テレビ離れと電波行政で明日が見えないテレビ局
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無観客で行われた東京オリンピックを、多くの人がテレビの前で応援した。視聴率は好調だったが、それは逆に普段の視聴率の低さを際立たせることになった。若い世代にとってみれば、テレビもYouTubeも動画コンテンツのひとつにすぎない。茶の間の王様として君臨したテレビの時代は終わりつつある。文=吉田邦彦(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

好調だったオリンピックの視聴率

 56・4%――7月23日に行われた東京オリンピック開会式の視聴率だ。この数字は21世紀に入ってからでは、2002年の「日本×ロシア戦」(66・1%)、10年の「日本×パラグアイ戦」(57・3%)のサッカーワールドカップの日本戦2試合に次ぐものだ。

 開幕直前まで演出担当者の更迭などトラブルが相次いだために、視聴率がどこまで伸びるか不安視されていたが、多くの人が自宅のテレビで開会式を見守った。開会式にかぎらず、今回のオリンピックの視聴率は総じてよかった。阿部一二三・詩兄妹が同日金メダルに輝いた7月25日の柔道の中継も21・6%、水谷隼・伊藤美誠が金メダルを獲得した卓球混合ダブルスも19・2%だった。

 余暇の過ごし方が多様化したこともあり、視聴率10%がテレビ番組としての合格ラインといわれている。その中での高視聴率は、やはりオリンピックが最強のキラーコンテンツであることを示している。今大会でNHKと民放連合は、3年前の平昌冬季五輪と合わせて660億円という放送権料を支払っているが、それに見合う視聴率だった。

若い世代の半分がテレビを見ない現実

 コンテンツ次第ではまだまだテレビはお茶の間の主役になりうるということだが、そのようなコンテンツは極めてまれ。むしろ昨今のさまざまな調査結果を見るかぎり、その前途には悲観的にならざるを得ない。

 今年5月、NHK放送文化研究所が発表した「国民生活時間調査2020」は衝撃的な内容だった。この調査はNHKが5年に一度行っているのものだが、それによると「平日にテレビを見る人」の割合は79%と8割を切った。さらにショックだったのは若者たちのテレビ視聴習慣で、毎日テレビを見るのは10~15歳で56%、16~19歳47%、20代51%となり、若者世代の半数がテレビを見ていないことが明らかになった。しかも5年前と比べると、それぞれ20ポイント以上減っている。つまりこの5年の間で急速に若者のテレビ離れが進んだことが分かる。

 若い世代がテレビ番組を見なくなったわけではない。民放のテレビ番組をオンデマンドで見ることのできる「TVer」は着実に会員数を増やしており、今年1~3月の再生数は1年前の2倍となった。人気の理由はいつでも好きな時に見ることができるというだけでなく、配信で見る場合、1・5倍速、1・75倍速といった具合に再生スピードを上げることができるからだ。

 今の若い人たちは、1時間番組を1時間で見ることに苦痛を感じる。できるだけ多くのコンテンツを「処理」するにはTVerでもYouTubeでも早送りするのが習慣となっている。テレビ局にしてみれば、番組と一緒にテレビCMを見てもらい購買意欲を高めるという従来のビジネスモデルが全く通用しない時代となった。

優秀なクリエイターはネット動画へ

 そこで最近では、従来の視聴率(世帯視聴率)ではなく個人視聴率を重視し始めた。冒頭に紹介したオリンピック開会式の視聴率も、個人視聴率なら40・0%となる。しかも個人視聴率の場合、世代別視聴率も分かるため、購買意欲の強い13~49歳の視聴データを「コア視聴率」として重視するようになっている。

 Netflixなど定額制動画配信サービスも引き続きテレビ放送を侵食し続けている。Netflixの今年6月末時点の加入者は、全世界で約2億900万人。日本の会員数については昨年9月に500万人を突破、その後も増え続けていることは確実だ。

 このように視聴行動の変化、ライバルの台頭など、テレビ放送を巡る環境は厳しさを増す一方だ。コロナ禍もあり、民放テレビ各社の前3月期の広告収入は1割以上減少した。そこで各社ともに製作費の削減を余儀なくされているが、それによって番組の質は低下、テレビ離れが加速する。

 ネット経由の動画配信への対抗策は自らネット配信で存在感を発揮すること。実際、テレビ局はネット配信に力を入れている。さらにはコンテンツの海外販売など、二次利用により収益を底上げしたい考えだ。しかし、日本のテレビ局が限られた予算の中で世界を意識したコンテンツをつくることができるかどうか。今では優秀なクリエーターほど、予算があり制約の少ないネット動画へ軸足を移している。

テレビ局が放送電波を独占する時代の終焉

 そして、日本のテレビ局を待ち受ける最大の難関が、放送電波の独占使用権の問題だ。今年はじめ、BS放送を運営する東北新社に勤める菅首相の長男が、総務省幹部に接待を繰り返していたことが明らかになったが、その背景には総務省によって与えられる放送電波という既得権を守りたいという思惑があった。この事件で東北新社は一部の免許を取り消されたが、通常、一度与えられた電波はよほどのことがないかぎり使い続けることができる。

 しかしデジタル化の進展が、その「常識」を変える可能性がある。公共の資産である電波は有限だが、IoTや5Gなど電波を利用するサービスは増えており、電波の使用状況は逼迫している。その中でテレビ局が既得権益に胡坐をかいているのではないかという批判が出てきた。

 そこで検討されているのが海外ではすでに採用されている「電波オークション」だ。これは電波をオークションにかけ、高い価格を提示したところに利用を認めるというものだ。

 今年3月の菅首相の記者会見で「電波オークションなどを導入する考えはあるのか」という質問があった。菅首相はこれに対して「電波そのものについては、インターネット、そういう中で放送と通信の境がなくなってくるとか、いろいろな状況になってきているのも事実。そうしたことをもう少し検討する必要があるのではないかと思う」と、オークションの実施に含みを持たせた。

 実際には電波オークションの実現には紆余曲折あるだろう。しかし電波が国民の財産であり、特定事業者が独占する状態が今後も続くとは思えない。テレビ離れが今後も続くようなら、テレビ局への電波割り当てを減らし、その分を他のサービスに回すことは十分に考えられる。

 前門にテレビ離れとネット動画の台頭、後門に電波割り当ての見直し。テレビ放送の前途は波高し――。