SDGs,中小企業,メリット
(写真=PIXTA)

近年、世界中で注目度が上昇している「SDGs」。SDGsは現代社会に変革をもたらす概念であり、今後の企業価値に大きな影響を及ぼす可能性がある。経営者はSDGsが本格的に浸透する前に、概要を理解したうえで万全の準備を整えておくことが重要だ。

SDGsとは?

SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、2015年9月に開催の「持続可能な開発サミット」において採択された、2030年までに地球規模で取り組むべき国際的な目標のこと。SDGsは各単語の頭文字から構成された造語であり、将来的にはビジネスや投資の軸になる可能性を秘めている。

・Sustainable…持続可能な
・Development…開発
・Goals…目標
(※SDGsの最後の「s」は、Goalsの末尾からとっている)

詳しい背景や目的は後述するが、SDGsとは簡単に言い換えれば「世界のあるべき姿」を言葉にしたものだ。理想の姿に近づくための目標が設定されており、国連に加盟した国々が積極的に取り組むことで、社会をより良い形にしていくことを目指している。
仮に株主や投資家にこの考え方が浸透すれば、SDGsの観点から投資する企業が選ばれるかもしれない。さらに、消費者からもSDGsの考え方が重視されるようになり、商品・サービスを選ぶひとつの基準となる可能性も考えられるだろう。
「自分にとってはスケールが大きすぎる」と感じるかもしれないが、SDGsは中小経営者にとっても決して他人事ではない。

SDGsの基本的な考え方と「5つのP」

SDGsにおいて取り組みの対象とされているものは、以下の5つに分けられる。

SDGsの対象となるもの 概要
・Planet(星) ・責任をもって消費と生産をすること
・天然資源を持続可能にしていくこと
・気候変動から地球を守ること など
・People(人間) ・すべての人の人権が平等で気高く、大事にされること
・貧困と飢餓をなくすこと
・性の平等を達成すること
・すべての人に健康的な生活を保障すること など
・Prosperity(豊かさ) ・すべての人が豊かで充実した生活を送れること
・自然と調和する経済や社会、技術の進展を確保すること
・Peace(平和) ・かたよりがなく、恐怖と暴力のない正しい世界を目指すこと
・全ての人が受け入れられて、参加できる世界を目指すこと など
・Partnership(協力) ・グローバルなパートナーシップによって、理想的な社会の実現を目指すこと など

上記は全て頭文字が「P」であることから、「5つのP」とも呼ばれている。中でも注目しておきたいポイントは、自然環境や経済も強く意識されている点だ。

SDGsでは「持続可能な社会」の実現を目指しているため、人間の生活や権利以外の部分にも目が向けられている。

SDGsが重視されたきっかけと目的

もともとSDGsに似た概念が登場したのは、1970年代のこと。それまでは世界各国が経済成長に注力していたが、ローマクラブが「成長の限界」と呼ばれる報告書を公表したことをきっかけに、環境問題・社会問題にも徐々に目が向けられるようになった。

その後は以下の年表の通り、環境問題・社会問題の解決に向けてさまざまな取り組みが行われている。

時期 出来事
1972年 スウェーデンのストックホルムで、「国連人間環境会議」が開催される。
「かけがえのない地球(Only One Earth)」をスローガンとし、環境問題に対して国際的に取り組むための「人間環境宣言」を採択。
1972年 国際協調の基盤として、国連が「国連環境計画(UNEP)」を創設。
1980年 「世界自然資源保全戦略(World Conservation Strategy)」が発表されたことをきっかけに、「持続可能性」という概念が浸透し始める。
1987年 報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」が発表され、「持続可能な開発」の概念が初めて打ち出される。
1992年 ブラジルのリオデジャネイロで地球サミットが開催され、「Sustainability(持続可能性)」の概念が重視され始める。
2000年 ここまでの流れを受けて、国連が国際開発目標を統合した「MDGs(Millennium Development Goals)」を発表。

上の年表の最後に登場した「MDGs」も、SDGsに似た概念を持つ目標だ。しかし、MDGsは持続可能な社会の実現に向けて一定の成果を残したものの、環境問題・社会問題を大きく解決するまでには至らなかった。

そこで新たな国際開発目標として掲げられたものが、今回解説している「SDGs」である。SDGsにおいても持続可能な社会を目指すことに変わりはないが、MDGsと決定的に異なるポイントは理念として「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」を掲げている点。

