ニューヨーク、ロンドン、東京にはもう住まない? コロナ禍で加速する「脱都会現象」
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

コロナ禍のニューヨーク、ロンドン、東京といった大都市で、人口が郊外や地方へと流出する「脱都会現象」が加速している。リモートワークの普及や、人口密度の高い都市部における感染拡大の懸念が主な理由だ。日本でも都会脱出を目指す企業が増加傾向にあるが、いずれ大都市は閑散としたアスファルトジャングルに成り果ててしまうのだろうか?

「生活の質の向上」を求め、大都市から脱出

一部の大都市で脱都会現象が見られるようになったのは、5~6年前からだ。都心部の住宅価格・生活費の高騰といった経済的な理由から、郊外や地方に生活の拠点を移す人が増えた。都心を少し離れるだけでも、都心より広くて手頃な価格の家に住み、生活費を低く抑えることができる。また、経済的・精神的にゆとりが生まれることで、生活の質も向上する。

たとえば、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の「世界で最も生活費の高い都市ランキング2020」で、世界7位・米国1位のニューヨー クは、長年にわたり、世界の中心地として人々を魅了して来た。ところがアメリカ合衆国国勢調査局のデータによると、人口は2015年の1,962万8,043人をピークに減少に転じた。パンデミックが始まった2020年には推定1,948万5,537人(前年の0.14%減)、2021年には推定1,946万132人(0.13%減)と減少が加速している。

東京でも過去8ヵ月連続で転出超過(市区町村または都道府県の転入と転出の差がマイナス)という、異例の現象が起こっている。総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京の転入超過数(市区町村または都道府県の転入者数から、転出者数を差し引いた数)は2015年の8万4,231人をピークに、翌年には74,324人に減少した。2020年の東京からの転出者数は40万1,805 人と前年から4.7%増加したが、転入者数は43万2,930人 と7.3%減少した。2021年1月は転出者が転入者を1,490人、2月には1,838人上回った。

コロナ禍で都市人口の減少・増加が加速

同様の現象は、他の大都市でも見られる。公式なデータは発表されていないものの、ロンドン、パリ、香港、シドニー、アムステルダムなどでも、コロナ禍で人口の減少、あるいは増加の鈍化が目立つ。ニューヨーク大学マロン都市管理研究所のシュロモ・エンジェル教授は、「過去70年間にわたり、大都市で人口が倍増する現象が数回見られたが、それほどの勢いで大都市の人口が増加することはもうないだろう」と見込んでいる。

パンデミックが長期化する中、感染拡大予防策として、多数の大都市では外出の自由が制限される状況が続いている。2021年3月25日現在、飲食店や娯楽施設等が臨時閉鎖されたままの国や地域も多い。行動規制が緩い国や地域でも、意識的に人混みを避ける人が少なくない。世界各地でワクチン接種が進んでいるものの、パンデミック以前の生活に戻るにはまだまだ時間を要するだろう。

「わざわざ高額な住宅費を払ってまで、巣籠りするために都会に住み続ける必要はない」と考える人が増えるのも不思議ではない。リモートワークが定着した現在、特にパンデミック以前から多少なりとも都会の生活に疲労や倦怠を感じていた人にとって、都会に住む必要性はなおさら低いだろう。

脱都会を実行した人々はどこへ?日本では「週末移住」にも注目

脱都会を実行した、あるいは計画中の人々の関心はどこへ向いているのか?これらの人々が求めているのは、都会では得ることが難しい、手頃な住宅価格やゆったりとした生活環境だ。完全にリモートワークに切り替えることができる人は自然の豊かな地方へ、定期的に出勤する必要がある人は都心へのアクセスが良い郊外へ移住する傾向が強い。

日本では、週末だけ違う土地で過ごす、「週末移住」も注目されている。住居や子育て、教育 、仕事(起業・事業・就職等)など、週末移住に関する支援制度を提供している自治体もある。

富裕層間による大都市への「インバウンド移住」

脱都会現象に加え、リモートワークへの移行から都心のオフィスを閉鎖・縮小する企業や、撤退する店舗が増えている。このような劇的な変化は、今後の都市・住宅開発計画に大きな影響を及ぼす可能性が高い。しかし、このまま脱都会現象がさらに加速し、大都会がさびれてしまうということはなさそうだ。一部の大都市では、すでに富裕層間による「インバウンド移住」の兆しが見える。

たとえば、ビリオネアに人気のマンハッタンも、2020年はコロナの影響で人口が郊外や州外に流出し、売買契約件数・価格が大幅に減少した。しかし、ワクチン接種の進展と共に急速に活気を取り戻し、1月以降は高級不動産の価格が再び高騰している。2月には住宅用不動産の売買契約件数が73%増加し、2019年のほぼ2倍に当たる1,110件を突破したことが、不動産市場調査企業ダグラス・エリマン・アンド・ミラー・サミュエルのデータから明らかになっている。また、米不動産仲介業者オルシャン・リアルティによると、とりわけ高級住宅の需要が高まっており、わずか1週間で400万ドル(約4億3,873万円)以上の物件の契約が27件成立したという。

パンデミックとコロナの二重の打撃を受けているロンドンでも、主に中国人投資家による高級住宅への関心が衰えていないことから、同様のトレンドが期待されている。ビューチャンプ・エステーツ(Beauchamp Estates)は2021年、ロンドン中心部高級住宅地にある1,000万ポンド(約15億1,250万円)以上の住宅は1~2%、その他の地域の高級住宅は最大15%需要が上昇すると見込こんでいる。

社会同様、不動産市場も二極化?

過去数年にわたり、都会の住宅価格や生活費の高騰から、「いずれ都会の生活は富裕層の特権になるかも知れない」などと言われて来た。時代の潮流は、コロナ禍で拡大する社会の二極化を反映しているのかも知れない。

一方、郊外や地方でも、不動産市場に変化が現れている。手頃な価格の住宅やゆとりのある暮らしを求める人々が郊外や地方に大量に流入すれば、必然的にその地域の住宅需要が高まり、価格が上昇する。安息を求めて移住した土地が、10年後、20年後には、大都会に変貌を遂げるという皮肉な現象が起こることも予想される。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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