近年、柔軟な働き方が推進されるようになり、社会で活躍する女性の姿も珍しくはなくなった。すでに女性の管理職登用を検討している企業もいるのではないだろうか。
今回は、女性管理職比率の実情を示しつつ、女性の活躍を支援するポイントや企業事例について解説する。
目次
女性管理職比率の実情
日本では、男女雇用機会均等法が施行されている。労働現場での性差による不平等是正の活動によって、女性の就労者数が増加した。
1997年には、共働き世帯数が専業主婦からなる世帯を完全に超えている。
民間企業における女性管理職比率のデータ
女性就労者の増加にともなって、女性の管理職比率も増加していると考えられるが、実際はそうとも限らない。
「男女共同参画白書平成28年版」では、民間企業における女性管理職の比率について、データが公開されている。
管理職に相当する課長・部長級に関して、女性社員の割合は1990年以降増加傾向にある。しかし、上位管理職ほど女性管理職の割合は低い。
労働現場で性差のギャップが解消されたとは言い難い状況である。
女性管理職比率の政府目標
男女共同参画の社会実現に向けて、2003年に日本政府は、女性の指導的地位に占める割合を30%まで到達させる目標を掲げた。目標値については、男女共同参画基本計画で定期的に言及されている。
2020年に向けて増加の道筋をつけたが、目標達成が困難な状況であり、第5次計画では以下のように修正された。
・2030年代には、指導的地位に関して性差の偏りがない社会を目指す
・2020年代には、できるだけ指導的地位に占める女性の割合が約30%に到達するように取り組む
男女共同参画基本計画は、2000年の第1次計画から5年おきに設定されており、2020年12月に第5次計画が閣議決定された。
同計画では女性管理職の比率だけでなく、女性の雇用拡大やワークライフバランスの実現、女性への暴力根絶などに関する目標も示されている。経営者も定期的に内容を確認して欲しい。
海外と比較した日本の女性管理職比率
第5次男女共同参画基本計画では、日本の女性管理職登用が海外よりも遅れていることが示唆されている。実情を知るために、女性管理職の比率を確認してみよう。
内閣府の公開資料によると、日本では女性社員の割合が44.5%であり、諸外国とほぼ同水準となっている。
しかし、女性管理職の割合が14.8%であり、諸外国に比べて著しく低い結果となっている。
女性管理職比率が高い産業
総務省行政評価局が作成したデータを参考に、女性管理職比率が高い産業を確認していく。
医療・福祉業界は、女性管理職比率が43.5%と最も高く、女性の活躍なくして成り立たない業界となっている。
病院内で託児所や保育所の設置も進んでおり、結婚・出産後も女性が働きやすい環境であることも、女性管理職比率が高い要因だろう。
金融・保険業は、女性の管理職比率と労働者比率が全体の平均に近い。女性の職域拡大を進め、再就職支援を全国規模で行っており、定着率の維持に寄与している。
運輸業や郵便業、建設業に関しては、女性の管理職比率と労働者比率がともに低い。雇用面で性別的な偏りがあり、男社会という認識が根強い。
女性役員の比率が高い上場企業
上場企業に関して、女性役員の割合は以下の通り推移している。
女性役員の割合は2012年以降右肩上がりだが、2019年時点で5.2%(2,124人)であり、男性役員の比率が極めて高い状態となっている。
ちなみに2020年7月末において、女性役員の割合が高い企業のランキングは以下の通りだ。
1位:62.6% 光ハイツ・ヴェラス(サービス業)
2位:50.0% シーボン(化学)
2位:50.0% AI CROSS(情報・通信業)
4位:46.2% 資生堂(化学)
4位:46.2% ローソン(小売業)
6位:44.4% バナーズ(小売業)
6位:44.4% ハーバー研究所(化学)
6位:44.4% 東邦レマック(卸売業)
9位:42.9% セルシード(精密機器)
10位:40.0% ウォンテッドリー(情報・通信業)
10位:40.0% 新生銀行(銀行業)
引用:男女共同参画局「有価証券報告書に基づく上場企業の女性役員の状況 全体データ」
女性管理職登用を進める企業の活動事例3つ
厚生労働省では、女性活躍推進活動を行う優良企業を認定する「えるぼし認定」が進められている。
「えるぼし認定」を受ける条件には「女性の管理職比率」の評価項目があり、「女性の活躍推進企業データベース」では認定企業の取組事例も確認できる。
「えるぼし認定」を受けた企業から活動事例をいくつか紹介しよう。
事例1.株式会社丸久【卸売・小売業】
人事部に女性活躍推進担当を据え、女性従業員を対象に意識調査アンケートを行った。
また、女性活躍推進大会を山口県内で開催し、女性を対象としたキャリア支援セミナーも実施した。
積極的な活動によって、女性管理職の割合は3%から8%まで上昇するに至る。
事例2.日本アイ・ビー・エム株式会社【情報通信業】
