五輪スポンサーで得した企業・損した企業
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8月8日に無事、幕を閉じた東京オリンピックを金銭面から支えたのがスポンサー企業。国内のスポンサー企業数は60社を超え、金額は4千億円を超え、史上最高を記録した。最低でも15億円と言われるスポンサー料だが、それを払うだけの価値はあったのか――。文=関 慎夫(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

五輪スポンサーで得した企業・損した企業
(画像=経済界)

トヨタの「五輪向けCM放映中止」の余波

 予想以上の結果を残した日本人選手にテレビの前で応援していた人も多いに違いない。コロナ禍で自宅で過ごす人が例年以上に多いこともあり、オリンピックのテレビ視聴率は軒並み高い数字を記録した。

 オリンピックなどのビッグイベントがある時は、スポンサーはそれに合わせたCMを制作する。スポンサー企業が契約しているアスリートを使った広告を使うのはよくあるケース。その選手が活躍すれば、広告効果は何倍にも増えるからだ。今回も五輪仕様のCMを多くの企業が制作・放送した。

 ところが開会を4日後に控えた7月19日、広告業界にとって大きなニュースが流れた。この日、トヨタ自動車がオリンピックに関連したCM放映を見送ることが明らかになったのだ。

 トヨタはオリンピックスポンサーの中でも最上位に位置するワールドワイドスポンサー(TOP)。前回のリオ五輪の時、トヨタはイチローと4人のオリ・パラ選手を起用、「イチローが嫌いだ。あの人を見ていると限界が言い訳に聞こえるから」「でも同じ人間のはずだ」といったセリフをアスリートが語るCMは大きな話題となった。恐らく今回も、世間を驚かせる五輪仕様のCMを用意していたはずだ。

 トヨタが放映を見送った理由には開催にいたるまでのゴタゴタにある。コロナ下でのオリンピックに反対する声は根強くあり、最後は無観客での開催に決まったものの、開会式演出担当者の更迭など、ギリギリまでトラブルが続いた。そのためオリンピックをスポンサードしていることを前面に押し出すことはむしろ企業イメージを損なう、との判断が働いたようだ。このように今回のオリンピックは、スポンサー企業にとっても苦汁の選択をせざるをえない特別な大会となった。

史上もっともスポンサーを集めた東京五輪

 今度のオリンピックは史上もっともスポンサーを集めた大会だった。

 東京オリンピックのスポンサーには2種類ある。

 ひとつは、IOC(国際オリンピック委員会)と契約するTOPで、世界中どこでも、五輪マークを使った宣伝活動を行うことができる。TOP企業は12社で、そのうち日本企業はトヨタ、パナソニック、ブリヂストンの3社。

 もう1種類は、五輪組織委員会と契約を結ぶもので、ゴールドパートナー、オフィシャルパートナー、オフィシャルサポーターの3段階にわかれており、契約企業数は60社以上。そのスポンサー料の合計は、推計で4千億円を超え過去最高だった。

 スポンサー料はTOPで最低300億円、ゴールドパートナーは150億円、一番下のオフィシャルサポーターでも15億円が必要だ(値段はいずれも推計)。それだけの金額を払うのだから、それに見合ったリターンを求めるのは当然だ。しかし前述のようなゴタゴタにより、そのもくろみは大きく崩れた。

オリンピック会場は壮大なる実験場

 例えば、競技会場やパブリックビューイングなどで販売する飲食物は、すべてスポンサー企業が提供、そこで世界の人を相手に商品をPRできたはずが、無観客で意味がなくなった。あるいは、スポンサー企業にはチケットの割り当てがあるため、商品購入者を対象としたチケットプレゼントというキャンペーンも、観客を入れるかどうか直前まで決まらなかったためできず、得意先や優良販売店を開会式や競技に招待する「五輪接待」もできなかった。

 スポンサーにはJTB、近畿日本ツーリスト、東武トップツアーズの旅行代理店3社が含まれている。3社ともチケットとツアーがセットとなった商品を販売したが、それもすべて払い戻しとなった。ANA、JALの航空会社2社は国内外の観客を運ぶはずが、目算が狂った。

 スポンサー企業の中には、「オリンピックをきっかけに社員の一体化をはかりたい」としていたところも多い。期間中、世界の拠点から東京に人を集め、一緒に応援、あるいはボランティア活動することで、参加意識を高めようと考えていたところもある。それができなかったのだから、こうした企業にとっては、スポンサー料の元が取れたとは言い難い。

成果を上げた五輪スポンサー企業は?

 しかし、「成果」を上げたスポンサーもある。

 例えばトヨタやエネオスなどは、「オリンピックを水素社会実現の第一歩」と位置付けていた。大会公式車両には水素を燃料に走るトヨタの燃料電池車「MIRAI」が400台使われたほか、大会期間中燃え続けた聖火の燃料はエネオスが提供する水素ガスだった。

 このように、オリンピックは巨大なマーケティングの場であるだけでなく、最先端技術の実験場としての役割もある。後者を重視した企業にとっては、意義ある大会となった。

 例えばパナソニック。国立競技場をはじめとした競技会場には、パナソニック製の巨大スクリーンが設置されている。また世界に映像を送信した国際映像センターで使われた機材の多くがパナソニック製だ。このほか、荷物の積み降ろし作業を軽減するパワーアセットスーツを提供、プレスセンターの共用部を掃除するのは同社製のロボットで、人や壁、障害物などを自動認識し、無人で掃除する。

 会場の警備は、スポンサー企業であるセコムとアルソックが担当したが、5Gやドローンを活用した次世代警備を実用化した。ここで得たノウハウは、やがて日本中の現場で使われていくはずだ。

 このように、世界の人たちに自社の商品・サービスをPRするという目的を果たすことはできなかったかもしれないが、オリンピックを通じてレガシーを残せた企業も多い。それが次のビジネスにつながれば、スポンサー料は決して高くなかったことになる。