5年遅れの「ワールドマスターズ」 を中止にできない事情とは
(画像=経済界)

生涯スポーツの世界大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西」は、コロナ禍のため22年に1年延期されていたが、さらに26年に再延期される。25年に台湾大会があるため、選手や観客を呼べないのではとの疑問の声も上がる。なぜ中止にできなかったのか。文=経済ジャーナリスト/小田切隆(『経済界』2022年1月号より加筆・転載)

ワールドマスターズの経済効果は1500億円

 ワールドマスターズゲームズ(WMG)は、国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が4年ごとに開催している。おおむね30歳以上のスポーツ愛好者であればだれでも参加できる、生涯スポーツの国際総合競技大会だ。

 原則としてオリンピックの翌年に開催されており、第1回は1985年にトロントで開かれた。直近の2017年にニュージーランド・オークランドで開かれた大会まで、計9回開催されている。

 第10回大会は日本の関西で行われることになっている。アジアでは初めての開催だ。関西大会を取り仕切るのは「ワールドマスターズゲームズ2021関西組織委員会(国内組織委員会)」。当初21年5月に開かれる予定だった。

 開催予定地となっている大阪、京都、兵庫、奈良、福井、滋賀、和歌山、鳥取、徳島の9府県と、大阪、京都、神戸、堺の4政令市。目標参加人数は5万人(国外参加者2万人、国内参加者3万人)となっている。13年のイタリア・トリノ大会は約2万人、17年のオークランド大会は約3万人だったので、それを大きく上回る野心的な目標といえる。

 陸上競技や野球、ゴルフ、ゲートボール、綱引きなど35競技59種目が行われる。30歳以上なら1万5千円を支払えば、5種目まで参加することが可能だ。関西大会の開催による直接的な経済効果は1500億円と見込まれている。

関西財界が開催を主導するも再延期に

 大会の誘致を主導したのは関西財界だ。自治体の連合体「関西広域連合」が協力し、13年に開催が決まった。大会の協賛企業には、大和ハウスグループや長谷工コーポレーション、ミズノ、関西電力など、関西を本拠とする錚々たる企業が名を連ねている。

 関西もご多分に漏れず少子高齢化が進み、経済は低迷している。

 そんな状況下で開く大会には、関西のスポーツ産業を振興したり、参加者らにいろいろな場所へ足を伸ばしてもらって観光産業を底上げしたりする狙いがある。年齢、世代にかかわらずスポーツを楽しむことで、健康寿命を伸ばしてもらいたいという目的もある。

 だが、新型コロナの感染拡大で状況が一変した。東京五輪が20年から21年に先送りされたことなどにより、いったん、関西大会のスケジュールは22年5月13日~29日の17日間の日程へ1年間、延期された。

 しかし、調整は難航したとみられる。延期したいという日本側の考えに対し、スケジュールを最終的に決める権限を持つIMGAが当初、同意しなかったからだ。

 理由は同じ22年に韓国でWMGの地域大会が予定されていたことなどがあったためとみられる。IMGAが延期に賛成したのは、ようやく21年1月のことだった。

 だが今年10月、国内組織委はさらなる延期の方針を決定した。しかも、5年もの大幅な再延期だ。今回も再延期は、IMGAの最終的な承認を得なければならない。

 再延期について、国内組織委が開いた10月26日の記者会見で木下博夫事務総長は「オーバーかもしれないが、苦渋(の決断)だった」と述べた。そして「来年5月に開催することは厳しい。入国規制がどの程度緩和されているのか、見極めるのは難しい」と話した。

 実際に、WMGに参加すると想定される人の多くは海外、国内から来る一般市民だ。参加目標人数は合計で5万人。これだけ大勢を呼び込むには、まずコロナ禍による出入国の規制が緩和されることが条件だ。観光を盛り上げるためには、国内での往来が自由にできることも必要だ。そのためにはコロナが収束していなければならない。

新型コロナで開催恐慌は困難に

 では、コロナの感染状況は22年に向け、どうなっていくと考えられるのだろうか。

 国内に関していえば、今年6月ごろ始まったコロナの「第5波」は、東京五輪・パラリンピックのあった8月にピークを迎えた。感染者数は1日あたり全国で2万5千人を超えた。

 その後、感染者数は減少に向かい、11月1日には全国で86人まで減った。理由の一つとして可能性が指摘されているのは、ワクチン接種が進んだことだ。11月に入っての段階で、ワクチン接種の1回目、2回目が済んだ人はともに7割を超えている。

 ただ、これをもってコロナが完全に収束したとみる専門家は少ない。欧州など海外で感染が再拡大している事実があり、さらに強力な新しい「変異株」が出てこないとも限らないからだ。

