手段と目的を峻別する経営センスを磨く―内田和成(早稲田大学ビジネススクール教授)
(画像=内田和成・早稲田大学ビジネススクール教授/経済界)

ロジカルシンキングに留まらず直感による経営者の決断を重んじる内田氏に、コロナ後の新しいパラダイムにおけるDXとの向き合い方と、今コンサルティングに最も必要とされることとは何か聞いた。(経済界電子版より転載

内田和成・早稲田大学ビジネススクール教授プロフィール

(うちだ・かずなり)──東京大学工学部卒業。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表、09年12月までシニア・アドバイザーを務める。06年から現職。著書に『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版社)など。

コンサルタントの役割と経営者の決断

── コロナ禍により事業継続計画(BCP)の重要性が叫ばれる今日、コンサルタントの役割とは何でしょうか。

内田 現在のコロナ禍はさながら戦時のような状況です。コンサルタントに求められるのは理想の組織論を語るだけではなく、本当に有効な経営判断を重ね、目の前の戦いを切り抜けるための実効的な支援だと思います。とはいえ臨戦態勢が落ち着いた後に、どのような社会をつくるかを考えるのは経営者の重要な仕事です。その上でアフターコロナの新しいパラダイムに即した事業展開や、企業のビジョン策定をサポートすることもコンサルタントには求められます。

 コンサルティングは医師の役割に近いというのが持論です。コロナ禍では生きるか死ぬかという患者に対峙する医者と同じ気概を持ち、顧客の抱えた課題と、事業への価値観や環境に応じて柔軟に処置を決めるのです。

── SDGsへの配慮など企業には業績だけではなく、社会課題解決を視野に入れた事業が求められています。

内田 社会課題解決においても経営者自らが方向性を考え決断しなければ意味がありません。理念に応じて、他社とは異なる独自性を自発的に打ち出す必要があります。どういう形で企業が社会に貢献するか、それは経営者が着目している点によって変わってきます。他の企業もやっているから自社でもやる、という横並びの姿勢では、真の多様性には程遠いでしょう。

── 近年ニーズの高い、実行支援(インプリメンテーション)まで含めたコンサルティング案件についてどうお考えですか。

内田 中期経営計画の策定をはじめ数年に一度の戦略策定だけではなく、短い期間での実行支援の比重が高くなってきました。戦略を実行しながら週単位で修正を繰り返しつつ、ごく短いスパンで戦略と実行をグルグルと回す流れが、最近のコンサルタントに求められる傾向です。しかし経営者は、コンサルタントに丸ごと頼むのではなく、具体的にいつまでにどのような成果を上げたいかを明確にしなければ、コストばかりがかさむことになります。本当に必要なことは何か、しっかりと見極めるべきです。

DXは手段にすぎない 肌感覚を大切に

── DXブームが過熱しており、テクノロジーの自社導入に難儀している企業が増えています。

内田 社会全体としてDXそれ自体の方向性は正しいとしても、現場によっては無理にデジタル化する必要がない場合も多々あります。つまりDXというのはただの一手段にすぎないわけですから、最終的な目的と、手段を取り違えないことが重要です。

 ビジネスパーソンにとってこの目的を達成するためには、意外に思うかもしれませんが自分の直感つまり肌感覚を信じることが大切です。今までとは何か違う、気持ち悪い、あるいは面白そうといった、皆さん自身の違和感などの肌感覚が鍵となります。そうした感覚なしにデータを見ても、データの洪水にのまれてしまうだけです。まずは日ごろの生活や経営の中で感覚を研ぎ澄まし、その上でビジネスに生かせるITやデータは何かを考え、経営センスを磨いていかなければなりません。

 また、全ての業務にAIをはじめとした先端テクノロジーやビジネスインテリジェンスが求められているわけではありません。経営課題を明確にした上で、本当に必要な場合に、データサイエンティストなどIT人材を採用したり育成するべきなのです。

── 事業成功への突破口となるのはDXだけではないということですか。

内田 作家のマルセル・プルーストの言葉に「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない、新たな目で見ることだ」というのがありますが、この状況に当てはまります。DXを導入する前に、経営者自らが自社はどう変わりたいのかを真剣に考え、その次にDXが必要かどうかを考えるべきです。

 とはいえ、コロナ禍やテクノロジーの進化により、これまでの当たり前が通用しない現在の事業環境において、既存のノウハウや人材とは異なる外部の新しい視点を提供するという点で、外部のコンサルタントに頼ることも有効です。

 世界的に見ても、今まで日本が強みとしていた高品質な製品を低コストでタイムリーに生産するというシンプルな戦い方では優位に立つことが難しくなってきました。さらに各業種のボーダーラインが薄れてきており、化学メーカーが機械領域の事業を始めるなど、異業種間競争が激化しています。新規事業を始めるとしても当然ながらその事業領域を生業にしている競合が既にあるわけですから、新参者がノープランで市場に乗り込んでうまくいくはずがありません。

 隣の芝生は青く見えがちですが、今日のグローバル経済において競合のいない真の新天地は存在しません。ですから、一朝一夕では身に付かない新しいITスキルあるいは新規事業に必要な人脈を広げるといった観点からコンサルタントは力を発揮することがあります。しかしあくまでも主体は企業の経営者自身であるべきです。

聞き手=金本景介 写真=矢島泰輔