「打ち負ける相手は他社ではない」新社長が語るこれからのSOMPOー奥村幹夫
奥村幹夫 SOMPOホールディングス グループCOO社長 (画像=経済界)

人口減や自然災害の多発で苦戦を強いられる保険業界。業界大手のSOMPOグループは、介護分野に事業領域を広げ、他の保険会社とは異なる戦略を展開してきた。今年4月、社長に就任したのが介護や海外保険、デジタル事業など新たな成長分野をけん引してきた奥村幹夫氏。奥村氏に、今後の戦略を聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2022年6月号より)

奥村幹夫 SOMPOホールディングス グループCOO社長
おくむら・みきお 1965年埼玉県出身。89年、筑波大体育専門学群卒業。同年、安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)入社。2016年SOMPOケア社長。20年SOMPOインターナショナルホールディングスCEO。21年SOMPOホールディングス専務。22年4月1日、社長COO就任。

安田火災への入社はブラジル留学がきっかけ

―― 筑波大学では蹴球部に所属し、日本トップクラスの実力だったそうですね。

奥村 自分ではなかなか言えませんが、本気で取り組んだのは間違いないですね。学生サッカーの人気が高かった埼玉県で少年時代を過ごしたこともあってか、小学生から大学生までサッカー漬けの毎日を過ごしました。交流協会生としてブラジルにサッカー留学をした経験もあります。

 ケガがありサッカーの道は断念することになりましたが、その経験は安田火災に入社を決めた遠因にもなっています。ブラジルには150万人以上の日系人がいました。日本から遠く離れた国に、海外では最大規模の日系コミュニティがあることに大変興味を持ち、同時にたくさんのご苦労のお話を聞く中で、いつか自分が日本とブラジルの懸け橋になりたいと考えるようになっていました。

 それから縁があり、当時の富士銀行さんや安田火災でブラジルから人が来る時に通訳のお手伝いをしていました。ある時、安田火災の課長から、「それならうちにおいで」と声を掛けられたんです。安田火災はブラジルで事業を展開しており、海外事業の最初の拠点もブラジルにありました。「ブラジルで仕事をするチャンスがある。ご恩返しができる」。入社は即決でした(笑)。

―― 2021年度から23年度までの中期経営計画が進行中です。

奥村 期間中の社長交代ですが、経営戦略に大きな変更はありません。私自身、中期経営計画の策定には深く関わってきましたし、櫻田謙悟会長CEOや各事業会社のオーナーたちとは長年一緒にやってきた関係です。ですから、経営環境に対する認識や基本的な経営戦略については何度も議論を重ねてきており、しっかりと腹落ちしています。

 私自身はグループの役員になって8年目を迎えます。16年には介護事業の子会社であるSOMPOケアで社長を経験し、19年からはSOMPOインターナショナルホールディングスの取締役として海外事業の経験も積みました。また、同じく19年からグループCSOとして全体の戦略策定にも携わってきました。まさにSOMPOグループが介護事業や海外事業へ多角化を目指したのと軌を一にするように、個人としてもキャリアの経験値を積み上げてきました。私の社長COO就任は、これまでの方針をより加速させていくというSOMPOグループのメッセージです。

 保険は祖業であり、主業である。これは間違いありません。しかし、これまで以上にお客さまのニーズの変化に応えていくためには、保険にとらわれないサービスをしなやかに開発していく必要があります。あるいは、日本のマーケットに軸を持ちながらもより成長性の高い海外の市場に積極的に出ていくことも欠かせない。ここをしっかりと担うのが私の使命だと受け止めています。

変化と不変を組み合わせ逆境を跳ね返す

―― 世界的に課題山積の中での社長就任です。

奥村 思い返せば近年は毎年のように「今年は激動の年だ」と言っている気がします。VUCAの時代という言葉があるように、実際に短期的には毎年のようにさまざまなことが起こり、どちらかというと経営環境には逆風が多い気がします。ウクライナ問題ひとつとっても、地政学上の潜在的なリスクは認識しておりましたが、22年2月のあのタイミングでロシアが侵攻するということまでは予想できませんでした。いざリスクが現実のものとなれば、エネルギーや穀物の需給、金融の問題など、いろんなことが連鎖していきます。

