、お客様の声を製品に反映させる仕事に従事。
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