ビジネスモデル特許をご存じだろうか。日本では2000年前後に注目を集め、ブームを巻き起こした。今は当時よりも沈静化しているが、それでも一定量の出願が行われている。今回は、ビジネスモデル特許の内容と取得のメリット・デメリット、費用、要件などについて解説していく。
目次
ビジネスモデル特許とは?
ビジネスモデル特許は、IT技術を用いてビジネス方法を実現する発明に与えられる特許だ。ビジネスモデルを思いついたら特許が取れると、期待する人もいるかもしれない。
特許取得方法
しかし、今までにない新しいビジネスの方法を思いついても、それだけでは特許を取得できない。単なるビジネス方法は、特許法上の発明ではないからだ。
特許権を規定する特許法は発明を対象としている。特許法によると発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義づけられている。
つまり、特許の対象となるには技術の要素が必要である。例えば、コンピューター技術が組み合わされたビジネス方法だ。
ビジネスモデルを実施する際、ITといった技術的な工夫があれば、ビジネスモデル特許の対象になる可能性がある。
※引用
特許法(e-Govポータル)
ビジネスモデル特許のメリット3つ
ビジネスモデル特許を取得するメリットを3つ確認してみよう。
メリット1.他社より有利に事業を展開できる
企業が特許を取得したいのは「金のなる木を守りたいから」だ。
ビジネスモデル特許の対象になるのも、マネタイズの根幹となる技術やシステムである。そのため、特許を取得すれば競合他社や後発の企業に対し、参入障壁を設けられるだろう。
具体的には、特許権がない他社が自社独自の発明をベースに事業を展開したら、実施した会社に対して損害賠償請求や差止請求の訴えを提起できる。
結果として、同じサービスを提供するにしても、自社は低コストで他社よりも有利に事業を展開できるだろう。
メリット2.取引先へのアピールになる
ビジネスモデルの技術について、「特許出願中」「特許第〇〇号取得」などと自社サイトで表示すれば、自社技術の独自性や新規性、安心感を顧客にアピールできる。将来の顧客獲得にもつながりやすくなるだろう。
そのほか、資金調達の面でも他社より優位な立場になれる。金融機関やエンジェル投資家、ベンチャーキャピタルなどの目に留まれば、収益を見込みやすいと判断されるかもしれない。
結果として、融資や出資の審査に通りやすくなるといえよう。
メリット3.補助金・助成金が受けられる
ビジネスモデル特許の取得には費用がかかる。その費用を支援すべく、日本弁理士会や各自治体では、補助金や助成金の制度を設けている。
なお、特許の対象となるビジネスモデルの構築にかかる費用は、特許出願料を含めて経済産業省のものづくり補助金の対象となる。
ビジネスモデル特許のデメリット3つ
ビジネスモデル特許のデメリットを3つ確認してみよう。
デメリット1.出願から取得まで時間がかかる
ビジネスモデル特許は、出願してすぐに取得できるわけではない。
出願したら審査を受けるために、特許庁へ出願審査請求を行う。
通常、出願審査請求のあと、約1年~1年半後に審査結果の通知が届く。場合によっては、特許の出願から特許の取得までに4~5年かかることもある。
デメリット2.コストがかかる
ビジネスモデル特許の取得にはコストがかかる。
【特許事務所に依頼しないケース】
もし自ら出願するのなら、1万4,000円の特許印紙のほか、出願審査請求に特許印紙代(13万8,000円+4,000円×請求項の数)がかかる。
さらに特許査定が届き、特許が認められたのなら、3年分の特許料(6,300円+600円×請求項の数)を納めなくてはならない。
誰にも頼まず自力で出願・取得するなら、少なくとも16万2,900円かかるのである。
【特許事務所に依頼するケース】
通常は少しでも特許取得の可能性を高めるため、特許事務所に依頼するだろう。
相場を見ると、出願時で約35万円~45万円、出願審査請求時で約16~19万円、拒絶理由通知が届くと意見書や手続補正書の提出で約10~18万円、特許査定が届いたら成功報酬は約10~16万円だ。
なお、最初の出願で特許が認められる確率は低い。約8割が拒絶理由通知を受け取ることになる。
さらに、何度も拒絶理由通知が出されると、その分費用がかかる。費用をかければ必ず特許が取得できるわけでもない。
