新領域へしなやかに踏み込み技術革新に貢献する―島津製作所
島津製作所社長・上田輝久 (うえだ・てるひさ)/ (画像=経済界)

コロナ禍では試薬キットを開発するなど、科学技術で社会課題に向き合う島津製作所。主力の分析計測機器の技術をベースに、企業や自治体、大学とのオープンイノベーションでさまざまな分野の新技術開発に取り組んでいる。(経済界電子版より転載

健康と環境を重点領域に新たな技術開発が進む

 島津製作所では現在、「ヘルスケア」と「カーボンニュートラル」を重点領域として掲げている。

 ヘルスケア分野では、2016年から米国国立がん研究所の小林久隆氏とがん光免疫療法の共同研究を進めてきた。21年には楽天メディカルとも共同開発・製品化条約を締結し、実用化に向けた動きが加速している。これはがん患者に薬剤を投与し、光を照射してがん細胞を破壊する新しい治療法。近赤外カメラシステムで治療経過を観察し、質量分析計を用いて治療効果を評価する。

 上田社長は「体に優しいがん治療としては一番の有力候補。研究開発を進めながら機器に小林先生のノウハウを組み込み、最適な装置にすることで各患者にも最適な治療を提供できるようにした」と話す。

 分析の技術は、「未病」の領域にも展開されている。同社の主力製品である質量分析計で血中のタンパク質を測定すれば、病気のリスクを可視化できるという。

 例えば認知症。病気の進行によって脳に蓄積されるアミロイドβの増減に関わるタンパク質を測定し、軽度認知障害(MCI)のリスクを検査する。これは、筑波大学発バイオベンチャーのMCBIと共同で技術開発を進めたものだ。また、より緻密に血液を解析すれば、食や運動など生活改善の提案も可能になる。深刻化する認知症リスクを日常的に測定し、進行の抑制につなげることが目標だ。

 食の分野では、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と共同で食品機能性解析共同研究ラボを京都の本社内に設置。農産物や食品に含まれる機能性成分の分析を農研機構と共同で進め、農作物の新品種や新製品の開発につなげていく。

 「ゴールはおいしいものを食べて健康を維持すること。1食品に1種類ではなく複数の機能性成分が含まれた食品をつくりたい。食による認知症予防も視野に入れています」

 一方、カーボンニュートラル実現に向けた新しい取り組みとして注力しているのが、バイオ技術による物質生産である。化石燃料をエネルギーとする生産からの脱却で脱炭素を目指す。

 21年11月には、神戸大学発ベンチャーのバッカス・バイオイノベーションに出資し、スマートセル分野に参入した。ゲノム編集やゲノム合成などのバイオ技術とAIやIoTなどのデジタル技術の融合により、より効率的にバイオ技術を用いた物質生産を可能にするプロセスの構築を目指している。

 これは特定分野に特化したものではなく、バイオ医薬品や機能性食品、機能性化学品など、あらゆる分野に適用できるプラットフォームだ。バイオ技術を活用した物質の大量生産が多分野で可能になると見込まれる。欧米に後れを取る日本のバイオ事業だが、ここからの巻き返しに期待がかかる。

 25年大阪・関西万博に対しては、「健康や食の安全、環境モニタリングまでを最新技術で制御できるスマートシティの実現を目指したい」と話す。例えば、塩野義製薬との提携で進めている下水の中のウイルスモニタリングの実装だ。処理場に集まる下水や施設から排出される下水を解析し、新型コロナウイルスの有無を調べることで、データに基づいた感染防止対策が可能になる。こうしたアイデアの提案に向け、大学や複数企業と話し合いを進めたいという。

オープンイノベーションで新事業を開拓していく

 分析計測機器という一つの事業セグメントだけでも、医療、食、産業と研究開発への適用が多方面に広がっている。この幅広い展開を可能にしているのは、従来の領域に固執しない「しなやかさ」だ。

 「新しい技術開発には必ず分析が必要になります。その際に、私たちが持つ技術をすぐに提供できる柔軟性が必要。強い事業は、コロナ禍でも感染拡大防止に貢献できる製品づくりに関与できました。その差が、コロナ禍であぶり出されたように思います」

 新領域に事業を展開させるため、国内外のスタートアップを中心とした企業や大学、研究所などとの協業も活発だ。「自治体からも包括連携協定の要請を受けますし、大学も非常にオープンになってきました。交流会にも参加し、目を引くテーマを持つ大学やスタートアップの方々と、当社の技術者がディスカッションし協業できることはないかを探っています」。社内にはスタートアップインキュベーションセンターを設置し、新事業の立ち上げに挑戦しているという。

 今後、分析は脳科学にも及ぶと考えられる。「人の心についてはまだまだ分かっていないことが多いのですが、うつ病や認知症の領域にまで踏み込み、難しいと思われていることを明らかにするような製品をつくりたいですね。そして、社会貢献を果たす。そこに企業の価値があると考えています」と上田社長は力強く話す。1875年の創業から147年が経つ今も硬直することなく、しなやかに柔軟に、事業領域を拡大し続けている。

会社概要
設 立●1917年9月
資本金●266億円
売上高●3,935億円(2021年3月期)
本 社●京都市中京区
従業員数●1万3,308人
事業内容●分析計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の開発、製造、販売
https://www.shimadzu.co.jp/