今こそ「らしさ」に立ち返ろう。必ず企業も日本も元気になる 湖池屋 佐藤 章
佐藤 章 湖池屋社長 (画像=経済界)

ポテトチップスの老舗・湖池屋。2016年に社長に就任した佐藤章氏は、飲料メーカー・キリンで「FIRE」や「生茶」などヒット商品を生み出したマーケターとして有名だ。湖池屋でも個性的な商品を立て続けに送り出し、老舗の新時代を切り拓く。消費者の心と向き合い続けた佐藤社長が、人と組織の育て方、日本社会への思いを語った。聞き手=和田一樹 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2022年9月号より)

佐藤 章 湖池屋社長
さとう・あきら 1959年東京都生まれ。82年早稲田大学卒業後、キリンビールに入社。97年キリンビバレッジ商品企画部に出向。缶コーヒー「FIRE」「生茶」などのヒット商品を開発。2008年キリンビールへ戻り、九州統括本部長などを経て、14年キリンビバレッジ社長に就任。16年フレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月から現職。

老舗お菓子メーカーの「プライド」を取り戻せ

―― 社長就任初年度の2017年6月期決算で約3億4千万円だった営業利益が、21年6月期には約16億6千万円と大きく成長しています。「カラムーチョ」や「ドンタコス」など、ロングセラーの多い伝統ある企業のトップに就任し、何から取り組んだのでしょうか。

佐藤 社長就任は16年9月でしたが、5月から執行役員として湖池屋にきました。1953年に創業した湖池屋は創業者の小池和夫さんが62年に「ポテトチップスのり塩」を発明し、67年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した老舗企業です。

 しかし、私が最初に感じたのは、みんなが自信を失っている様子でした。追いかけてきた他社との価格戦略に巻き込まれ、会社全体が疲弊し、お客さまよりも競合の動きばかり気にするようになっていたのです。この雰囲気を「ぶっ壊す」ような、大胆な変化が必要だと感じました。

 ですから、こう言っては当たり前に聞こえるかもしれませんが、お客さまに向き合い、お客さまに喜んでいただける高品質な商品を作れば、必ず選んでいただける。それをみんなに再認識してもらうことから始めました。

 そこで、まずは失いかけていた湖池屋らしさを取り戻すリブランディングに取り組みました。コーポレートマークは、湖池屋の「湖」の字を慶事の亀甲マークの中心に置くデザインに変更。スローガンは、70年代に放映していたテレビコマーシャルからヒントを得て、「イケイケGOGO!」としました。これは「新しいほうへ、イケイケ!」、「難しいほうへ、イケイケ!」、「面白いほうへ、イケイケ!」と目指すべき姿を重ねています。他にも、新たな湖池屋の心構えをまとめた冊子を全社員に配布し、社章や名刺、紙袋、封筒に至るまですべてを刷新しました。

―― 佐藤体制の第一弾商品は「KOIKEYA PRIDE POTATO」(プライドポテト)でした。どんな思いがあったのですか。

佐藤 湖池屋はポテトチップスのパイオニアです。新体制で最初に送り出す新商品「プライドポテト」は、使用するじゃがいもを国産100%とし、皮のむき方、揚げ方、厚さ、油の種類、味付けの仕上げまでこだわり抜こうと決めました。まさに湖池屋のプライドをかけたポテトチップスです。

 企業全体のリブランディングで重要なことは、変わっていく様子を社員たちが実感できるようにすることです。社内を磨き、お客さまに届ける商品も磨き、次々とポイントを変えながらあちこちを磨き続ける。すると、社員の意識と行動が変わっていき、やがて自然と前向きな推進力が生まれます。

―― 変化の自覚が組織の雰囲気を変えるとのことですが、では人が成長するポイントは何でしょうか。

佐藤 人の成長は、いかに外からの刺激に応えられるかで決まると考えています。多くの人に出会うこと。そして出会いに触発され、素直に自分を変え続けること。人の成長はこれに尽きます。

 キャリアについても、あまり役割を固定せずに10年間で3つくらいの業務を経験できると良いと感じます。場数の分だけ出会う人が増えますし、出会いを通して自身の向き不向きが炙り出されるように見えてきます。

 特に若い世代に伝えるようにしているのは、朝令暮改ならぬ朝令朝改でもいいから、たくさん刺激を受けて日々変わっていくことを大事にしてほしいということです。例えそれが遠回りになっても、その経験が人生の引き出しになります。ある時、どの引き出しから何を取ればいいか分かるようになる。これが成長です。

―― 佐藤社長は1959年生まれですが、若い社員と接するときに気を付けていることはありますか。

佐藤 世の中的には、若い世代は自分たち世代のように叱ってはいけない、なんて声もありますが、私は必ずしもそうではないと思っています。

 湖池屋には、毎月数回のブランド戦略会議という場があります。会長と私を含めた役員。そして営業とマーケティングの両部門からメンバーが参加し、商品について激論を交わす場です。品質を担保している真剣勝負の場所ですから、私もダメ出しすべきだと思った場合は、遠慮なしで指摘します。

 真剣だからこそ厳しい言い方にもなりますが、得心できるような例えを出したり、自問自答を促すような言い方をしたりすれば、若い世代の社員もしっかり聞いてくれます。中には、しばらくしてから私のところへ来て、「また考えてきました」とリベンジマッチを申し込んでくれる頼もしい子もいます。そうやって虎の穴から這い上がってくる人たちがすくすくと伸びています。

