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(画像=PIXTA)

企業の生産方式は、収益や経営リスクに直結する要素になる。自社に最適な生産方式を選べばさまざまなモノ・人を有効活用できるため、生産方式は慎重に検討することが重要だ。そこで今回は、世界的に注目される「トヨタ生産方式」の概要やポイントをまとめた。

目次

  1. 徹底的にムダを省く「トヨタ生産方式」とは?まずは基本的な概念をチェック
    1. トヨタ生産方式と一般的な生産方式の違い
  2. トヨタ生産方式の2本の柱と4つの仕組み
    1. トヨタ生産方式の柱2本──「自働化」と「ジャストインタイム」
    2. トヨタ生産方式の仕組み4つ──排除すべきムダ7つ
  3. トヨタ生産方式を導入するメリット3つ
    1. 1.生産ラインのコストや手間を削減できる
    2. 2.トラブルに対応しやすくなる
    3. 3.社会的な評価が高まる
  4. トヨタ生産方式は万能ではない!注意点とデメリット
  5. トヨタ生産方式の導入前に意識しておきたいポイント
  6. 安易な判断は危険!トヨタ生産方式の導入前には綿密な計画を

徹底的にムダを省く「トヨタ生産方式」とは?まずは基本的な概念をチェック

トヨタ生産方式とは、大手自動車メーカーのトヨタ自動車で考案された生産方式である。

いまやトヨタ自動車は世界的な企業として知られており、徹底的にムダを省いた独特の生産方式は日本のみならず海外でも参考にされている。また、トヨタ自動車の考え方は幅広いビジネスシーンに役立つため、トヨタ生産方式を理解すれば中小企業でもさまざまなムダを省けるはずだ。

そんなトヨタ生産方式は、もともとは「作業の自動化」を目指して考案された。現代では機械や設備の導入によりさまざまな作業を自動化できるが、機材の導入やメンテナンスには一定のコストや時間がかかる。このコストや時間を抑えるには、人間が手作業で生産ラインを作りこみ、細かい部分を日々改善しなければならない。

つまり、トヨタ生産方式は「手作業を通じたモノづくり」が原理原則となっており、トヨタ自動車はこの概念をもとに工夫をとり入れることで、新技術や新工法を次々に生み出してきた。

トヨタ生産方式と一般的な生産方式の違い

トヨタ生産方式の最大の特徴は、顧客にとって価値のない業務を「ムダ」と位置づけ、徹底的に改善する仕組みが整えられている点だ。では、一般的な生産方式とどのように異なるのか、以下で工程の一例を紹介しよう。

トヨタ生産方式の一例一般的な生産方式の一例
1.顧客の要望に基づき、生産計画を立てる1.需要予測に基づき、生産計画を立てる
2.各工程を見える化し、ムダを排除する2.各工程で、大ロットで生産を進める
3.必要な分を必要なタイミングで製造する3.安全在庫を貯める
4.顧客に求められている分のみ供給する4.在庫を管理しながら、需要変化に対応する

トヨタ生産方式は「顧客の要望」をベースに生産計画を立てるため、一般的な生産方式とは製品の製造量が異なる。つまり、顧客のニーズに沿ったモノのみを製造する方式なので、生産コストや廃棄コストはもちろんのこと、在庫管理にかかる手間やコストも大きく抑えられる。

トヨタ生産方式の2本の柱と4つの仕組み

トヨタ生産方式への理解を深めるには、「2本の柱」と「4つの仕組み」についても押さえておく必要がある。これらの考え方を把握すると、「具体的にどんな工程をとり入れるべきか?」や「どのようなムダを排除すべきか?」が分かりやすくなるはずだ。

自社の生産ラインをイメージしながら、以下でトヨタ生産方式の考え方をチェックしていこう。

トヨタ生産方式の柱2本──「自働化」と「ジャストインタイム」

トヨタ生産方式には、「自働化」と「ジャストインタイム」の2本の柱がある。

○トヨタ生産方式の柱2本

1.自働化生産ラインにトラブルや異常が生じたときに、その内容をライン管理者に通知し、生産を止めた上で改善に取り組むこと。一般的な自動化とは、生産ラインの異常を自動で検知・停止する点が異なる。
2.ジャストインタイム「必要なものを必要な分だけ」生産・供給する考え方のこと。生産のムダを省くことで、コスト削減だけではなく品質の安定も実現できる。

トヨタ生産方式における生産ラインでは、異常時の原因究明や改善の際に人の手が加えられる。そのため、自働化には「動」にニンベンを足した「働」という字が用いられており、実際にトヨタ自動車では多くのライン担当者が人の手で機械をメンテナンスしている。

また、もうひとつの柱であるジャストインタイムには、以下の5つの基本原則がある。

【1】工程の流れ化
【2】小ロット生産化
【3】タクトタイム(※1日の定時稼働時間を、生産必要数で割った指標のこと)
【4】少人化
【5】後工程引取り

上記の基本原則を実現するために、トヨタ自動車では「かんばん方式」と呼ばれる仕組みが採用されている。これは、必要な部品の数量や納入時間を作業指示書に表記し、各生産ラインに共有する生産方式のことだ。具体的には、後工程を担当する者が前工程の作業指示書(仕掛けかんばん)を外すと、後工程の作業指示書(引取りかんばん)が表示される仕組みにすることで、「後工程引取り」の原則を実現している。