デメリット3.ノウハウ流出のリスクがある
特許は、世の中に役立つ発明に与えられる権利だ。ビジネスモデル特許の出願日から1年6か月が経過した場合、発明の詳細が公開される。
つまり、ビジネスモデル特許を取得しても、いずれは競合他社に出願内容が明らかになり、
IT技術を利用した特許であれば技術の詳細まで知られてしまう。
結果、他社が特許のアイデアをもとにして、新たな技術やサービスを開発する可能性も生じる。
ビジネスモデル特許が認められる要件3つ
ビジネスモデル特許が権利として認められるためには、特許法において複数の要件を満たさなくてはならない。その中でも特に重要な要件を3つ解説していく。
要件1.発明である
特許法では、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義している。
技術的思想とは、技術に関する抽象的なアイデアや概念を指すが、第三者に伝達できる客観性が必要だ。投球方法といった個人的な技能によるアイデアや、機械の操作方法に関するマニュアルといった単なる情報の提示などは、技術的思想に該当しない。
また、創作とは従来とは異なる新しいものを指す。工夫や発案の要素が必要であり、単なる発見は含まれない。発見から格別の有用性を見出したものでなくてはならない。
要件2.新規性がある
特許は発明公開の代償として与えられる権利なので、新規性(新しさ)が求められる。
新規性がない発明は下記の通りだ。
・特許出願前に国内外において不特定多数の人に知られている発明
・特許出願前に国内外において不特定多数の人に実施されている発明
・特許出願前に国内外において配られた刊行物に記載された発明
・特許出願前に国内外において電気通信回線を通じて不特定多数の人が利用可能になった発明
すでに多くの人に知られて利用されているものに特許権を与えてしまうと、人々の社会生活に支障が出てしまうので認められない。
要件3.進歩性がある
新規性があっても、進歩性がなければ特許は与えられない。進歩性に関して特許法では、その分野に関わる人間でも容易に思いつけないものとしている。
業界の人間なら簡単に思いつくものに特許を付与してしまうと、科学技術の進歩や産業の発達を促進することにつながらない。
そればかりか、日常的な技術改良を思いつくたびに誰もが特許を出願するようになってしまう。そのため、進歩性のない発明に特許は与えられない。
進歩性が認められないケースは主に下記の通りだ。
・誰もが知っている、あるいはすでに実施されている発明を寄せ集めただけに過ぎない
・すでに存在する発明の一部を変えただけに過ぎない
ビジネスモデル特許の手続き
ビジネスモデル特許を取得するには、下記の手続きを踏む必要がある。
手続き1.特許の出願と審査
最初に特許を出願する。同時に特許庁に審査をしてもらうべく、出願審査請求を行う。
なお、出願審査請求は特許の出願から3年以内に行わなくてはならない。期間を過ぎると特許を取得できなくなる。出願審査請求が受け付けられると、特許庁で審査が行われる。
手続き2.特許料の納付
審査の結果、特許が認められれば特許査定が、認められなければ拒絶理由通知が送付される。
特許査定が届いても手続きは完了しない。特許料を納付して初めて特許として登録されるからだ。納付後、出願した発明に特許権が発生する。
ビジネスモデル特許の拒絶理由通知が届いたときは?
拒絶理由通知が届いたのなら、まず理由を読む。審査に通らなかった理由が書かれているからだ。
納得できない場合
納得できないのであれば意見書を、発明の一部を変更すれば認められそうなら手続補正書を提出する。
特許庁は書類を受理した後、再審査を行う。その後、2~3か月で結果が通知される。拒絶理由が解消されたのならば特許査定が届くが、そうでなければ拒絶理由通知か拒絶査定が送られてくる。
拒絶査定は特許を認めないという処分だが、審査官が判断を誤っている可能性も否定できない。
そのため、結果に不服があれば拒絶査定不服審判を請求できる。3名の審判官が審理し、判断の妥当性に関して是非を下す。
このような煩雑な手続きを知ると、ビジネスモデル特許の取得は難しく見えるかもしれない。しかし、今後のビジネスが有利に展開できる可能性もある。
誰にも真似できない発明を追求し、出願を検討してみるとよいだろう。
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)