町人文化と「和の経営」日本人の強みを思い出そう

今こそ「らしさ」に立ち返ろう。必ず企業も日本も元気になる 湖池屋 佐藤 章
佐藤章 湖池屋GOKOCHIベトナム (画像=経済界)

―― 商品開発は、一定の水準を超えると「あとは好み次第」という領域になってしまわないのでしょうか。

佐藤 時代のキーワードに合致しているかが検証材料です。例えば、コロナ禍に「湖池屋STRONG」という商品を発売しました。この商品はコロナの「ストレス解消」がキーワードです。試作品があがってくるたびに、味や商品名が「ストレス解消」につながるか議論を重ねました。その結果、パウダーがたっぷりかかった濃厚でたまらなくジャンクなポテトチップスに仕上がり、コロナで鬱屈とした気持ちを吹き飛ばすヒット商品になりました。

 このように、好み次第と言ってしまう前に、コンセプトを突き詰めると共通言語が生まれます。時には、味を作り上げる商品開発チームから、「もっと別の言葉で表現してほしい!」なんて要望も出ます。ワインの風味の表現に、フラワリーとかグレープフルーツ香があるとか、独特な言い回しがあるように、湖池屋の場合は「青梅街道にある、あの中華料理屋さんのあんかけチャーハンの味だよ!」など、こだわり抜いた表現が飛び出すこともあります。

―― 信頼関係があってこそのコミュニケーションですね。

佐藤 そうですね。私はこうした家族のようなやり取りを大事にする経営の強さを実感しています。和の経営というのでしょうか。もちろんMBAのような欧米の経営理論にも良さはあります。私もマーケターですから、フィリップ・コトラーさんの著書はたくさん読んできました。

 でもやっぱり、日本人は家族的な和の経営に強みがあるように感じます。和の経営とは、言い換えれば横のつながりを大事にする町人文化です。長屋でみんなが集まって井戸端会議をしながら、「よし一丁やってみるか」と声を掛け合う。そんな雰囲気です。

―― バブル崩壊後、日本経済は長らく停滞しました。昨今も止まらない円安や少子高齢化など暗い話題が多いです。今でも日本らしさは武器になるのでしょうか。

佐藤 絶対に大丈夫です。むしろ苦しい状況で新しいものを生み出すことこそ日本人は得意なはずです。

 私はキリン時代を含めて人間の味覚に向き合い続けてきました。日本人の味覚の鋭さをよく知っています。「あわれ。ほのか。名残惜しい。去り行く季節を惜しみ、次に来る季節を心待ちにする」。こうした茶の湯の心があるからこそ、旬の風味をとらえる感性が日本人にはあります。

 近年、日本国内のお客さまに支持を受けた味やデザインのセンスが、東南アジアやヨーロッパでも通用するケースをよく目にします。湖池屋も「PURE POTATO じゃがいも心地」をベトナムで販売していますが、メインネームは日本名の「心地(GOKOCHI)」です。パッケージも同じくオホーツクの塩と岩塩の水色です。日本同様にチップスの厚みやシンプルな味付けが受け入れられ、ベトナムの方が「ゴコチ!」と呼んでくれています。

 特に食品の場合、郷に入っては郷に従えということで、現地の人たちのメンタリティや食習慣に合わせるべきだとよく言いますが、日本で評価された魅力が、そのまま海外で通用する可能性に気づかされました。

 魯山人が「旨いは甘い」と言ったように、いい水分、いい養分を取ると人は笑顔になります。世界的に下を向きたくなるニュースが多い時代だからこそ、お菓子メーカーの意地が試されていると感じます。

発明や新発見が世界をどんどん面白くする

―― 多くの産業が成熟した日本でも、強烈な個性を持つ商品を生み出し続ける秘訣は何ですか。

佐藤 最近、世に出てくるさまざまな新商品を見ていて感じるのは、ややセオリー通りの「順目」に行き過ぎるきらいがあるということです。マーケティングの時代だと言われて久しく、関連書籍もたくさんあります。ビジネスマンの多くがマーケティングの基本を学んでいます。すると、同じような解析手法を用いることが増え、そこから生み出されるアウトプットがどこか似通ってきます。

 もちろんロジカルな説得力は必要ですが、マーケティングの定石に、「そうきたか」というサプライズも盛り込んでいかないといけません。言ってみれば、「逆目」の商品開発です。そういうアウトプットを狙っていかないと、既視感のオンパレードではお客さまは飽きてしまい、新たな需要は起きなくなってしまいます。

 やはり世の中を面白くするのは、発明や新発見です。あっと驚くような新商品が、そう簡単には生まれないことは身をもって知っているつもりです。それでも、われわれのグループ会社の日清食品ホールディングスがカップラーメンを開発したり、ソニーがウォークマンを作ったり、そういうダイナミズムをいつの時代も追い求める気持ちは忘れちゃいけないと感じます。

 湖池屋も、商品開発において日本人は絶対に負けないんだという気概を持ってやり抜きたいと思います。あとは、ほんの少しのやせ我慢かな(笑)。諦めなければ必ず成し遂げられる。そう信じています。