ウォルマートから外資ファンド傘下に入った西友の未来
米ウォルマート子会社から米投資ファンド傘下に入る新体制に移行した西友
(画像=経済界)

 かつては「西のダイエー、東の西友」と言われ、日本のスーパー業界をリードする存在だった西友。しかし1990年代後半に業績が悪化してからは、資本が次々と入れ替わり、今は米ファンドKKR傘下で、楽天の資本も受け入れ再建を目指す。流転の日々に終わりはくるのか。文=ジャーナリスト/下田健司(『経済界』2021年6月号より加筆・転載)

セゾングループから離脱後、生々流転の西友

ウォルマートは西友売却で多額の損失

 大手スーパーの西友は3月、米ウォルマート子会社から米投資ファンド傘下に入る新体制に移行した。

 昨年11月、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、楽天はウォルマートから西友株式の85%を取得すると発表していた。ウォルマートは100%保有していた西友株式を売却し、KKRが65%、楽天が20%を取得。楽天は小売業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する子会社、楽天DXソリューションを2021年1月に設立しており、同社を通じて出資した。ウォルマートは経営権を手放すが引き続き15%を保有する。

 KKR、楽天、ウォルマートの3社が出資するのは、正確には西友の親会社であるSYホールディングス。西友の親会社であったウォルマート・ジャパン・ホールディングスは西友ホールディングスに商号変更しSYホールディングスの子会社となっている。

 株式取得にあたって西友の企業価値は1725億円と算定した。取得額は非公表だが、一部報道ではウォルマートは300億円で売却を打診したとされる。ウォルマートは西友買収に総額2500億円を投じたが、この売却で多額の損失を計上することになった。

 世界有数の投資ファンドKKRは日本での投資も活発だ。最近では17年に日産自動車の子会社だった自動車部品のカルソニックカンセイを買収したほか、日立グループの電動工具メーカー、日立工機(現・工機ホールディングス)を買収した。

 新体制への移行に伴い経営トップも交代した。社長兼最高経営責任者(CEO)に元セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員の大久保恒夫氏が就き、前任者のリオネル・デスクリー氏は退任しウォルマートに復帰した。大久保氏はSYホールディングスの代表取締役も兼ねる。SYホールディングス取締役には、KKRの谷田川英治氏や楽天の武田和徳氏などが派遣されている。

西友がウォルマート傘下に入った経緯

 そもそも西友はどのような経緯でウォルマート傘下に入ったのか。

 西友は1956年、西武グループの西武百貨店が西武ストアーを設立したのがはじまりで、63年に西友ストアーが設立された。その生い立ちから西武線沿線への出店が進められた。その後、西武グループから流通部門が分裂しセゾングループとなる。西武百貨店と西友はその中核企業となった。西のダイエー、東の西友と呼ばれるほど勢力を拡大したときもあった。

 セゾングループは西武百貨店や西友をはじめ、ファミリーマート、良品計画、パルコなど一大企業集団を形成した。「無印良品」は西友のPBから発展したものだし、ファミリマートも西友のコンビニエンスストア事業から始まった。グループは流通業だけでなく、金融業やホテルのほか文化事業にまで及んだ。

 しかしバブル崩壊後、グループのノンバンクの不良債権問題や、不動産会社の過剰投資による多額の負債によりグループは解体に追い込まれていった。

 西友はグループの不良債権処理の過程で、ファミリーマートや良品計画などの保有株式を売却することになった。業績が低迷し財政状態も悪化するなか、2000年に提携したのが住友商事だ。住商は西友の筆頭株主となった。

 ウォルマートは1990年代から海外事業を展開しており、日本進出をうかがっていた。ウォルマートは住商の仲介で2002年、西友と業務・資本提携した。西友は世界最大の小売業であるウォルマートの下で業績改善を目指した。ウォルマートはこれ以降、段階的に出資比率を高め、08年に西友を完全子会社化した。

ウォルマート傘下でも西友の業績は回復せず

 この間、西友のウォルマート化が進んだ。看板政策のエブリデー・ロー・プライス(毎日低価格)をはじめ、流通業界で先端を走っていた情報システム、低コスト運営方式などが導入されていった。しかし、西友の業績が改善することはなかった。

 米国ではウォルマートが急成長を遂げる中でスーパーをなぎ倒していったことから戦々恐々としていた日本国内のスーパーも、ウォルマート・西友を次第に脅威と見なさなくなっていった。

 ウォルマートは日本での売上規模の拡大を図ろうと同業他社の買収を目指し各地のスーパーに打診を重ねたが、実現することはなかった。手詰まり感は明らかで、ウォルマートの日本撤退観測も絶えなかった。

 西友への出資から18年。ウォルマートの日本事業は事実上幕を閉じた。ウォルマートのグローバル調達網から商品を調達している西友は、15%を保有するウォルマートと商品調達先としての取引関係を続ける。

 もっとも、ウォルマートの海外事業は進出国からの撤退が相次いでいる。06年にドイツと韓国、18年にブラジル、20年にはイギリスからそれぞれ撤退した。同年11月にはアルゼンチンからの撤退を発表したばかり。残っているのは中米、インド、中国、南アフリカなどだ。

