「経営理念の言葉が分かれた兄弟会社をひとつに結ぶ」―藤本久士・ピップ会長
(画像=経済界)

ピップエレキバンでお馴染みのピップ。その経営理念が誕生したのはかれこれ20年以上前のこと。そしてこの経営理念が、2010年に東西に分かれていた兄弟会社ピップフジモト、ピップトウキョウの合併に大きく役立ったという。経営理念の生みの親、藤本久士会長に話を聞いた。(『経済界』2022年1月号より加筆・転載)

ピップの経営理念「THE WELLNESS COMPANY」はいかに生まれたか

―― ピップは1908年に誕生した100年企業ですが、1946年に成立した会社経理応急措置法に則り東西に分社、それが2010年に東のピップトウキョウと西のピップフジモトが合併して、現在の持ち株会社フジモトHDの下に事業会社ヒップがぶら下がる形になりました。「THE WELLNESS COMPANY」という経営理念はその時にできたそうですね。

藤本 言い始めたのは、もっと前ですよ。1990年にしばらくアメリカに滞在していたのですが、出かける前、父(藤本久雄元会長)からディズニーが「ウェルネス」を研究しているという話を聞きました。それが頭の片隅にあって、翌年、帰国前にフロリダのディズニーワールドに行ったら、人間の五感に訴えるパビリオンがあって、これがウェルネスなのか、と思ったのが、最初のウェルネスとの出会いです。

 それからしばらくして、私が尊敬する、アメリカ事情にも詳しい流通コンサルタントと話していたら、「ウェルネスとは簡単に言ったら心身の健康のことですよ」と言われました。ピップは「ピップエレキバン」などの管理医療機器のメーカーであるとともに、薬局やドラッグストア向け医療衛生用品や育児用品の卸でもありますから、ウェルネスは当社にぴったりの言葉です。

 ある日、大阪で車に乗っていたら、隣に富士ゼロックス(当時)の営業車が止まって、見ると、車体に「THE DOCUMENT COMPANY」と書いてある。だったらわが社は「THE WELLNESS COMPANY」だなと思い、私が社長を務めていたピップフジモトで使うようになりました。98年度から始まった3カ年計画に、当社の目指す姿「THE WELLNESS COMPANY」(人々の心身の健康に貢献する企業)と表現しました。

東西会社合併後も使われ続けた経営理念

―― 今でこそウェルネスという言葉は広く使われるようになりましたが、当時はそれほど使われていませんでした。社員にしてみれば「ウェルネスって何だ」だったのではないですか。それをどうやって浸透させていったのですか。

藤本 当時は管理職以上が集まる会議が年に5回ほどあったので、そういう機会を通じて言い続けました。

―― 東西合併の10年以上前から使っていたものがそのまま合併会社の経営理念となりました。東の人たちは素直に受け入れましたか。

藤本 終戦翌年に東西に分かれて以来、まったく別の会社として60年以上を過ごしてきました。それが合併したのは業界再編がきっかけです。以前の我々の得意先は薬局・薬店という個店でした。それがだんだんドラッグストアとなりチェーン化・組織化されていき、90年代に入ると、全国チェーンが誕生します。それまでわれわれは、東日本はピップトウキョウ、西日本はピップフジモトが商品を卸していました。ところがある全国チェーンのお得意先様が同じ商品で仕入先を分けることができないと言われました。それに対応するためには合併するしかないということで決意しました。

 60年以上、別々だった会社がひとつになるのだからそう簡単なことではありません。ただ幸い、商品開発だけは東西が共同で行っていたため、まったく交流がなかったわけではなく、両社の幹部社員が集まって定期的に勉強会・研修会等も行っていました。その場で「THE WELLNESS COMPANY」の話はしていました。

 こうした土壌があったため、合併をするに際し経営理念を決めるために当時の幹部が集まったのですが、これをそのまま使おうということになりました。

変わり続ける経営理念の言葉

―― 経営理念ができてから30年以上たっています。どこか変更したところはないですか。

藤本 「THE WELLNESS COMPANY」は変わりませんが、それに続く言葉は毎年のように変えています。たとえば「人々の身心の健康に貢献する企業」とありますが、最初は「心身の健康」でした。父親からは「身心」だと言われたのですが、ワープロで普通に変換すると「心身」と表示されるため、それでいいと思って使っていました。ところが何年か前にある方から、「身体の健康なくして心の健康はない。だから身心の健康であるべきだ」と言われました。父親の言っていたことは正しかったのです。そこで、今では身心を使っています。

 それに続けて「HBC+Sを核に専門性を極める」とあります。ドラッグストアが使うHBCは、「HEALTH & BEAUTY CARE」、当社のHBCは「HEALTH BABY &COMFORT」です。そして高齢社会への意識を高めるために2013年からSENIORのSを加えました。
 また、「THE WELLNESS COMPANY」を実現するためのもう一つの柱が「対外的には最高の品質を 社内では最大の効率を」というものです。99年から使い続けていますが、品質が先に来ることが重要です。効率が先にくると品質を落としてしまいます。これではお客さまに価値を提供できません。

―― 経営理念ができ、社員に浸透したことで何か変わったことはありますか。

藤本 社員が意識してくれるようになるまでは、ある程度の時間が必要でしたので、私は機会を見つけては言い続けてきました。どうしても現場は数字に追われてしまいます。そこにばかり気を取られると、人々の身心の健康に貢献する、という部分を忘れてしまう。でも心のどこかに経営理念があれば、大切なことを常に意識して行動してくれます。

 何年間も同じことを言い続けてきたので、さすがにもうやめようかと思ったこともあります。でも「言い続けなければだめですよ」と人から言われて考えを改めました。

 当社の新年度は11月から始まりますが、それに合わせて毎年、経営理念の見直しを行い、修正を加えます。ベースは変わりませんが、その時々の環境の変化に応じた内容を織り込んでいます。そしてそれを10月の全体会議で話をする。今年もそうでしたし、来年もやはり経営理念を語り続けていると思います。