 こうした事業計画の前提を揺るがすような大きな変動に直面した時に、それでも一度決めたからには絶対に変化はしないという態度は、それも無責任です。変える部分と変えない部分を見極め、臨機応変さを持って業務を執行していく必要がある。SOMPOグループのパーパスである「〝安心・安全・健康のテーマパーク〟により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」。これはわれわれのブレない方針です。幹として不変の部分と、外部環境等々にアジャストし修正していく部分。常に組み合わせながら逆境を打ち返し成長していきます。

―― 経営上のリスクは何ですか。

奥村 時間軸の取り方によって変わってきますが、長期的に考えた場合には、やはり人口動態の変化と気候変動が大きなインパクトがあると認識しています。

 人口動態の変化とは、日本で言えば人口減少です。それは今この瞬間にも絶えず進んでいることで、今日や明日で大きく状況が変わるような短期的なトレンドではありません。このまま人口減少が進めば、極端に言ってしまえばそれだけ保険のニーズも減少する。まさにマーケットの変化に直結するテーマですので、注視していく必要があります。

 もう一つ大きなインパクトだととらえているのは気候変動です。こちらも今日起こしたアクションによって、明日には温暖化を解消したり自然災害の激甚化や頻発化を避けられたりすることはあり得ません。長期的な流れの中だからこそ、われわれは自然災害に対する保険の提供、そして継続的かつ安定的なキャパシティの提供を通じて、「安心・安全・健康」な社会を実現していく必要があると考えています。

 これらの大きな課題に向き合うために、より強固でレジリエントな企業体質に磨きをかけ、かつ規模を拡大させリスクを分散させるようにこれまで取り組んできました。少子高齢化について、日本は世界のフロントランナーであり、多くの先進国や先進都市ではこれから数十年かけて同じような状況を経験することになります。従ってわれわれが少子高齢化に対応するソリューションを提供できれば、それは未来のグローバル社会が直面する潜在的な課題の解決にも貢献できるということです。これは気候変動への対応についても同じことが言えます。そういった意識で、今後も向き合っていきます。

「点」ではなく「線」で顧客に伴走する組織へ

「打ち負ける相手は他社ではない」新社長が語るこれからのSOMPOー奥村幹夫
奥村幹夫 SOMPOホールディングス (画像=経済界)

―― SOMPOグループは介護事業やカーシェア事業など、従来の保険業に限らない展開が特徴的です。

奥村 すべてはお客さまのニーズに寄り添うためです。中期経営計画でもRDP(リアルデータプラットフォーム)という取り組みに注力していますが、狙いは同じです。

 RDPというのは、われわれの既存事業を通じて取得するリアルデータと、外部のパートナーが持つテクノロジーやデータを組み合わせ、幅広い領域の課題解決に向けたソリューションを提供していく試みです。

 分かりやすい例としてはドライブレコーダーです。グループ会社の損保ジャパンでは「つながるドラレコDriving!」という、ALSOKさんとつながっているドライブレコーダーを提供しています。これにより、ただ録画するだけでなく、平常時の見守りや事故現場へのかけつけ対応など、事故の未然防止から解決までトータルでのサポートが可能になりました。他にも損害保険では、われわれが保険事業で培った事故データと外部の気象データなどを組み合わせることで、自然災害由来の事故を予防するようなサービスを提供できるかもしれない。あるいは、介護事業を通して蓄積している食事内容や24時間のバイタルデータなど各種データを組み合わせることによって、未来の体調変化を予想するようなサービスも実現可能です。

 私が入社した頃、保険事業は受け身の存在でした。事故が起こり、電話やファクスで事故受付をし、そこで初めて保険金のお支払いができる。「安心・安全・健康」を提供するとは言いながら、この在り方はもっと改善できないかと思ってきました。それがさまざまなツールの発展により能動的な取り組みを実現できるようになりつつあります。

