中小企業,補助金10選,タイミング
(写真=thitikan chuachan/Shutterstock.com)

手続きが煩雑なことから、補助金の申請をあきらめてしまう経営者は少なくない。しかし、賢く活用すれば補助金は事業の追い風となるだろう。今回は中小企業が使える補助金をピックアップし、補助金額・応募資格などを含めて詳しく解説していく。

補助金とは?

補助金とは、特定の取り組みをする事業者に対して政府が交付する金銭のことだ。補助金の種類は様々で、以下のようなものがある。

・創業する事業者に交付される補助金
・事業承継した事業者に交付される補助金
・消費税率10%に対応する取り組みを行った事業者に交付される補助金

補助金と助成金はどう違う?

補助金とよく似たものに、助成金がある。両者の共通点は、支払者が公的機関であること、返済義務がないこと、補助金・助成金ごとに公募が行われ、申請した事業者が交付を受けられることなどである。

重要なのは、どちらも後払いであることだ。日本政策金融公庫や金融機関からの借入とは異なり、補助金や助成金はあくまで実際にかかった費用の一部を補助し、負担を軽減するために交付される。一旦はかかる費用をすべて自分で負担する必要があることを理解したうえで、補助金や助成金の活用を検討したい。

このように、補助金と助成金は共通点も多いが、違いもある。

交付金額と難易度の違い

助成金は助成される内容や応募条件が明確なものが多く、条件を満たせば交付を受けられるが、補助金と比較すると、金額はやや見劣りするものが多い。

補助金は助成金と比べると種類が多く、交付される金額も総じて高めだ。一方で補助金の公募では審査があり、助成金と比べると交付される要件も厳しい。応募資格を満たすのはもちろんのこと、審査において事業をうまくアピールすることが補助金の交付を受けるうえで重要となる。

管轄の違い

助成金は主に厚生労働省の管轄で、雇用関係のものが多い。一方補助金は主に経済産業省の管轄で、国の政策を実現するためのものが多い。最近では補助金ごとに事務局を設置したり、一般社団法人が運営を委託されていたりしているが、元をたどれば経済産業省が実施しているものがほとんどだ。

補助金が使えるタイミングは?

補助金の種類によって内容や応募資格は異なるものの、補助金を活用できるタイミングは主に以下の5つに分けられる。

起業する

多くの起業家にとって、資金調達は難関だ。アイディアや志があっても、資金調達で苦戦し退場していく起業家も多い。最初の関門である起業時の資金調達を支援するため、政府は補助金の公募を行うことがある。起業時は資金が多いに越したことはないので、積極的に活用したい。

新規事業を行う

起業と比べるとリスクは小さいが、新規事業の開始も企業にとって大きなチャレンジとなる。新規事業を行うためには、設備投資などの初期費用、人件費などの固定費が新たに発生することも多い。そこで、企業の積極的な挑戦を促し成長のチャンスを与えるため、補助金の公募が行われることがある。特に政府が推進している事業は公募の対象となることが多いため、政策動向などもチェックしておきたい。

雇用する

雇用の創出は、国民生活を維持するうえで重要な課題だ。また人材の確保は、企業にとっても成長のチャンスとなり得る。雇用関係は助成金のほうが種類は多いが、補助金の対象となる場合もあるため、必要に応じて情報を収集し活用していきたい。

設備投資を行う

設備投資の際、補助金の活用を考える経営者は多い。取引業者から補助金の対象となる設備投資の営業を受けることもあるだろう。国の政策に沿った設備投資は、確かに補助金の交付を受けるチャンスだ。しかし、業者の言う通りに設備投資を行ったものの、補助金の審査で落ちてしまうというケースもあるため、自分で情報を収集し慎重に進めていくことが大切だ。

法規制の変更時

法規制の変更に伴い企業に設備投資などの負担が発生する場合、政府は負担軽減措置として補助金を交付することがある。その情報を知らず申請手続きをしなければ補助金を受け取ることはできないので、法規制の変更時には特に注意しておこう。

補助金が使える中小企業の定義

補助金は政府が事業者を支援する取り組みであり、大企業のみが対象になることはほとんどない。そのため、中小企業であれば基本的にチャンスがあると言える。

しかし、自社が補助金の対象となる中小企業かどうかは、しっかり確認しておかなければならない。補助金の対象となる中小企業は一般論でいう中小企業ではなく、中小企業基本法によって定められた下記の要件を満たす企業である。

中小企業者
(下記のいずれかを満たす)
小規模企業者
資本金の額または出資の総額 常時使用する従業員の数 常時使用する従業員の数
①製造業、建設業、運輸業
②~④を除くその他の事業
3億円以下 300人以下 20人以下
②卸売業 1億円以下 100人以下 5人以下
③サービス業 5,000万円以下 100人以下 5人以下
④小売業 5,000万円以下 50人以下 5人以下

