コロナ禍で口座数が急増 若者の株式投資ブーム到来
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新型コロナウイルスの流行で先が見通せなくなった日本経済。しかし将来への不安は、将来への備えにつながる。これまでは「備え=貯蓄」であり、それが日本の高い貯蓄率につながったが、若い世代を中心に「備え=投資」が広まってきた。特にネット証券に多くの若者が集まっている。文=関 慎夫(『経済界』2020年9月号より転載)

若者が株式投資に関心を持ち始めた背景

活況を呈すネット証券

 「4月に緊急事態宣言が発令され、仕事はテレワークに。通勤していた時に比べて時間の余裕ができた。しかも夜も出歩くわけにはいかない。そこで料理と株式投資を新たに始めた」(20代の商社マン)

 百貨店や旅行など、新型コロナウイルスによって経済的に大打撃を受けた業界・業種は数多い。その一方で活況を呈しているのがネット証券業界だ。コロナ禍のため人との接触を嫌ってネット証券に移行したこともあるが、それ以上に冒頭の言葉にもあるように、若い人が証券投資に興味を持ち、口座を開いているのだ。

 SBI証券は、新型コロナの流行が本格化した3月だけで個人証券口座数が13万口座増えた。1年間では約80万口座増え、その結果、前3月期末における口座数は542万口座となり、長年王座として君臨してきた野村證券を上回った。

 SBI証券以上に勢いがあるのが楽天証券で、3月だけで16万口座増え、口座数も400万を突破した。それを支えているのが若い世代で、4年前は20代以下が21・9%だったものが、29・4%に、30代以下は51・0%から61・0%へと増加した。

若者の背中を押した老後資金不安とコロナ

 若い世代の株への関心の高まりは今に始まったことではない。大きなきっかけになったのが、ちょうど1年前、「老後資金が総額で2千万円不足する」と金融庁が試算を発表したことだった。予想以上の少子高齢化の進行で、若い世代ほど将来の年金に不安を感じている。それが、現時点でさえ2千万円も足りないなら、老後資金を若いうちから用意しなければならないことを、多くの人が現実問題として意識した。

 もともと土壌は整いつつあった。15年には年間120万円までの株式投資に対するリターンが非課税になる「一般NISA」が、18年には年間20万円までの投資信託自動積立が20年間非課税になる「つみたてNISA」が始まっている。

 「一般NISAは5年間で口座数が1300万を突破、積み立てNISAは170万。その7割が20~40代」(鈴木茂晴・日本証券業業界会長)

 このように制度面での整備が進んできたところに、年金不足2千万円問題が起き、さらにはコロナ禍が拍車をかけたのだ。

コロナ禍で口座数が急増 若者の株式投資ブーム到来
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スマホによる株式投資も追い風に

 さらにここにきて、スマホで株式売買が容易になったことも、若い世代の「株式投資ブーム」の追い風となっている。

 ネット証券のトップを走るSBIは昨年4月、カルチュア・コンビニエンス・クラブと合弁でSBIネオモバイル証券を開業した。その名のとおり、スマホ取引に特化した証券会社で、1株から株を売買可能とするなど、株初心者が容易に取引を始められることを謳い文句としていた。

 続いて8月には、LINEが証券取引に参入した。LINEは提供するすべてのサービスをスマホ上で行えることを最大の武器にしているが、証券分野では、野村證券と提携、LINE51%、野村49%でLINE証券を設立した。LINE証券では、1株単位・数百円から、投資信託なら最低100円から1円単位での投資が可能だ。

 しかも投資信託の購入手数料は0円、株式売買の手数料も0・05%からと、株式投資へのハードルを大きく下げた。手数料が安いだけでなく、口座開設時にクイズに答えると株の購入代金をもらえたり、特定株を時間限定で割り引くタイムセールも実施するなど、従来の証券会社にはない発想のサービスを提供し話題を呼んだ。

 他にも大和証券グループ本社がスマホ専用証券会社コネクトを設立、今年7月からサービスを開始するなど、スマホ証券は、最近の証券業界のトレンドのひとつとなっている。

 「スマホ証券がこれまで証券投資にあまり興味のない人が投資を始めるきっかけになる可能性は十分ある。顧客にニーズが非常に多様化している中で、それに対応することは非常に重要だ」(鈴木茂晴・日本証券業協会会長)

 これまで証券会社は「貯蓄から投資へ」と呼び掛け、さまざまなキャンペーンを行ってきた。それでも日本の個人金融資産1800兆円に占める現預金の比率は51・9%を占めるのに対し、株式や投資信託などは16・4%(19年12月末現在)にとどまる。それでも1年前に比べれば、金額ベースで10%以上伸びるなど、ここにきて、ようやく「投資へ」の動きが本格化しつつある。

若者の株式投資ブームは続くのか

 問題は、相場がどうなるかだ。コロナ禍が本格化した2月以降、ニューヨークダウは1千ドル単位で何日も下落した。そのため2月12日に2万9551ドルだったものが3月23日には1万8591ドルにまで下がったが、直近では2万5千ドル台まで値を戻している。日本でも今年最高値の2万4083円(1月20日)が1万6552円(3月19日)となり、直近では2万2千円台だ。

 今の株価は実態経済は全く反映していないが、世界各国の中央銀行が資金を大量につぎ込んだことで、それが株式市場に流れ込んでいる。また日本の場合は中国の支配が強まる香港市場から逃げ出した資金が日本の株式市場に流れ込んでいるとの指摘がある。

 いずれにせよ、株式市場がコロナショックからいち早く立ち直ったこと、そしてカネ余りの状況が今後も続くと予想されることが安心材料となり、株式投資に人気が集まっている。

 ただし、長年、金融業界を見てきた経営者は「今の若い人は2度のバブル崩壊を知らないから」と警鐘を鳴らす。1989年末をピークとする株式バブルからは既に30年が経過した。ITバブル崩壊からも間もなく20年だ。いずれの時も株式投資がブームとなったが、破裂とともに資金は引き上げられた。

 今度はどうなるか。そして一時的に株価が下落しても「長い目で見れば投資のほうがリターンが大きい」と若い人たちが考えられるかどうか。それ次第で、「貯蓄から投資へ」が本格化するかどうかが決まる。