
ESG投資が急拡大している。自社には関係ないと思う経営者もいるかもしれないが、ESG投資が企業に与える影響を理解することが重要だ。今回は、ESG投資の概要をおさらいしたうえで、ESG投資の種類、ESG投資が企業にもたらすメリットなどを解説していこう。
ESG投資とは?
ESG投資を理解するためには、ESGの意味を知る必要がある。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取った略語であり、企業が持続的な成長を目指すための3要素だ。
ESG投資とは、キャッシュフローや利益率といった定量的な財務情報だけではなく、環境・社会・企業統治の各要素まで考慮した投資をさす。
企業を評価する新しいベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されている。
ESG投資の動向
近年、年金基金といった巨額資産を超長期で運用する機関投資家を中心にESG投資の概念が普及しており、ESG投資は拡大の一途をたどっている。根拠となるのが、PRI署名機関数とその運用資産総額だ。
ESGが知られるようになったのは、2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み込む責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱したことがきっかけといわれている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の調べによると、2020年3月末時点でのPRI署名機関は3,038で、その運用資産総額は100兆ドルを上回った。
ESG投資に該当するかどうかの明確な線引きは難しいが、PRI署名機関数とその運用資産総額はここ10年で急拡大している。ESG投資の市場規模は、世界的に成長し続けているといえるだろう。
投資される企業側としても、ESG重視の流れをうまく受け入れて、ESG経営を進めることが重要だろう。
ESG投資の6つの種類
企業側としてESG投資の種類を知っておくと、投資家や関係者に配慮しながら情報を発信しやすくなる。ESG投資の種類について解説していこう。
種類1.ネガティブ・スクリーニング
ネガティブ・スクリーニングは、投資先の選定において、ESGの観点に適さないネガティブな要件をあらかじめスクリーニングから外す方法だ。一例として、アルコールやたばこ、ギャンブル、武器製造、石油などに関する企業の除外が想定される。
種類2.ポジティブ・スクリーニング/ベスト・イン・クラス
ポジティブ・スクリーニングは、ESG課題に関する対応の評価やESG関連指標の数値などをもとにして企業に投資する手法だ。ネガティブ・スクリーニングの対義語といえるだろう。
各業種内において、ESG評価の高い企業を選別して投資するベスト・イン・クラスも、ポジティブ・スクリーニングのひとつだ。
種類3.国際規範スクリーニング
国際規範スクリーニングは、国際規範に沿って投資先の企業を投資対象から除外する手法だ。
特定の業界を除外するネガティブ・スクリーニングに対して、業界に関係なく投資対象候補をスクリーニングする。
種類4.ESGインテグレーション
ESGインテグレーションは、キャッシュフローや利益率といった財務情報だけではなく、環境・社会・企業統治に関する非財務情報によって投資先を選定する方法だ。
ESG投資の包括的な説明に用いられることも多く、ESG投資の代表的な投資手法といえる。
種類5.サステナビリティテーマ投資
サステナビリティテーマ投資は、設定したESGのテーマに関連する企業の株式や債券に限定して投資する手法だ。太陽光発電事業への投資ファンド、グリーンボンドファンドなどが例として挙げられる。
種類6.インパクト投資(コミュニティ投資)
インパクト投資は、貧困や差別、環境といった社会的課題の解決を目指す企業に投資する方法だ。
地域社会の活性化を目的とする投資をコミュニティ投資と呼ぶ場合もある。コミュニティ投資はインパクト投資の一種といわれている。
ESG投資・経営が企業にもたらす5つのメリット
ESG投資・経営が企業にもたらすメリットを考えてみたい。
メリット1.直接金融による資金調達が期待できる
投資マネーが集まりやすくなるので、直接金融による資金調達が期待できる。特に上場企業は、ESG経営が評価されてESG投資マネーが集まると、時価総額を高める要因になる。