「資本金の額または出資総額」は、決算書を見れば確認できる。悩ましいのが「常時使用する従業員の数」だ。

常時使用する従業員とは、「解雇の予告を必要とする者」と定義されている。労働基準法では、解雇の予告が必要ないのは「日雇い労働者」「2ヵ月以内の期間を定めて雇用される者」「4ヵ月以内の期間を定めて雇用される季節労働者」「雇い入れから14日以内の使用期間中の者」とされている。

つまりパートやアルバイトであっても、基本的には常時使用する従業員の人数に含めなければならない。なお、個人事業主本人や役員は解雇の予告を必要としないため、この人数には含まれない。

補助金の種類によっては、業種業態や事業内容、都道府県からの認定、地域など様々な要件が設けられていることがある。応募資格は最初の関門なので、きちんと確認してから申請手続きを進めたい。

中小企業が使える補助金10選

中小企業が使える補助金のうち、代表的なものを厳選して紹介する。2019年の募集は終了してしまったものもあるが、二次募集が行われたり、来年の同時期に募集が再開されたりする可能性が高いので、事業計画のスケジュールと照らし合わせチェックしてみよう。

地域創造的起業補助金

創業補助金とも言われる、新たに事業を開始する事業者に対して交付される補助金。直近では2018年の4月から5月に公募が行われている。

対象となるのは認定市区町村での創業なので、まずは創業したい地域が認定市区町村に該当するかを確認する必要がある。前回の公募では全国1,379市区町村が認定市区町村となっていたため、該当する可能性は決して低くない。

また、商工会議所など認定創業支援事業者による支援を受けていることも要件の一つだ。創業したい場所が認定市区町村に該当することを確かめたら、補助金と併せて市町村の窓口に相談するといいだろう。

補助金額:外部資金調達ありの場合は50万円から100万円、外部資金調達なしの場合は50万円から200万円
補助率:2分の1
応募期間:4月から5月
応募資格:新たに創業する中小企業・小規模事業者等
URL:http://www.cs-kigyou.jp/

小規模事業者持続化補助金

持続的な経営計画に基づく生産性向上や、販路拡大の取り組みを行っている小規模事業者を支援する補助金。対象は小規模事業者であり、中小企業は含まれない。また、商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいることが条件だ。

直近では2019年の4月から6月に公募が行われている。経営計画を作成する前から、補助金の申請も含めて商工会議所に相談しながら進めると安心だ。全国で多数の採択者が出ているため、新たな取り組みをする際には一度相談しておきたい。

補助金額:最大50万円
補助率:3分の2
応募期間:4月から6月
応募資格:商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいる小規模事業者
URL:https://h30.jizokukahojokin.info/

ものづくり補助金

革新的サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資を支援する補助金。一事業者ではなく共同で応募する必要があるため、要件はやや厳しい。ただし金額が大きいため、審査に通れば大きく負担が軽減されることは間違いないだろう。

直近では2019年の4月から6月に公募が行われている。補助金の交付を受けるには、3年から5年で付加価値額3%以上、経常利益率1%以上を達成できる計画であることなど、細かな要件を満たす必要がある。

補助金額:100万円から2,000万円
補助率:2分の1(一定の要件を満たせば3分の2)
応募期間:4月から6月
応募資格:中小企業・小規模事業者など
URL:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2019/190423mono.htm

IT導入補助金

自社の課題を解決するための、ITツールの導入にかかる経費を負担してくれる補助金。直近では2019年4月から8月の間に公募が行われている。一元管理システムや自動化ツール、情報共有システムなど様々なソフトウェアの導入費用が対象となる。

申請は、IT導入支援事業者と共同で行わなければならない。IT導入支援事業者は、ホームページで業種・営業エリアなどをもとに検索できる。

最近は、IT化によって人員削減や生産性向上を実現した事例が数多くある。補助金を活用し、思い切った経営改善に取り組むことは効果的な施策と言えるだろう。

補助金額:40万円から450万円
補助率:2分の1
応募期間:4月から8月
応募資格:中小企業・小規模事業者など
URL:https://www.it-hojo.jp/

観光経営力強化事業

東京都内で観光関連事業を営む事業者に対して、商品開発・販路拡大・設備導入による生産性向上を幅広く支援する補助金。外国人向け体験型コンテンツの開発といった取り組みも、補助金の交付対象となる。

地域は東京都、業態は観光関連事業と限定されてはいるが、条件を満たすなら挑戦したい。公募は2019年7月に始まり、9月2日まで申請できる。インバウンドの増加で、観光関連事業の未来は明るいと言われている。今後の需要増加を見越して、観光関連事業に乗り出すのも一案だろう。

補助金額:50万円から1,500万円
補助率:2分の1
応募期間:7月から9月2日(現在公募中)
応募資格:観光関連事業を営む都内の中小企業者・小規模事業者など
URL:http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/tourism/kakusyu/management/

