最近は、インターネットを通じて誰でも簡単に中古品を売買することができるようになった。出品者は、自分が出した品物がいくらの値段で売れるのか、がもっぱら関心事の中心であることはいうまでもない。買い手と売り手で合意された値段は、そのアイテムの取引価格の時価となって、同じような商品を出品したり購入しようとしたりしている消費者の参考価格となっていく。
うまく売却することができた出品者から見ると、自分が購入した時のアイテムの価格から売却価格(※実際にはサイト運営会社の手数料が差し引かれるが簡略化のためここでは考慮しない)との差額が、実際の売買損益となる。この実際の売買損益を「実現損益」ということもある。では、今回取り扱う「評価損益」とはどのようなものだろうか?「評価損益」の会計・税務の取り扱いも含めてあわせて確認していきたい。
目次
評価損益とその利用方法
「評価損益」とは、保有している資産の時価と帳簿価額との差額のうち損益として把握するものをいう。先ほどのインターネットへの中古品出品における事例を考えてみたい。「評価損益」はあくまで、保有している資産が対象となるから、出品前に、そのアイテムや類似品が直近で、いくらぐらいの値段で売買されているかを参考に時価を把握し、その出品しようとしている商品を最初に購入した時の値段との差額が出品者にとっての「評価損益」となる。
中古品を出品したときの評価損益の具体例
数値を入れた事例のほうがわかりやすいと思うので、以下見ていこう。
キャンプ用のテントをインターネットのオークションサイトを利用して売却しようと考えていたとする。新品として買った時の値段は5万円であったが、同じ年代の同じテントが現在3万円で販売されているときに、出品者にとって、出品前のそのテントの「評価損益」はマイナス2万円(テントの時価:3万円-新品テントの購入価額5万円)となる。すなわち、今中古品の販売サイトに出品すれば、買った時の値段より2万円低い3万円で売却できるということだ。
評価損益に対する判断
評価損益をどのように判断するかは人それぞれだ。投資金額だけをみると、5万円を投資したのに3万円しか回収ができていないため、2万円の損失であるということになる。他方、このテントは4年間キャンプ等で利用してきたから、「評価損益」がマイナス2万円であるならば、年間5,000円の利用料で4年間楽しむことができたという見方もある。
結局のところ、「評価損益」をもとにどのように判断するかによってその後の行動が変わり、「評価損益」を実現損益にするかどうかを事前に判断することができるという利用方法があるといえる。
評価損益の会計処理は?
ここまでは個人にとっての「評価損益」をみてきたが、次に一般的な企業を前提としての「評価損益」を会計の視点から見てみたい。結論からいうと、「評価損益」が会計に反映されることはごく一部の項目に限られている。
評価損益に時価の概念が取り入れられた経緯
過去の歴史を少し紐解くと、会計上は資産を実際に売却した際に、取得価額に基づいて「実現損益」のみを計上することが原則である。しかし、約20年前に導入された「金融商品に係る会計基準」によって、株式などの有価証券を資産として保有している場合において、「時価」の概念を会計上一部取り入れることとなった。
資産として保有する株式や債券などは帳簿上「有価証券」などに分類されることになるが、「金融商品に係る会計基準」等により、さらに4つの区分に分類され、それぞれ評価を行うこととなった。
有価証券の区分4つ
具体的には次のような区分ごとにそれぞれ評価方法が変わるのである。
・1)売買目的有価証券
売買目的有価証券とは、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券である。すなわち、短期間の価格変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券がこれに該当する。
例えば、同一銘柄に対して相当程度の反復的な購入と売却が行われる、いわゆるトレーディング目的の有価証券だ。売買目的有価証券に区分されると、貸借対照表に計上される価額は時価となり、取得時の価額との差額である、評価損益はその事業年度の損益として処理することになる。
・2)満期保有目的の債券
満期保有目的の債券とは、満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券である。企業が償還期限まで所有するという明確な意思等に基づいて保有することが求められるため、保有期間が漠然としているなど、保有期間をあらかじめ決めていない場合等には、満期まで所有する意思があるとは認めらない。ただし、満期まで所有するかどうかの意図は取得時点において判断されるため、他の保有目的で取得した債券を、その後、満期保有目的の債券に振り替えることは認められないことに注意が必要だ。
満期保有目的の債券は、取得原価に基づいて貸借対照表に計上されるが、債券を金利の調整により債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合には、償却原価法に基づいて算定された価額で貸借対照表に計上されることとなる。