つまり、世界中のあらゆる国やあらゆる地域に関して、持続可能な社会を実現させることが最終的なゴールと言える。

SDGsの17の目標

SDGsでは持続可能な社会を実現するために、2030年までに達成するべき「17の目標」が設定されている。まずは、具体的にどのような目標があるのかについて以下で簡単に見ていこう。

SDGsの17の目標 概要
1.貧困をなくそう あらゆる場所の、あらゆる形態の貧困をなくす
2.飢餓をゼロに 飢餓を終わらせ、食料の安定確保や栄養状態の改善を目指し、さらに持続可能な農業を促進する
3.全ての人に健康と福祉を あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
4.質の高い教育をみんなに すべての人に一定の範囲を網羅した質の高い教育を確保し、生涯学習を促進する
5.ジェンダー平等を実現しよう ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
6.安全な水とトイレを世界中に すべての人に安全な水源と衛生的な施設、持続可能な管理を確保する
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに 安価で信頼できる持続可能な近代的エネルギーを、すべての人に確保する
8.働きがいも 経済成長も すべての人のための持続的・包摂的かつ持続可能な経済成長、そして生産的な完全雇用やディーセント・ワークを促進する
9.産業と技術革新の基盤をつくろう 強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化と技術革新を促進する
10.人や国の不平等をなくそう 国内および国家間の格差を是正する
11.住み続けられるまちづくりを 安全かつ強靭で、持続可能な都市・居住地を実現する
12.つくる責任 つかう責任 持続可能な生産と消費のパターン(生産消費形態)を確保する
13.気候変動に具体的な対策を 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急の対策を取る
14.海の豊かさを守ろう 海洋と海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
15.陸の豊かさも守ろう 陸上生態系の保護や回復、持続可能な利用を推進し、さらに砂漠化や土地の劣化に対処することで生物の多様性を守る
16.平和と公正をすべての人に 持続可能な開発に向けて平和な社会を促進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある制度を構築する
17.パートナーシップで目標を達成しよう 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

1~6の目標は、主に開発途上国に関する目標だ。MDGsの諸問題を引き継ぐ形で設定された目標であり、世界規模で取り組むべき深刻な問題として受け止められている。

また、7以降の目標については、先進国にも関連性が高いものが並んでいる。つまり、SDGsで設定されている目標はどのような国にとっても決して他人事とは言えない。

では、特にチェックしておきたいものや解釈がやや難しいものについて、以下でもう少し詳しく見てみよう。

1.貧困をなくそう

SDGsの中でも「貧困」は大きなテーマであり、その後の2~17の目標とも大きく関わってくるポイントだ。貧困は当人の生活の質を下げるだけではなく、強盗や強奪などの治安の悪化にもつながってしまう。

ちなみに世界中の極度な貧困をなくすには、年間で19兆円の資金が必要になると言われている。

5.ジェンダー平等を実現しよう

この目標において掲げられている「エンパワーメント」とは、不利な状況に置かれている立場を変えることを意味する。日本国内でも男女雇用機会均等法が実施されるなど、ジェンダーの平等は各国が長年取り組んできている課題だ。

経営者の立場からは男女分け隔てなく採用活動を行うなど、社会的に男女を平等に扱うことがジェンダー平等へとつながっていくだろう。

8.働きがいも 経済成長も

この目標で目指すべき「ディーセント・ワーク」とは、働きがいのある仕事のこと。具体的には公正な評価を受けられる仕事や、社会保障などによって安心できる職場などを指している。

また、上記の「ジェンダー平等を実現しよう」に関連して、男女ともに公正な社会を目指していることも重要なポイントだ。

16.平和と公正をすべての人に

この目標で掲げられているのは、「平和・正義・公正な制度」をあらゆる地域で構築すること。貧困やジェンダー平等にもつながる目標であり、平和・公正はSDGsの基盤とも言える重要な概念だ。

世界的に安全と言われている日本においても、イジメや虐待の被害者が自ら被害を訴えにくいなど、平和と公正を実現できていないシーンは確実に存在している。当然とも言える常識的な目標ではあるが、先進国でも十分には達成できていない実情があるため、今一度深く考えておきたい目標だろう。

SDGsの169のターゲット

SDGsでは17の目標を達成するために、さらに細かい169のターゲットが設定されている。169のターゲットは上記の目標をより具体的にしたものであり、各目標に付随する形で設定されている点が特徴だ。

では、ひとつ目の目標である「貧困をなくそう」に関して、具体的にどのようなターゲットが設定されているのかを見てみよう。

○「貧困をなくそう」に付随するターゲットの例
・2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
・2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。
・各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。