 撤退するのは各国の個別事情によるが、背景には米アマゾン・ドット・コムとの戦いに経営資源を集中させる狙いがあるとみられている。アマゾンとの戦いに心血を注ぐウォルマートは、18年に社名から「ストアーズ」を外した。EC強化を打ち出し、実店舗にこだわらない姿勢を明確にするためだ。

西友に出資する楽天の狙い

 一方、楽天は18年、ウォルマートと提携。楽天と西友の合弁会社を通じてネットスーパー事業「楽天西友ネットスーパー」を運営してきた。コロナ下での外出自粛の影響で、楽天西友ネットスーパーの20年度第4四半期の流通総額は前年同期比約40%増になったという。

 ネットスーパーの需要拡大に応えるため、21年1月に神奈川県横浜市で専用物流センターの稼働を開始した。年内に大阪府茨木市でも新たな専用物流センターの稼働を開始する予定だ。

 大手スーパーはどこもネットスーパー事業を強化している。イオンは英ネットスーパー大手のオカドと提携し大型自動倉庫を23年に稼働させる計画だし、食品スーパー大手のライフコーポレーションはアマゾンと組んでいる。

 こうしたなか、楽天もネットスーパー事業を強化する方向だが、今回の西友への出資を機に力を入れるのが実店舗のデジタル化だ。楽天が今年1月に設立した楽天DXソリューションは国内で実店舗を運営する小売業向けのDX支援を狙いとする。西友のDX支援で得た知見やノウハウを他の小売業のDXにも生かす考えだ。

 DXの例として挙げるのが、アプリを利用した買い物・決済・配達、新たなキャッシュレス決済の導入、オンラインと実店舗を融合したサービスなどだ。楽天はEC、金融、通信など70以上の事業を展開し「楽天経済圏」を形成する。西友とのネットスーパー、DXで楽天経済圏のさらなる拡張を目指そうとしている。

 だが、西友の課題はデジタル化というより経営の立て直しだ。

西友の再生への道のりはどうなるか

大久保・西友新社長は流通業界の再建請負人

 西友再生を託されたのが新CEOの大久保氏だ。大久保氏は1979年にイトーヨーカ堂に入社後、藤沢店、茅ヶ崎店のダイニング家庭用品担当となり、その後81年経営政策室経営開発部で経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして構造改革に取り組んだ。

 退社後コンサルティング会社やシンクタンクを経て、流通業向けのコンサルティング会社リテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリングや良品計画のコンサルティングに携わったほか、2003年には九州地盤のドラッグストア、ドラッグイレブンの社長、07年には関東地盤の食品スーパー、成城石井の社長に就任した。11年にセブン&アイ・フードシステムの社長、13年にセブン&アイ・ホールディングス常務執行役員に就いた。

 これまでの西友トップは、エドワード・カレジェッスキー氏、野田亨氏、スティーブ・デイカス氏、上垣内猛氏、リオネル・デスクリー氏など、商社や外資系消費財メーカー、海外小売業などの出身者で占められていた。

 これに対して大久保氏は小売業のコンサル経験だけでなく経営経験を持ち、現場である売場にも精通している。投資ファンドから企業再生を請け負ったケースがドラッグイレブン。大久保氏は美容部員を育成して化粧品のPBをヒット商品に仕立て上げるなどして再生につなげた。

 業績が悪化していた成城石井では社長に就くと経営改革に着手。初年度から営業利益を伸ばし、業界平均を上回る営業利益率にまで引き上げた。

 KKRは西友再上場を目指すとしているが、どのような出口戦略を描くにしても西友の企業価値をどう高めていくかが最大の課題だ。

 大久保氏が手掛けた改革アプローチは正攻法だ。売場を重視し現場の実行力を向上させるマネジメントと仕組みづくりに力点を置き、売場と商品開発の改革を行う。コンサルタントとしてかかわった企業でも、社長として経営にあたった企業でもこうした手法で成果を上げてきた。西友でもこれを踏襲するとすれば、ウォルマート流とは異なる姿がみられることになるだろう。

店舗閉鎖、人員削減が進む可能性も

 西友によると、20年度は過去10年間で最高水準の売上高と収益率を達成した。売上高は前年度比5・6%増の7850億円、EBITDA(償却前利益)は売上高比約5%だった。コロナ下で在宅機会が増えたことにより、スーパーは食品や日用品の販売が伸び総じて業績好調だ。西友もそうした追い風を受けた。ただ、親会社の西友ホールディングスの20年度決算公告をみると最終利益は低水準にとどまる。

 西友は体力が衰えているとはいえ8千億円という国内有数の売上規模を誇る。規模が大きいほど小売業の再生は容易ではない。西友は全国に300店舗超を展開するが、老朽化した店舗も多い。店舗年齢を若返らせることは競争力に直結するだけに再生に向けて避けて通れない課題だ。

 今後、店舗閉鎖や人員削減に手をつける可能性もある。西友再生は多難な道となりそうだ。