・3)子会社および関連会社株式
子会社株式および関連会社株式とは、企業の子会社や関連会社の株式のことをいい、子会社株式および関連会社株式は、取得原価により貸借対照表に計上される。
・4)その他有価証券
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式および関連会社株式以外の有価証券をいう。その他有価証券に区分されると、時価により貸借対照表に計上されることとなり、取得価額との差額は次のいずれかの方法により処理されることとなる。
全部純資産直入法:評価差額の合計額を純資産の部に計上する方法
部分純資産直入法:プラスの評価差益は純資産の部に計上し、マイナスの評価差損は当期の損失として処理する方法
このように、株式等の有価証券は、定められた4つの区分に従って処理される。このうち「売買有価証券」に分類された有価証券については、「評価損益」を会計上の損益として計上されるが、その他有価証券については、評価損益を純資産等に計上することになる。
有価証券以外の資産の評価損益に関する会計処理
有価証券以外の資産についても、棚卸資産などでは評価損を計上してきたが、それは製品評価減などもっぱら含み損がある場合のみで、含み益がある場合には帳簿価額で据え置くという会計処理がなされていた。そのため、企業は、含み損益を有している有価証券などの資産を、企業の都合で売買することにより、含み損益を実現損益に変える、いわゆる利益コントロールが可能だった。しかし、この「金融商品に係る会計基準」が適用されたことにより、企業が保有する上場株式等を中心に、会社都合の利益コントロールに一定程度の制限がかかったといえよう。
また、不動産などの固定資産についても取得価額と時価との差額が生じやすいといえるが、「評価損益」を会計に反映させないのが原則だ。ただし、例外的に減損の対象となった場合には時価相当に評価替えを行い、その差額を減損損失として計上することがある。
評価損益と税務の関係は?税務上に認められているケース2つ
税務上は売買目的有価証券の「評価損益」を除き、原則として「評価損益」の計上は認められていない。他方、税務上でも例外的に認められている「評価損益」については、以下のように整理することができる。
(1)法的整理等の事実があるケース
・会社更生法に従って行う資産の評価換えにより生じた「評価損益」
・民事再生等に基づく資産等の「評価損益」
再生計画認可の決定等による所定の資産評定により生じた「評価損益」
(2)災害による著しい損傷等があるケース
物損等の事実があった場合に生じた以下の資産については、「評価損(注)」の計上が認められている。
(注:性質上、評価損のみに限られている)
・棚卸資産に関する「評価損」のうち所定の要件を満たしたもの
ⅰ.災害により著しく損傷したことにより計上される評価損
ⅱ.著しく陳腐化したことにより計上される評価損
ただしこれは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる場合に限られる。例えば、季節商品等で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかである棚卸資産等だ。
・有価証券に関する「評価損」のうち所定の要件を満たしたもの
企業が所有する有価証券について、次のような場合には、原則として、帳簿価額と時価との差額について評価損の計上が認められる。
ⅰ.上場有価証券等について、その価額が著しく低下したことにより、その価額が帳簿価額を下回ることとなったことに伴い計上される評価損
ⅱ.上記以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したことにより、その価額が帳簿価額を下回ることとなったことに伴い計上される評価損
・固定資産に関する「評価損」のうち所定の要件を満たしたもの
これは、企業の有する固定資産がやむを得ない事情により、その取得の時から1年以上事業の用に供されなかったため、当該固定資産の価額が低下したと認められる場合に計上される評価損だ。
・繰延資産に関する「評価損」のうち所定の要件を満たしたもの
これは、繰延資産のうち他の者の有する固定資産を利用するために支出したものについては、その支出対象となった固定資産について災害、1年以上にわたる遊休、用途変更または立地条件の変化が生じたこと等により計上される評価損である。
評価損益の会計上、税務上の取り扱いは企業経営にとって重要
実際の売買損益である実現損益に着目しがちであるが、まだ手許にある資産に対して、時価評価などを行うことで生じる「評価損益」は、将来の投資行動をシミュレーションするうえでも重要であるから、ぜひとも有効に活用したいところである。
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)