女性社員が自身のキャリア課題について解決策を考えられるよう、1998年にJWC(Japan Women’s Council)を設立した。
両立支援制度を整備したことで女性の離職率が下がる。女性管理職の割合は、1998年の時点で1.8%であったが、2017年には15%まで向上した。
また、育児サポートの優良企業を厚生労働省が認定する「くるみん認定」も、2007年から4回取得している。
事例3.アフラック生命保険株式会社【金融・保険業】
指導的立場に占める女性社員の割合や、ライン長ポストの女性比率を増やすことを目標に掲げて取り組みを開始した。
育児や介護といった両立支援制度を積極的に拡充し、過去10名が介護休業後に100%復職した実績もある。
また、全社員を対象にフレックスタイム制を導入しており、サテライトオフィスも活用できる。
女性管理職を増やすための要素2つ
女性管理職を増やすために不可欠な要素を2つ説明する。
要素1.女性労働者の定着率
安心して長期間就労できる環境を整備し、女性労働者の定着率を向上させることが不可欠だ。そのために、ワークライフバランスの向上と両立支援制度の整備を実現する必要がある。
【ワークライフバランスの向上】
男女共同参画基本計画やワークライフバランス憲章にも記載されているが、仕事と生活の両立は勤労への充足感を高めるために大切だ。
個々に応じた柔軟な働き方を実現するために、フレックスタイム制を導入するなど、ワークライフバランスを向上させなくてはならない。
【両立支援制度の整備】
育児・介護と仕事の両立は、男女ともに重要な課題である。育児に関しては男性からの支援も鍵を握るが、男性の育休取得率が増加しているとはいえ、まだ女性の10分の1にも達していない。
また、家族の介護や看護を目的とした離職者は、女性が6〜7割を占めることがわかっており、介護休業の取得や復帰支援も解消すべき課題である。
参考:総務省「就業構造基本調査(平成24年、平成29年)」
要素2.管理職に対するイメージ
管理職が果たすべき役割や業務の情報を共有したうえで、管理職に対するイメージを向上させることも忘れてはならない。
そのためには、女性管理職のロールモデルが必要であり、その経験を後輩社員の育成に活用することが有効である。
また、女性リーダーの候補者をマネジメントやリーダーシップに関するセミナーに参加させるとよい。継続的に研修を開催し、必要に応じてフォローする。
女性管理職比率を高めるメリット5つ
女性管理職の増加を含めて、女性の活躍が企業にもたらすメリットを5つ解説していく。
メリット1.多様な価値観から意思決定できる
サービスや商品に関して、女性の目線から提案できる。企業で集団的に意思決定する際、多様な観点が困難を打開するきっかけにもなるだろう。
メリット2.従業員のモチベーションが向上する
女性社員は、社内に女性管理職のロールモデルがあることで、キャリア形成を具体的にイメージできる。目標が定まれば、就労に対するモチベーションも向上するかもしれない。
メリット3.就労の悩みを相談しやすくなる
両立支援制度の整備が進んでいるとはいえ、育児や介護の負担は男性よりも女性のほうが大きい。
女性特有の悩みを気軽に相談できる女性管理職は、女性社員の心強い味方となりえる。
メリット4.投資先としての評価が高まる
世界的に注目されるESG投資では、環境・社会・企業統治の観点から企業を選別する。
男女共同参画局によると、約7割の機関投資家が、企業の業績に長期的影響をもたらす要素として、女性活躍情報を投資判断の材料にしているという。
女性管理職の比率が高いことは、女性活躍推進を視野に活動している証明でもあり、投資対象としての評価も高まるかもしれない。
参考:
男女共同参画局「女性活躍はなぜ企業を強くするのか」
男女共同参画局「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究」
メリット5.自社の知名度が向上する
厚生労働省は、女性の活躍を積極的に推進する企業に対して「えるぼし認定」を、子育てサポートの優良企業に対して「くるみん認定」を与えている。
認定を受けた企業は、対応したシンボルマークの使用が許可される。社名も公表されるため、自社の知名度を向上させられるだろう。
女性管理職比率に注目して経営の見直しを検討
女性管理職比率は、女性活躍推進法の施行もあり上昇傾向だが、諸外国と比べて低い。
女性の活躍を推進する企業では、両立支援の整備が進められている。両立支援の整備は、女性が長期間企業で活躍するために欠かせない要素だといえよう。
制度の整備や取り組みの実施をする前に、まずは経営者が女性管理職登用に対する意欲を湧かせておきたい。
女性管理職比率を高めるメリットを把握したうえで、経営の見直しを検討してはどうだろうか。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)