上記のように169のターゲットでは、具体的な数値目標や達成目標が設定されている。ここで全てを紹介することはできないが、各目標のターゲットを細かくチェックすることで、最終的に目指すべきゴールをイメージしやすくなるだろう。

ちなみに169のターゲットは、総務省の公式ホームページ上で公開されている。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000562264.pdf

企業がSDGsに取り組むメリット

企業がSDGsに取り組むと、実にさまざまなメリットが発生する。その中でも、以下では特に押さえておきたい3つのメリットを紹介しよう。

1.新たなビジネスチャンスにつながる

これまで意識してこなかった企業にとって、SDGsへの取り組みは新規市場開拓や事業機会創出といった新たなビジネスチャンスにつながる。実際に社会貢献を利益に変えている事例も出てきているため、SDGsに関連する市場は大きなポテンシャルを秘めていると言えるだろう。

SDGsの考え方が世界中に浸透するにつれて、それに関連する市場の規模も確実に拡大していく。経営者はその波に乗り遅れないように、早めに行動を起こすことが重要だ。

2.企業のブランド力を強化できる

SDGsに積極的に取り組む企業として、良いイメージのブランディングができる点も大きなメリットだ。投資家からの評価が高まるのはもちろん、顧客に対しても社会・環境に優しい企業であることをアピールできる。

また、SDGsに取り組むことで、自社以外に取引先・仕入先の評価も高まっていくだろう。広い範囲で社会的評価がアップするため、SDGsへの取り組みは短期間で企業を成長させる手段になり得る。

3.経営のリスクを抑えられる

SDGsの目標・ターゲットを見直すことは、経営のリスクを抑えることに役立つ。たとえば、海産物に大きく依存している企業にとって、「海の豊かさを守ろう」という目標は非常に重要なものだ。

この目標を意識して環境保全に力を入れるようになれば、良質な海産物を安定して確保することにつながる。ただし、リスクを効率的に抑えるには、SDGsの諸課題と企業活動を結びつけてリスクを洗い出すことが必要だ。

上記ではSDGsに取り組む3つのメリットを紹介したが、ほかにも以下のようなメリットが発生する。

○企業がSDGsに取り組むメリットの例
・企業の価値向上と持続的成長につながる
・ブランド力の強化により、資金調達や採用活動のハードルが下がる可能性も
・従業員の意識やモチベーションが高まる
・SDGsに興味を持つ、新たな取引先が見つかる など

ここまでを見て分かる通り、SDGsに取り組むことで生じるメリットは予想以上に重要なものばかりだ。実際に取り組むとなればコストや時間も気になるが、その後の影響も踏まえてしっかりと計画を立てておけば、かけたコスト・時間以上のリターンを得られる可能性も十分にあるだろう。

SDGsはどれくらい実践されている?世界や日本企業の現状

SDGsの波は着実に広がっており、すでに世界中の企業がSDGsに取り組んでいる。日本国内に限定しても、企業がSDGsに取り組んでいる事例は多く見られる。

○SDGsの取り組み例
・トラックによる貨物を海運や鉄道に転換する、「モーダルシフト」の推進(佐川急便)
・誰もが利用できる「ユニバーサルサービス」の提供(日本郵政)
・使用済み家電のプラスチックを、新たな家電へ再利用(三菱電機) など

すでに効果が表れている事例も存在するが、実はSDGsの認知度は決して高いとは言えない。日本での認知度は27%(2019年8月時点)とされており、半分以上の日本人はSDGsという言葉さえ聞いたことがない状況だ。

また、世界のSDGs達成度ランキングの上位は北欧の国々が占めており、2019年のランキングでは日本の順位は15位。前年と順位が変わっていないことからも、国内では十分に関心度が高いとは言えないだろう。

しかし、今後SDGsがますます重要視される可能性は高いため、経営者はその変化にしっかりと対応することが重要だ。社会や時代の変化に取り残されないように、まずはSDGsの諸課題と自社の状況を比べてみよう。

現代社会が完全に変わる前に、いち早くSDGsの計画を

SDGsの概念や目標は、現時点では広く浸透しているとは言えない。しかし、その波は着実に世界中へと広がっており、将来的にはSDGsに取り組んでいないだけで企業価値が下がってしまう可能性もあるだろう。

そのため、世の中の経営者はいち早くSDGsに目を向け、何かしらの計画を立てておくことが重要だ。ほかの企業が取り組んでいる事例もチェックしながら、自社にできることを早めに確認しておこう。

文・THE OWNER編集部