―― RDPを通して、中長期的に5千億円以上の売り上げを目指すと掲げています。20年度が約2千億円だったことを考えると、かなり大きな目標です。RDPが進んだ先のSOMPOの姿はどうなりますか。 奥村 これまで「点」で存在していたお客さまとの接点が、その点の前後でもお役立ちできるサービスを充実させることで、やがて「線」としてライフスタイルに伴走できるようになる。こんなイメージです。

 先ほど申し上げたように、防災や予防などわれわれが従来持っていた接点の前後のサービスをどんどん生み出すことができれば、現在SOMPOグループは損害保険事業、生命保険事業、介護事業と分けていますが、それらがお客さまのニーズを起点に相互に連携し、OneSOMPOとして包括的なサービスが提供できます。お客さまとつながる、事業同士がつながる、お客さまの人生がつながる。RDPはこれまで以上の課題解決を実現する取り組みです。

 「われわれは事業の中で得られるデータを活用し切れていない部分があるのではないか。デジタル技術が社会の姿を大きく変える状況において、従来型の組織や価値観にこだわっていては大きくビハインドしてしまうのではないか」。そうした思いからRDPには大きく力を注いでいます。企業文化の変化やデジタル技術の活用は、待ったなしでやっていかないといけません。

―― 挑むべき課題は大きいです。挑戦できる組織は整っていますか。

奥村 私は社会のニーズ、お客さまのニーズに応えられない会社は必ず淘汰されると思っています。これだけ大きく移り変わる世の中ですから、われわれが求められる要素も刻々と変わる。そこに対応していく変化のスピードに、組織のケイパビリティや企業文化が追いついていけるのか、それが問われているのだと思います。

 もしわれわれが打ち負ける時が来るのだとすれば、それは他社に対してではありません。お客さまのニーズの変化に応えられなくなる。これこそが負けなのだと思います。ですから、究極的な競争相手は自分たちということです。

 SOMPOグループは祖業が保険事業です。保険会社が求められるものは、安定や信用。そうした特色は、130年以上の歴史を通じて企業文化や人材の気質にも浸透していると思います。ただ、もしかするとこうした特徴は変化やチャレンジには弱点になるかもしれない。簡単ではありませんが、お客さまに安心をお届けする安定感と同時に、変化するニーズに応えていくスピード感も求めていく必要があるだろうと思います。

 そのためにもDXやD&I(ダイバーシティインクルージョン)を推進し、多様化する価値観に素早く対応できる組織を作り上げることは経営の必要条件になってきているんだと認識しています。

コーポレート部門の生産性向上に挑戦する

―― 何が何でもこれだけはやり切るという仕事は。

奥村 いくつもありますがあえて2つあげます。1つはこれまでお話したように、OneSOMPOとしてお客さまのニーズに応えていく取り組みを加速させていきたい。

 もう1つは、自分自身に対するチャレンジです。コーポレート部門の生産性向上に妥協することなくチャレンジしたい。会社全体として生産性を向上させていくのはもちろんですが、日本企業は特にコーポレート部門の生産性をもっと向上させられる。コロナをきっかけに新しい働き方が一気に浸透したと思います。新しい働き方というのは新しいマネジメントスタイルと同義です。せっかくDXやリモートワークを押し進めても、意思決定のプロセスや会議の在り方まで含めて見直さなければ、結局やっていることは昭和と変わらない。外資系投資銀行で働いた経験や海外事業のマネジメントを通じて、日本企業はまだまだ事業効率を向上できると痛感しました。この2つは必ず遂行したいと思います。

―― 自信のほどはいかがですか。

奥村 私はワーストケースを想定しながら、それが想定できたら楽観的に思い切ってどんと行く。どちらかというと臆病で慎重な気質です。ただ、自分に課された使命については、どういう状況であっても必ずやり抜く覚悟でチャレンジします。

 と言っても、何か今から自分がガラッと変わるということは非現実的です。今振り返れば1989年に入社してから常に多くの仲間に支えられ、そして一緒に物事を成し遂げてきました。その中で心掛けてきた、苦しい時に逃げないこと、率先垂範のリーダーシップで取り組むこと、こうしたスタイルは今後も続けていきたいと思っています。働くメンバーのモチベーションをあげ、チームとしてその力を最大化していく。OneSOMPOで邁進していきます。