 これらを踏まえると、寒くなる冬以降、「第6波」が来て、22年も感染の波が続く可能性は残っている。また、国内で感染が収まっていても、海外で感染拡大が続いていれば、海外から感染者が入ってくるのを防ぐ「防疫」を確実に行わなければならない。政府は海外からの入国制限を続けている可能性がある。

 以上を踏まえると、大勢の参加者や観客を集めることは難しい。少ない参加者や観客で開催を強行し、感染を広げるリスクを防がなければならない。22年の大会開催という選択肢は、消さざるをえなかったといえる。

中止にできない理由はコスト返還リスク

 だが、「中止」の選択肢はなかった。中止にすると、今まで運営にかかったコストの返還を自治体や事業者から求められるリスクがあるからだ。

 国内組織委が発足したのは14年12月。大会のPRや事務局の運営にかかるコストは数十億円規模に達するとみられる。

 まかなってきたのは、自治体の負担金や企業からの協賛金だ。大会への参加料やスポーツ振興くじの助成金なども充てられてきた。

 大会を中止してしまうと、これらのお金は全くの「捨て金」になってしまう。事情に詳しい関係者によると、国内組織委は、大会を中止してしまうと、これらのお金の返金を求められる可能性が高い。このため中止という選択肢は最初からありえず、再延期を決めざるをえなかったのだという。

 ただ、再延期すればコストはさらにかさむ。国内組織委は企業に対して、追加の費用負担を求めない方向だ。PR活動や事務局の運営は、極力、活動の規模を縮小し、お金がかからないようにするという。

 一方、企業からのお金の協力が減れば、たちまち資金不足に陥るのではないかという懸念もある。大会開催に向けた今後の事務局運営やPR活動は、非常に難しくなる可能性がぬぐえない。

ワールドマスターズ関西大会の開催はいつ?

 このようにWMG関西大会に「中止」という選択肢はありえず、「再延期」に決まった。次の問題は、いつ開催するかという日程調整だ。

 難しいのは、23年以降、毎年のようにスポーツの国際大会が目白押しで、関西大会とバッティングする恐れがあることだ。

 順を追って見ていくと、23年には韓国でWMGの地域大会がある。24年にはフランスのパリで五輪・パラリンピックが開催され、25年には、台湾でWMGが予定されている。

 これらの国際スポーツ大会がある年に関西大会をぶつければ、関西大会には参加者や関係者を呼べなくなる可能性が高い。ましてや25年は、同じWMGの大会同士で観客を奪い合うことになる。

 こうしてみると、なるべく早い時期へ再延期するとなれば、特段の大きな国際スポーツ大会のない26年が最適となる。それより後に延ばすと、事務局の運営コストやPR費がさらにかさむ。28年には五輪・パラリンピックの開催が予定されるなど、再びほかの国際スポーツ大会とバッティングすることになる。こうした事情を勘案し、再延期の日程は26年に決まった。

 だが、やはり4年もの再延期には懸念が多い。

 まず、WMGそのものが忘れられ、とくに国内で機運がしぼんでしまうのではないかという心配がある。PR費をあまりかけないようにするとなると、それだけWMGの存在感が小さくなってしまう。参加者を5万人呼ぼうというもくろみは外れてしまうかもしれない。

 25年の台湾大会のわずか1年後に行うのもネックだ。

 WMGに参加する人は、恐らくリピーターが多いだろう。だが、例えば台湾大会に参加したばかりの海外の選手が翌年に連続で、高い渡航費を負担してまで参加するのかどうか。この意味では、海外から2万人呼ぼうという計画も、あてが外れてしまう可能性がある。

 呼べる参加者が少なくなれば、当然、1500億円もの経済効果は見込めない。効果の前提は、2万人の参加者とその家族が来日し、国内のあちこちで観光してくれることだからだ。この結果、国内経済を浮揚させる効果は、非常に限られたものになってしまう。

IMGAが延期を認めない可能性も

 そして26年5月への再延期案の最大のネックは、上部組織であるIMGAが受け入れるかどうか不透明であることだ。

 IMGAは国内組織委からの提案を受けて総会などで話し合い、最終的な結論を出す。この記事を執筆している11月初めの時点では、まだ結論は出ていない。  国内組織委の関係者が懸念しているのは、IMGAが26年5月への再延期案に賛同しない可能性が捨てきれないことだ。

 というのも、国内組織委が26年5月への再延期案を決めた後、IMGAが10月28日に、ホームページで「22年の秋も含め、すべての可能な日程を検討している」との声明を出したからだ。「IMGAは日本の提案に後ろ向き」というメッセージととらえられなくもない。

 実際、先に述べたように、もともとの22年5月へ延期する案についても、IMGAはなかなか賛同せず、21年1月にようやく結論を出した経緯がある。IMGAは11月中に正式決定する方針だが、どんな結論となるのかは、国内組織委の説得にかかる。最終的な決着までに、紆余曲折がありそうだ。