手ぶら観光事業

こちらも観光事業推進に関する補助金だ。観光客が大きな荷物を持ち運ぶ不便を解消するための、荷物一時預かりサービス・配送サービスなどが補助金の交付対象となる。サービス開始にともなう改修費用や設備投資費用、多言語化に要する費用について最大3分の1を補助するもので、補助金額に上限はない。

国土交通省が実施する支援事業であり、全国の事業者が補助金の交付対象となる。交付を受けるには、「手ぶら観光」共通ロゴマークの認定が必要だ。認定には、当日・翌日配送であること、英語に対応していること、料金体系を明示していることなどの要件がある。

補助金額:上限なし
補助率:3分の1
応募期間:4月から10月31日(現在公募中)
応募資格:「手ぶら観光」共通ロゴマークの認定を受けた民間事業者
URL:http://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000441.html

エネルギー使用合理化等事業者支援事業

工場・事業場単位、もしくは設備単位での省エネルギー投資を支援するための補助金。直近では2019年5月から6月まで公募が行われた。中小企業だけでなく大企業も対象となる補助金で、補助金額や補助率は、設備投資の種類や企業規模によって細かく定められている。

工場・事業場単位で取り組むなら、省エネ設備導入による省エネルギー率の変化などの効果を数値で示さなければならない。設備単位で取り組むなら、高性能ボイラや産業ヒートポンプなど対象設備を省エネ設備に更新する必要がある。省エネ設備の導入は初期コストがかかるものの、長い目で見れば光熱費を節約できる。省エネ設備の導入を検討しているなら、積極的に補助金を活用したい。

補助金額:30万円から30億円
補助率:2分の1、3分の1、4分の1など
応募期間:5月から6月
応募資格:国内で事業を営む法人、個人事業主
URL:https://sii.or.jp/cutback31/overview.html

健康寿命延伸産業創出推進事業補助金

生活習慣病やフレイル・認知症予防、地域包括ケアシステムの構築に寄与する事業に対して交付される補助金。直近では2019年5月から6月まで公募が行われた。

医療・介護事業者と連携していることなど、要件が細かく設定されている。採択件数が10件程度と狭き門だが、ヘルスケアに関する分野に取り組むなら申請を検討したい。

補助金額:最大1,500万円
補助率:2分の1
応募期間:5月から6月
応募資格:複数の事業者で連携する体制をとっている代表団体、参加団体、協力団体など
URL:https://www.seedplanning.co.jp/-/kenkoujyumyou/kobo.html

軽減税率対策補助金

軽減税率対応レジの導入や受発注システム・請求書管理システムの改修など、軽減税率の対応にかかる費用を軽減するための補助金。補助金額はレジや券売機なら20万円以内、受発注システムなら1,000万円以内など項目によって細かく設定されている。

軽減税率への対応が必要な場合は対象となる可能性が高いため、早めに申請を検討したい。補助対象となる期間は軽減税率制度開始日の前日の9月30日までだが、申請受付は2019年12月16日までであり、まだ少し余裕がある。

補助金額:レジや券売機20万円まで 、システム1,000万円までなど項目によって異なる
補助率:2分の1、4分の3、5分の4など
応募期間:補助対象期間は2019年9月30日まで、申請受付期間は2019年12月16日まで
応募資格:軽減税率制度への対応が必要となる中小企業・小規模事業者など
URL:http://kzt-hojo.jp/

事業承継補助金

後継者が事業を承継した場合や、M&Aによって事業承継が行われた場合に交付される補助金。直近では2019年7月に公募が行われた。補助金を受けられるのは、地域経済に貢献している事業者だ。たとえば雇用の創出や域内仕入、インバウンドによる域内需要の増加など、地域経済に寄与する事業を営んでいる必要がある。

補助対象となる経費は、設備投資費用・人件費・外注費・原材料費・謝金・旅費・マーケティング調査費・広報費など多岐にわたる。事業承継を予定しているなら、早めに検討しておきたい。

補助金額:100万円から600万円(事業承継の種類や事業者の規模によって異なる)
補助率:2分の1,3分の2
応募期間:7月
応募資格:事業を引き継いだ中小企業・小規模事業者など
URL:https://www.shokei-hojo.jp/

公募期間が短いものもあるので積極的な情報収集が大切

補助金は「難しそう、手続きが面倒」という理由で敬遠している人もいるだろう。しかし、せっかく前向きな取り組みを行っているに、補助金を活用しないのはもったいない。

補助金の活用によって新たな取り組みに成功すれば、企業として成長できるうえに、さらなる事業拡大を目指すこともできる。補助金というリソースを効果的に活用し、良いサイクルで発展していくことが望ましい。

補助金の情報はホームページで公開されているため、自宅でも十分情報を収集できる。政策動向や制度変更などについて情報を収集しつつ、現在自分が営んでいる事業で補助金を活用することを念頭に置いて行動してみてはいかがだろうか。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)