株価を高く保っておくと、公募増資による資金調達もスムーズになりやすい。債券発行による資金調達時にも好影響を与えるだろう。
非上場企業においては、投資マネーを集める場面があまり多くない。しかし、第三者割当増資を実施する際や、非上場のベンチャー企業がリスクマネーを集めるときは、ポジティブに影響しやすいだろう。
非上場のベンチャー企業がリスクマネーを集めるとき、投資家は事業の将来性に着目する。ESGに沿ったビジネスモデルだと印象がよくなる可能性がある。
メリット2.融資のバリエーションが増える
ESG投資は直接金融をさすのが一般的だが、ESGに対する意識の高まりから、ESGに着目して融資する金融機関も増えている。
たとえば滋賀銀行では、サステナビリティ経営をサポートし、企業価値の向上と持続可能な社会の実現を目指す「サステナビリティ・リンク・ローン」を実施している。
滋賀県と滋賀銀行へ事前に提出したCO₂削減目標の達成状況と金利等の融資条件が連動し、達成時に優遇条件が適用されるという。
今後は多くの金融機関で同じようなローンが用意される可能性も十分にあるだろう。
メリット3.融資が通りやすくなる
ESG経営を意識することで、法令遵守や情報開示の意識が向上する。金融機関からの評価が高まって、融資が通りやすくなる可能性もある。
当然ながら、ESG経営をしていればどのような業績でも融資を受けられるわけではない。基本的には、企業財務の健全性が見られている点に変わりはないだろう。
メリット4.優秀な人材を採用しやすくなる
ESG経営を意識することで人が集まりやすくなり、採用しやすくなることも挙げられる。
企業のレピュテーションが強化されるのはもちろん、ダイバーシティの推進、ワークライフバランスの確保、女性活躍の推進などが担保されることで、優秀な人材が集まりやすくなるだろう。離職率も低下し、長期的な活躍にもつながるはずだ。
メリット5.受注の維持と増加
ESG経営を求めているのは投資家や金融機関だけではない。近年のESGに対する意識の高まりから、ESGを取引先に求める企業も多くなっている。
規模が大きい企業ほど社会的責任も大きくなるため、取引先の選定にも熱が入りやすい。
ESG経営を強化することで、取引先から選ばれる企業になる確率が高まり、受注の維持と増加につながりやすくなる可能性がある。非上場企業の経営者においては、重要な要素といえるのではないだろうか。
ESG投資の観点から企業が目指すべき3つの取り組み
ESG投資の観点から、企業はどのような取り組みを展開していけばよいのだろうか。環境・社会・企業統治の観点に分けて解説していく。
取り組み1.環境編
「E」に関しては、環境に配慮した製品や事業、施策を展開することが重要だ。しかし、業種によっては温室効果ガスを多く排出してしまうこともあるだろう。
その場合、J-クレジット制度の活用を検討するとよい。J-クレジット制度は、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO₂等の排出削減量、適切な森林管理によるCO₂等の吸収量を、クレジットとして国が認証する制度だ。
J-クレジットを購入して、カーボン・オフセットの達成も検討したい。
取り組み2.社会編
「S」に関しては、ダイバーシティやワークライフバランスに配慮した人事制度を目指すとよいだろう。
具体的には、国籍や障害によって差別されない採用体制の構築、有給休暇の取得促進、フレックスタイム制の導入、産休制度の充実などが挙げられる。
取り組み3.企業統治編
「G」に関しては、経営の透明性や社外取締役の独立性を高めることを意識しよう。非上場企業の場合、経営と所有が分離していないことも多く、ガバナンスも属人的になりやすい。
定期的な研修を実施し、社員にコンプライアンスの知識を浸透させることも重要だ。内部通報や通報者保護の仕組みも整備したい。
企業のESG戦略をエンゲージメントで強化
株主という立場から、建設的な目的を持った対話であるエンゲージメントを通じて、企業のESG戦略を強化する投資方法もある。
エンゲージメントの手段としては、文書での要望や経営陣との面談だけではなく、株主提案、議決権行使などもある。
ESG投資およびESG経営の広がりは、上場企業だけが気にすべき変化ではない。投資家や金融機関のみならず、社員や就活生、取引先など多くの人に影響がある。非上場企業もESGに関する動向を把握しておこう。
文・菅野陽平