トヨタ生産方式の仕組み4つ──排除すべきムダ7つ

次は、トヨタ生産方式の4つの仕組みをチェックしていこう。

○トヨタ生産方式の仕組み4つ

1.カイゼン製品の品質やスピードを上げるために、現状の生産体制に満足することなく、常に現場の作業効率を向上させること。単に欠点を見直すだけではなく、安全性などさまざまな面を見直す必要があるため、トヨタ自動車では漢字ではなくカタカナで表記して「改善」と区別している。
2.見える化トラブルや異常が生じた場合に、その内容や原因を従業員全体で共有すること。抱えている問題を広い範囲に共有しておけば、早期発見や再発防止につなげられる。
3.なぜなぜ分析ある問題に対して、「なぜ?」と質問を5回繰り返すこと。ひとつの問題を深く掘り下げることで、根本的な原因を発見しやすくなる。
4.ムダ取り生産ラインにおけるムダを徹底的に排除すること。

上記のなかでも、「ムダ取り」は全体の生産ラインを意識する必要がある。生産ラインの効率を最大化するには、細かい部分までムダを徹底的に排除する必要があるため、なかには「どこから手をつけるべきか分からない…」と悩む経営者もいるだろう。

このような悩みを抱えたときには、排除すべきムダを以下の7つに分ける方法がおすすめだ。

・加工のムダ
・在庫のムダ
・つくりすぎのムダ
・手持ちのムダ
・運搬のムダ
・動作のムダ
・不良や手直しのムダ

上記のようにムダを種類に分けて明確にしておくと、生産ラインの改善すべきポイントを見極めやすくなる。

トヨタ生産方式を導入するメリット3つ

トヨタ生産方式をうまく活用するには、導入後のメリットを正しく把握しておくことも重要だ。導入後のメリットを把握しておくと、そのメリットを踏まえて今後の経営計画を立てられるようになる。

では、具体的にどのようなメリットが発生するのか、以下で詳しく解説をしていこう。

1.生産ラインのコストや手間を削減できる

トヨタ生産方式を導入すると前述の7つのムダを削減できるため、さまざまな手間やコストを削減できる。特にコストに関しては、人件費や在庫管理費、メンテナンス費など、あらゆる生産コストの削減につなげられる。

また、多くの企業が悩まされがちな「在庫リスク」を抑えられる点も、トヨタ生産方式ならではのメリットだろう。

2.トラブルに対応しやすくなる

トヨタ生産方式の自働化を実現すれば、生産ラインの異常をすぐに察知できるようになるため、トラブルを迅速に発見・解消できる。また、製造した部品に問題が見つかった場合に、余計な発注をストップできる点も大きなメリットになる。

さらに、生産ラインを繰り返し改善すれば、最終的に顧客に渡る製品の品質も向上するため、完成品のトラブルも抑えられるはずだ。

3.社会的な評価が高まる

トヨタ生産方式の導入に成功すると、顧客のニーズにしっかりと応えられるようになるため、会社の社会的な評価が高まる。その結果、これまでよりも売上が伸びたり、資金調達が容易になったりなど、さまざまな面に細かいメリットが生じてくる。

トヨタ生産方式は万能ではない!注意点とデメリット

ここまで解説してきたトヨタ生産方式は、実は万能な生産方式ではない。例えば、ジャストインタイムの考え方を実現するには、「平準化生産」と「安定した受注」の2つが前提となるため、製品の種類や需要によってはそもそも実現が難しいケースもある。

また、生産ラインを小ロット化すると、必然的に原材料の仕入れ量が減少する。つまり、大量発注によるコストダウンが難しくなるので、基本的には部品単価が上がってしまうだろう。

そのほか、ある部品が在庫欠品の状態になると、生産ライン全体がストップする点も注意しておきたいポイントだ。どんなに気をつけていてもトラブルは必ず発生するため、トラブルを前提とした対策を練っておく必要がある。

トヨタ生産方式のメリットトヨタ生産方式のデメリット
・生産ラインのコストや手間を削減できる
・トラブルに対応しやすくなる
・社会的な評価が高まる
・「平準化生産」と「安定した受注」が前提
・部品単価が上がる
・在庫欠品に細心の注意を払う必要がある

上記のメリット・デメリットを見ると、トヨタ生産方式は万能ではないことが分かるはずだ。例えば、さまざまな種類の製品を作っている企業は、作業を平準化させるだけで大きなコストが発生する恐れがある。

上記のデメリットが致命的なリスクにつながる場合は、視野を広げて別の生産方式も検討しよう。

トヨタ生産方式の導入前に意識しておきたいポイント

トヨタ生産方式の導入前には、やはり「本当に導入すべきか?」について慎重に検討したい。優れた生産方式であることから、現代では多くの企業がトヨタ生産方式を採用しているが、失敗例が少なくないことも事実だ。

なかでも以下に該当する企業は、一般的な生産方式のほうが適している可能性がある。

・製品の大量生産によって需要を獲得している
・バリエーションが豊富な製品もしくは部品を作っている
・価格の安さで他社と勝負している

また、既存事業をトヨタ生産方式に変える場合は、生産体制を大幅に変更するリスクも意識しておきたい。当然のことながら、生産ラインの変更には多くの手間やコストがかかり、場合によっては現場スタッフから反発される恐れもある。

生産ラインの変更には「周囲からの理解」が必須となるため、経営者が独断で施策を進めないように注意しておこう。

安易な判断は危険!トヨタ生産方式の導入前には綿密な計画を

コスト削減や業務効率化を目指す企業にとって、トヨタ生産方式は魅力的な生産方式だ。しかし、トヨタ生産方式にもデメリットやリスクが潜んでいるため、安易に既存事業の生産方式を変更すべきではない。

また、トヨタ生産方式にもさまざまな形があるので、導入前には綿密な計画を立てておく必要がある。実際の事例にも目を通しながら、少しずつ導入のイメージを固めていこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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